剣と魔法の世界にある学園都市でロリが大冒険するやつ5(#えるどれ)

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帽子男 @alkali_acid

後は皆で居間に集まって、暖炉の火の前で妖精の書を読む。 少女が朗読する間、小鳥は頭の上に乗って、蝙蝠は左肩に止まって、犬は足元にうずくまって、猫は離れて窓の外を見ながら聞いている。

2020-05-02 18:51:03
帽子男 @alkali_acid

暗い膚に尖り耳の小柄な娘は、ふと上妖精語の誦句をとぎらせ、すこし間をおいてからぽつりと告げる。 「おか…ダリューテさんがここにいたらな…」 「ピョ!ピョ!センニョサマ!イッショ!タノシイ!」 「キ…」 小鳥ははしゃぐ。蝙蝠は沈む。 犬と猫は視線をかわし、黙って耳を伏せる。

2020-05-02 18:53:32
帽子男 @alkali_acid

「でも…巻き込むのだめ…だと思う…」 黒の少女の独白に黒の禽獣は静かに聞き入る。 女王の言葉を静聴する四人の騎士の如く。 「ほんとは、カミツキもアケノホシも、ホウキボシも、チノホシも、い、いない方がいい…けど…でもあの…あ、ありがとう…」

2020-05-02 18:56:36
帽子男 @alkali_acid

「アタイハウィストトイッショ!ズットイッショ!タノシイ!」 「でも…一緒だと…悪いこと…起きるし…」 「イイジャン!アタイウタウ!」 ホウキボシが高らかに囀り始めると、ウィスティエは負けてつい微笑んでしまう。

2020-05-02 18:58:17
帽子男 @alkali_acid

「キキ!キ!」 「バウ!ワウ!」 「オチビサンモ!アケノホシモ!ウタッテヨ!ウィストも!」 鳥や獣の合唱が始まると少女もおずおずと加わる。以前の音痴が嘘のようだ。しつこい指導の賜物だろうか。

2020-05-02 18:59:31
帽子男 @alkali_acid

猫はそっと抜け出すと庭に出て薬草園を抜け、満天の星々を仰ぐ。 「ナーウ」 誰かに向かって呼びかけるように鳴く。返事などないと解っているように。

2020-05-02 19:01:08
帽子男 @alkali_acid

◆◆◆◆ ダリューテ。 はるか昔には影の国のただ一人の奴隷だった妖精の貴婦人。今は財団の乙級職員。常務理事の秘書という役職ながら、上司の召喚を柳に風とかわし、黒の乗り手と呼ばれる最も危険な遺物をどこまでも追う、怜悧なうわべに似合わぬ苛烈な気性の持ち主。 「…この男も男です」

2020-05-02 19:06:03
帽子男 @alkali_acid

任務に必要な調査のために本を読み漁りながら、鏡の乗り手の異名を持つ乙女は、ぶつぶつと独り言ちる。象牙より滑らかに新雪より白い肌はほんんおりと憤りのために上気している。 「女の方は不貞で軽率かもしれませんが、だからといって力づくでものにしてよいはずもない。女の親族が討つべきです」

2020-05-02 19:09:18
帽子男 @alkali_acid

「また歌などにほだされて!歌がうまければよいなら鳥とでも浮気をするのですかこの女は…花などその辺に咲くものです。矜持というものがないのですか矜持というものが!ああもう!続きは!」 ダリューテがしなやかな腕を伸ばすとまるで吸い寄せられるように幾つかの真新しい綴本が手元に飛んでくる。

2020-05-02 19:11:19
帽子男 @alkali_acid

「…本当に…何が古典の府か。あきれるばかり。価値もない偽書を次から次へと作り出す遺物など大層なもったいをつけて囲い込んで…妖精族ならあのように無意味な…接吻ぐらい拒みなさいこの女は!」

2020-05-02 19:13:44
帽子男 @alkali_acid

「死すべき人の子にとっては命尽きるまでに世継ぎを残すのは何よりも大切。男女の情というものが重きをなすのは認めましょう…しかしあまりに節操がない…妖精族の婦女であれば軽侮を受けましょう…つくづく…愚かな創作…一巻はどこへ行きました…そこですね」

2020-05-02 19:16:30
帽子男 @alkali_acid

鏡の乗り手は辺りが暗いのに気づいてはっとなる。 読書灯としてそばに置いておいた夜光花がしぼんでいる。もう読み始めてから一刻が過ぎたのだ。 すっと切れ長の双眸が細まり、表紙を閉ざす。 遺物が量産する偽書ばかりを詰め込んだ禁書図書館を、なぜ管理する古典の府の教授達は厳重に守るのか。

