剣と魔法の世界にある学園都市でロリが大冒険するやつ5(#えるどれ)

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帽子男 @alkali_acid

ダリューテはためらう。閉じた本に手を置いたまま、かすれ声で虚空に問う。 「追うなというのですか…過ちを繰り返すなと…あなたを財団の安置所に預け、黒き獣を追ったのは間違いでした…私を信じたあなたを危うくし、苦しめた…火の山の島でもそうでしたか?あなたは…」

2020-05-02 20:30:19
帽子男 @alkali_acid

妖精の騎士は打ちひしがれる。 「あなたは…私を恐れ疎んでいるでしょう…当然のこと。妖精の魔女など災いでしかない。でも黒き獣を倒し…愛しきもの…指輪を取り戻したら、この身はもう死すべき人間の世にはかかわりますまい…だからどうか…」

2020-05-02 20:33:56
帽子男 @alkali_acid

老いも衰えも知らぬかんばせに戦意がみなぎる。 「この荒々しき狩りを最後まで続けさせて下さい。獣の子よ」

2020-05-02 20:34:49
帽子男 @alkali_acid

魔女がつぶやくように詠唱を始めると、紙や皮や石や木から文字がはがれて周囲をうねり流れ、並びを変えてそれぞれのあるべき場所に収まる。 万を優に超える偽書は、今や模倣し剽窃した本来の典籍の内容をなぞりつつあった。遥かに精確に、さらにより流麗な妖精の筆致に置き換わりながら。

2020-05-02 20:38:56
帽子男 @alkali_acid

◆◆◆◆ かくして妖精の騎士と黒の乗り手はそれぞれ学問の都の地下と地上で読書と勉学に励んでいた。 といっても若い黒の乗り手の方は、そうそう根を詰めてもいられない。友達も遊びに誘いに来る。

2020-05-02 20:44:18
帽子男 @alkali_acid

古典の府付属の休日。 四回生のアンシオナが、一回生のウィスティエの家を訪れた。例によって校則を無視した男装で。狩猟服を模した膝までの洋袴に、袖なしの胴着と半袖の襯(シャツ)。顎に紐で止める小さな丸帽もかぶっている。 「やあ」 しかも変な乗り物に跨って。 「自転車。見るの初めて?」

2020-05-02 20:45:05
帽子男 @alkali_acid

「当然でしょう。淑女が乗るのにふさわしいと思えませんから」 連れまでいる。豪奢な縦巻の金髪を本日は後ろに結い上げた五回生のエリザビフィタだ。ハセルヴァ伯爵令嬢。良家の娘だが、いつもいる二人のおつきがいない。 「ニーレとメアリテは?」 男装の四回生が今更のように訊く。

2020-05-02 20:49:32
帽子男 @alkali_acid

「それぞれすべきこともあります」 実は地理の補習だが、エリザは二人の名誉のために明かさなかった。友達の学業に遅れが出ていたのに十分気が回せなかった己を恥じ、同席を申し出たのだが二人は泣いて辞したので、傷に塩を塗り込む真似になると考え教授達に任せた。

2020-05-02 20:53:43
帽子男 @alkali_acid

「ニーレさんのお好きな恋々亭の乳酪焼菓(バタークッキー)と、メアリテさんのお好きな銀星軒の蜜揚げ橙(オレンジ)と一緒に、ご無事の生還を待つことにいたしますわ」 「まあいけませんあんな遠くまで一人でお買い物に?」 「あとで三人で参りましょう?!」 「こういう時役立つ王子がいますもの」

2020-05-02 20:58:31
帽子男 @alkali_acid

という訳でエリザはアンに介添(エスコート)を命じ、自転車なるものの後ろに座る恐怖に耐えて、ウィスティエ宅までやって来たのである。 「あ、あの…どうぞお入り下さい」 「突然押しかけてごめんなさいウィスティエさん」 「い、いえ…ど、どうか…お座り下さい」

2020-05-02 21:00:49
帽子男 @alkali_acid

「ありがとうございます。素敵なお庭」 相変わらず絶対に相手の顔を正視せずおどおどした下級生に、上級生は品よく応じる。 実際庭は素敵だった。エリザのよく知る貴族や富豪の、庭師が丹精した整然たるた園ではないが、あちらに緑羅欄花、そこに矢車蘭、向こうに銀仙花と香りのよい花が配してある。

2020-05-02 21:04:25
帽子男 @alkali_acid

椅子や卓も見事だった。遠目に華奢でありながら近づくと重厚さと落ち着きが感じられる。楡や樫など種類の異なる木材を巧に組み合わせて風合いの違いまでも彩の豊かさにし、一体感の出るような彫刻を施している。竜や一角獣、翼のある獅子など、浮世離れした意匠だった。

2020-05-02 21:08:29
帽子男 @alkali_acid

暗い膚の矮躯の娘が、ちょこまかといかにも召使らしく、木の椀に香草茶を淹れてくれる。 「…素敵な器…木彫りですのね。どこで見つけられたの?」 「え?あ…え…い、家にあったやつです」 「まあ…前に使っていた方が残していかれたんですか?」 「さ、さあ…」

