ナーロッパの話

古癒瑠璃（こゆるり）@カクヨムにて新作公開予定 @koyururi

だもんで、神話に対する理解の在り方や解説書そのものが「キリスト教的考え」をベースにしたものが流通していて、結果、みんなが読んでいるギリシア神話や北欧神話、アーサー王伝説やらなにやら色々な情報というのは「キリストライズ」されているという批判が一定数存在し続けている

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学者でもない人間にこれら分離する作業を背負わせるのは大変な困難なので、せめて、恣意的にでも設定を作る際「これはキリスト教とか、ヨーロッパに影響されているな」と考える癖を持つと良いのは、こうした常識や、学術書にまである種の偏見が浸透しているからなんだよという蛇足でした

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そもそも、大前提として「ファンタジー世界にキリストは当然のように存在しない」のであり、同時に「キリストの使徒が作ったような強烈なキリスト教組織は存在しない」のである。

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また、例題としてキリスト教権威の象徴的事件として語られる「カノッサの屈辱」をモチーフとしたものが上げられているが、同時に中世におけるキリスト教は「教会大分裂」を始めとした権力の現象も体験しており、それこそいつの世も絶対的であったとは必ずしも言えない

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「キリスト教的宗教でない」のは「宗教的シリアスがない」という理由にはならず、こと市井や実際レベルにおいて、現実の中世世界で宗教がどの程度規律的に守られていたかは、寧ろ歴史家が知りたいくらいではないだろうか。いわんや、広範な宗教世界を相手取るならなおのことである。

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無論、これが「ナーロッパ」における宗教世界が高度に考察･設定されているという理由にはならない。読者としてみたときに没入感を得られない設定は当然のようにあるし、当該世界の住民の素振りとして正しいのか、と疑問に思うところは、作品によってままある。

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ただ、それは「宗教としてのシリアスさ」が原因ではなく、あくまで作品･作者の描写能力に原因を持つものであり「ナーロッパ」全体に後半に当てはめる論拠として「キリスト教的でない」と持ち出すのは、やはり誤りなのだ

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インフラに関してもまた、難しいと言わざるを得ない。例えば中世ヨーロッパというのはローマ帝国崩壊後の大暗黒時代以後をベースとしていると概ね解釈できるだろうが、逆説的に「ローマ時代には上下水道を確立する技術が現実に存在しえた」のだ

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中世ヨーロッパにおける上下水道の普及率はそれこそ一括りにできないだろうし、現実問題として手に入れられる資料問題もある。また、医療においてもたとえば「瀉血」が治療として行われていた、というのを果たして作中に導入してないことに突っ込みを入れている人を、自分は見たことがない。

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同時に、「栄養」という概念を「食事」に持ち出している事に対する指摘も少なく、もっぱら滋養によい、といった迷信がメインであったであろう中世の食事事情や発想の限界を超えた地味なチートっぷりに対して疑問に思わない読者も多いように感じる

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とかく、色々思いつくだけでこれだけあるのだから、「ナーロッパ」に対する「中世的でない」といった指摘の内容、それ自体が実は「中世」に実際存在しなかったのか？　といった疑いをもって眉に唾して読まれるべきだろう。 そして、この長文で自分が言いたいことも正にその部分にある

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とかく、歴史研究が水物であるのは「1192つくろう鎌倉幕府」が現在は過去のものであるのを提示するまでもなく、周知のことかと思うが、「ナーロッパ」というカテゴライズに対する「中世ヨーロッパ的イメージ」それ自体も、かなり水物である。

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「石鹸」の原形ですら紀元前3000年に存在し、ヨーロッパでも8世紀などには存在しているなどするのだから、「ナーロッパ」のチートもので石鹸を普及させる展開に納得を得られるかいなかは、その前提知識を知っているか否かによる。

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こと、中世ヨーロッパを心胆寒からしめた「黒死病」の原因は一般にネズミとして知られているが、これが今日における研究では「ネズミ」から吸血した「ノミ」がペスト菌の媒介生物であることはあまり知られていない。

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「石鹸」の前提知識や、「黒死病」に対する知識の更新などによって個々人の持つ「中世らしさ」のみならず、歴史学上に置ける「中世」の姿は変容していく。ましてファンタジー世界である「ナーロッパ」を一概に一括りにして論じるのは、大変難しいし、それ故、指摘自体も注意が必要となる

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故に、ニコニコ百科における「ナーロッパ」の記事を前提に長文をしたためたわけではあるけれど、今一度、その「間違い」とされている指摘自体が正しいのかを鑑みた上で、作品における没入感や説得力、世界強度を作る上で齟齬が生じているかに改めて目をむけるべきように思う

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そして、同時に、百科の編纂を行い、「ナーロッパ」というカテゴライズの字義を定義する、という行為を行う以上は、改めて「中世ヨーロッパ風ファンタジー世界」と「中世ヨーロッパ」とはどのようなものなのか、に対して細心の注意を払う必要があるのではないか、と思う次第である。

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以上。大変な長文でお目汚し失礼致しました。