2020-05-02 19:19:43
帽子男 @alkali_acid

合点が行った。 遺物番号三十三。打字機と三匹の猿の木乃伊(ミイラ)で構成し、土や石からでもありとあらゆる種類の本を作り出せる奇妙な存在。 木乃伊の一つの耳元に単語を囁けば、関連する題名と内容の偽書をすぐ作ってくれる。読めば中には気をそそる文章が詰まっている。まことしやかな嘘だが。

2020-05-02 19:22:41
帽子男 @alkali_acid

古典の府の教授たちは慎重に偽書の内容を突き合わせ、相互の矛盾を見つけて真実を推測するために、この遺物を用いているという。 だがそうでない使い方もできる。己の読みたい偽書を読みたいだけ生み出させ、そこに耽溺することも可能だ。一見するといかにももっともらしい記述は、

2020-05-02 19:24:41
帽子男 @alkali_acid

本物と思い込みさえすれば限りない充足を与えてくれる。 ダリューテに禁書図書館の秘密を明かした人間の学者は、はじめ考えたよりずっと狡猾かもしれなかった。 「…だが」

2020-05-02 19:28:06
帽子男 @alkali_acid

鏡の乗り手は尖り耳をかすかに震わせた。 収穫はあった。 すでに読み通した七百二十六通りの黒騎士と妃騎士の物語にはある共通点があった。騎士物語ならば当然登場すべき品のうち、あるものがまったく存在しないかさもなければとても軽い扱いを受けている。

2020-05-02 19:30:07
帽子男 @alkali_acid

剣でも槍でも弓でもない。馬でも鷹でも犬でもない。髪飾りでも首飾りでもない。竪琴でも横笛でもなく、手巾でも切り取った袖でもない。 「指輪」 ダリューテは呟く。

2020-05-02 19:31:56
帽子男 @alkali_acid

黒の乗り手は指輪と結びついている。財団を抜けた遺物研究の第一人者、ケロケル・ケログム博士の報告書の断片とも一致する。 「指輪…やつが私から奪ったのは…指輪」 頭の中で何かが噛み合う。はっきりと敵の顔が浮かぶ。 六本指のとぼけた表情をした賭博師。

2020-05-02 19:34:52
帽子男 @alkali_acid

指輪を盗んだ男。 「いや…違う…」 急に確信が退き混乱が押し寄せる。 あらわれたのは獰猛な美貌を持つ黒い肌に尖り耳の女。 見つめているだけで心臓の鼓動が高まるような。

2020-05-02 19:36:35
帽子男 @alkali_acid

「違う…」 大兵肥躯の磊落な巨漢。煌めく黒い鱗が膚に散り、大口を耳元まで裂かせた笑いは怪物そのものだ。 「…あなたが…」

2020-05-02 19:38:10
帽子男 @alkali_acid

彫り深く逞しい造作だが、どこかとらえどころのない春風駘蕩といった青年。凝視しても視線が合わないのは、盲目だからだ。 「いや、違う…」 暗くしかし熱のこもる厳めしい麗貌。いつもじっと考え込むような表情には、侵しがたくしかし放っておくこともできないひたむきさがある。

2020-05-02 19:41:45
帽子男 @alkali_acid

活発さと向こう気の強さ、誰にも御せない命の迸りを内から放射するような娘と紛う若者の面差し。一言口をきくだけでも心がかき乱されそうな。 「なぜ…私は…こんなに…沢山の…」 いずれも暗い膚に尖り耳。妖精族をねじくれさせたよう。

2020-05-02 19:45:22
帽子男 @alkali_acid

いかにも公達らしい端正な様相の奥に、焼けつくような怒りと憎しみを秘めた青年。だがさらに先には危ういほどに優しく柔らかな何かがある。 「…あ」 心臓のあたりがきりきりと傷む。

2020-05-02 19:47:46
帽子男 @alkali_acid

そうして獣がいた。 人の姿をした獣。 丈高く肩広く、骨太く。胸は厚く、腕と足は太く長い。 山猫のように敏捷で、大熊の如く剛健。野狐の如く狡猾で、毒蛇のように危険。 「私の…愛しきもの…愛しきものを…返せ!!!」

2020-05-02 19:49:57
帽子男 @alkali_acid

だが不意に別の姿が浮かぶ。 少女であり少年である子の。 やはり闇色の皮と妖精の耳をしている。 悲しげな、もの思わしげな瞳。八人の男全員に似ていて、誰にも似ていない。 「…クレノニジ…ウィスト…」

2020-05-02 20:25:38
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