2020-05-02 21:10:52
帽子男 @alkali_acid

「キキ…」 どこかで何かが鳴く声がする。エリザがそちらに視線を向けると、軒先に黒い蝙蝠が一匹逆さに止まっていた。 縦巻金髪の少女は椀を持ったまま固まったが、しかし取り乱したりはしなかった。短髪の少女が立ち上がる。 「ねえ君。お茶の間だけ、しばらく外していてもらえる?」

2020-05-02 21:14:26
帽子男 @alkali_acid

アンがにこやかに話しかけると、小さな飛獣は非対称の翼で軒に張り付いてよじよじとどこかへ退いていった。 「無理をさせちゃったかな」 学園の王子が肩を竦めてまた席に戻ると、女王はゆっくり椀を置く。 「不思議なお宅ですのね」

2020-05-02 21:17:09
帽子男 @alkali_acid

つと視線をよそへ向けると、薬草園のあいだを黒猫を咥えた黒犬がそっと抜けていくところだった。 猫の方は破れ耳にちぎれ尻尾のいかにも荒っぽそうな風体だが首根っこを馬鹿そうな犬にあぐっと噛まれたまま一切抵抗せずおとなしく運ばれていく。

2020-05-02 21:18:48
帽子男 @alkali_acid

五回生はたもとから扇子を出してそっと口元を抑え、こんこんと咳き込むように笑った。 「エリザ?」 「何でもありませんことよ」 四回生が心配すると穏やかに応じる。そばではちびの一回生が目を白黒させていた。

2020-05-02 21:20:52
帽子男 @alkali_acid

不意に室内から音楽が流れ始める。軽快な舞曲だ。 とても耳になじむ旋律なのに題名が浮かんで来ない。 「あら?お部屋に誰かいらっしゃるの?ご挨拶させて下さい」 「いえ!!あの!!あの!!あああ!」 「ピョロロロロ」 ウィスティエが絶望に満ちた表情になると、エリザとアンは顔を見合わせ、

2020-05-02 21:22:46
帽子男 @alkali_acid

「いえ。やっぱり遠慮させていただきますわ」 「うん。でもねウィスティエ。一回生のうちから無茶しない方がいいよ」 それぞれ配慮を示す。 さらに男装の少女は声を落として矮躯の下級生に囁きかける。 「男子って皆獣と同じだからね」

2020-05-02 21:25:52
帽子男 @alkali_acid

「はえ…はえ…」 「鍵盤が弾けるとか、詩が書けるとか、絵が描けるとか、そんなの何の保証にもならないよ」 「…あう…あう…」

2020-05-02 21:29:01
帽子男 @alkali_acid

「ところで我が愛しの女王様が下々の菓子麺麭店巡りをなさるついでに、繊維の府まで遊びに行くんだけど、ウィスティエも来ない?」 「え…あ、遠慮…します」 「どうして?ああ…」 ちらっとまた長身の王子は家宅に若干敵意の籠る眼差しを向ける。いちおう姫宮ということになっている矮躯の娘は焦る。

2020-05-02 21:37:39
帽子男 @alkali_acid

「ピョロロロ!転調ノガイイカモ!オチビサンドウ?」 男子にしては妙に甲高い叫びが聞こえる。ウィスティエはしゃちこばり、次いで不審そうなアンとエリザに急いで返事をする。 「ぃ、いきます!すぐ!今!」 「そう?」 「では申し訳ないけれど自転車を置かせてくださる?」 「おや」 「もう沢山」

2020-05-02 21:40:44
帽子男 @alkali_acid

例によってアンの謎の突破力で校門を抜けると、辻馬車を捕まえて二軒どころか五軒も菓子麺麭店を巡り、あれこれ買い物をする。 「あの…犬とか猫が…食べてだいじょぶなやつありますか」 「は?ないよ」 学生の制服を着た東方人のがきというけったいな客を、冷たく店員はあしらう。

2020-05-02 21:46:09
帽子男 @alkali_acid

「おや?僕のお姫様の欲しいものがないなんて、そんなお店は来る価値ないね。皆にも言っておくよ」 そこへ西方人のいかにもふてぶてしい娘が割って入る。 「いや…」 「学校新聞の意地の悪い記者が喜ぶよ。人気菓子麺麭店の客あしらいなんて、一番好きな醜聞(ゴシップ)だからさ」

2020-05-02 21:49:28
帽子男 @alkali_acid

なんか色々おまけをもらって店を出た。 「あの…ごめんなさ…」 「これでお菓子の味が期待ほどじゃなかったら、やっぱり学校新聞にあることないこと書かせよう」 「ええ…」 「んふふ♪僕が匿名で投書してもいいな」 「あなたは誰が書いたかすぐわかってしまいますもの。私が書きますわ」

2020-05-02 21:53:37