『丸山眞男講義録 第7冊:日本政治思想史 1967』の読書メモ

與那覇潤(@jyonaha)さんの読書メモ。
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「第七冊」の意義

與那覇潤(Yonaha Jun) @jyonaha

@ikedanob どうでしょう…自分も不勉強で、しごく常識的なところしか読んでいないもので…(汗。『丸山真男講義録』は第7巻が特によい(時期が一番遅い分、『日本政治思想史研究』等の「いわゆる丸山」から脱皮しているので)とは聞いたことがあるのですが、恥ずかしながら未読です。

2011-06-19 19:24:23

読書メモ

與那覇潤(Yonaha Jun) @jyonaha

【読書】『丸山真男講義録7』:1967年、丸山最後の東大法学部講義の復刻。朱子学を徳川日本の体制教学とみて、その解体から近代が芽生えるという所謂丸山テーゼを自ら撤回し(p159、253、280)、朱子学公定は寛政異学の禁以降(p178)と、今日的研究の先鞭をつけていることに驚く。

2011-06-24 21:33:32
與那覇潤(Yonaha Jun) @jyonaha

冒頭から和辻風土論を引き四季の変化に「ズルズルベッタリ」のルビを振る(p16)など、日本文化論的な色がやや濃い。中根千枝なら「場の論理」と呼んだ現象を、日本神話の「共同体的功利主義」のモラルから近世の職分意識に至るまで追跡、普遍宗教を生まなかった風土に迫る(p66、217、60)

2011-06-24 21:44:11
與那覇潤(Yonaha Jun) @jyonaha

本来「呪術師の力が弱いから負けた」から「神の掟に背いたから罰せられた」へと宗教観は進歩する(これニーチェ?p54)のだが、日本神話は前者の段階に留まったせいで、普遍的基準に照らした反省を欠き感情の迸りや歴史の必然に追従する思考様式が定着、それが大東亜戦争にまで至る(p68、75)

2011-06-24 21:52:53
與那覇潤(Yonaha Jun) @jyonaha

日本はその思想的融通無碍さが、中国儒教のような厳格な復古主義を欠くがゆえに、プラグマティックな変革(その都度の優勢者の模倣)を可能にした(p83、92)。逆に言うとこれは改革が常に不徹底に終わるということで、大化改新も明治維新も在地勢力には手をつけずそのまま取り込んだ(p34)。

2011-06-24 21:59:25
與那覇潤(Yonaha Jun) @jyonaha

最初の2節は所謂「古層論」の草案という感じだが、面白くなるのは3節から。大雑把にいうと現実の統治行為=「奉りごと」が下位者の奉仕に担われる反面、トップのお仕事は「聞こしめす」だけで何もしない、という権威と権力の分離が記紀神話から幕藩体制、日本的資本主義までを貫くとみる(p112)

2011-06-24 22:04:57
與那覇潤(Yonaha Jun) @jyonaha

中国の天子は「天の子」で、全権力を握るかわり普遍的理念(天)と詔勅審査機関に拘束されたのに対し、日本の「天皇」は天そのものと融合して、権威抜群だけど実権は実務官に握られる政体に(p114、118)。近代だと明治憲法は後者ベースだが、教育勅語は前者モデルでこれが暴走した(p120)

2011-06-24 22:11:55
與那覇潤(Yonaha Jun) @jyonaha

日本がこういう奇妙な君主制となったのは、人為的に灌漑を施すことで覇者となる大陸アジアの王権と異なり自然任せでOKだったからで(根拠はウェーバー。p127)、かつ似たり寄ったりの小集団共同体が併存したせいで、ホッブズ的な社会契約も要らなかった(p29、やはりこの辺中根千枝説に近い)

2011-06-24 22:18:16
與那覇潤(Yonaha Jun) @jyonaha

戦国時代=最初の西洋との遭遇時は日本的構造を壊す好機だったが、間地域的な一向一揆、主体的な選択による信仰を唱えるキリスト教、武装した自治都市等は全て潰された(p141、138)。要するに「王法」以外の普遍的理念や自律的中間集団を抹消する形の世俗化が進行したわけ(p144、146)

2011-06-24 22:26:50
與那覇潤(Yonaha Jun) @jyonaha

徳川日本とは戦国期の変革の機運を抑え込み「凍結」した体制(p150、156)で、「祖法」で行政を縛り、「集中排除の精神」で富や権力の偏在を防ぐことで(p171、168)、保守主義的な平和が実現。が、もう平和なのに武士が支配するという矛盾を儒教で糊塗しようとして混乱が…(p163)

2011-06-24 22:34:48
與那覇潤(Yonaha Jun) @jyonaha

文治社会が前提の儒教を武家政権に合わせた結果(p231)、海外の思想的優越よりも軍事的なそれを恐れ、普遍性皆無でひたすら今の主君に尽くしぬく(p235、246)など、勝手な改変がしばしば起きた。加えて日本神話的な「勢い」志向が、江戸儒教の陽明学化を促して情動主義に…(p260)。

2011-06-24 22:46:32
與那覇潤(Yonaha Jun) @jyonaha

この日儒折衷な中途半端社会を“こんなのリアル儒教じゃねぇ”という方向に突き抜けたのが徂徠の古学で、“リアル日本じゃねぇ”が宣長の国学(p282)。そしてリアル儒教の原理主義的正名論や一君万民論と、戦国以降凍結されてきたリアル日本の決断主義の合作が明治維新へと…(p212、258)

2011-06-24 22:53:03
與那覇潤(Yonaha Jun) @jyonaha

ちなみに自説修正の結果、徂徠の影は薄くなったのに対し、宣長の評価は高止まりのまま。国学とは盲目的な愛国主義ではなく、儒教が自明視する価値をいったん括弧に入れるというデカルト的方法/イデオロギー批判の実践であり、健全な価値相対主義を生む可能性もあった、と(p285、303、292)

2011-06-24 22:57:51
與那覇潤(Yonaha Jun) @jyonaha

心に残った一節1:「人は偏見から全く自由ではありえない。むしろ偏見を通じてのみ認識することができる。人は自己省察により…不断に偏見を修正してゆくほかない。シンボルが中間に介在することを忘れ、直接物と対峙していると考えてはならない」(p48)これが丸山版記号論、その先駆が国学なわけ

2011-06-24 23:07:14
與那覇潤(Yonaha Jun) @jyonaha

心に残った一節2:「イマジネーションは人を幸福にしたとは限らない。精神分裂症は想像力による自足世界の構築である。人を不安に駆りたてるのは物に対する想像に他ならない。動物は『予防戦争』をしない」(p44)これ16年後の浅田彰『構造と力』にもある話。良質な近代主義はポストモダンと同じ

2011-06-24 23:12:35
與那覇潤(Yonaha Jun) @jyonaha

心に残った一節3:「アメリカでは国旗と憲法しか『同一性』の表徴はない。だから日本で日の丸を掲げることと、アメリカで星条旗を掲げることはその意味は違うのである。社会契約説はここではフィクションではなくしてまさに歴史的現実である」(p25)ああ契約なき社会日本、ここに達する日はいつ…

2011-06-24 23:16:39