『紅楼夢』が中国版『源氏物語』として紹介される事への違和感

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ただ、この「違和感」は『源氏物語』が一般に主人公の華やかな女性遍歴を描いた作品と捉えられることから来るものであり、実際の『源氏物語』と『紅楼夢』は案外、同じようなテーマの作品なのかもしれない。 どちらも、前近代社会での女性の悲劇や貴族社会の没落を描いているという点で。

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『紅楼夢』が中国版『源氏物語』と言われることへの違和感。主人公の相違点。 ①『紅楼夢』の主人公・賈宝玉、姉妹や従妹たち侍女などに囲まれ、女性とばかりチャラチャラしているように言われるが、「や××××」の光源氏に対し、女性関係はかなり純粋。

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②光源氏が政治家としてもやり手なのに対し、賈宝玉は全くのダメ人間。 伝統的な観点では、『源氏物語』は光源氏という理想の男性像を描いたものとされていたが、近頃では紫式部は実は源氏をかなり批判的に描いているという観点も出てきたように記憶している。

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『紅楼夢』の作者は賈宝玉を「反面教材」とし、口では批判的に描いているが、実は彼の口を借りて封建礼教を批判している。

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③一方で、賈宝玉と光源氏の共通点。 どちらも不幸な人生を送る。 光源氏は「準太上天皇」と位人臣を極めるが、晩年は人に知られぬ苦悩にさいなまれ、その中で死んでいく。

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賈宝玉は最愛の林黛玉とは結ばれず、別の女性（決して嫌いな相手でもないのだが）との結婚を強制され実家も没落し、やがて科挙に合格するものの、出家して行方不明となる。

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『紅楼夢』『源氏物語』とも、華やかな貴族社会を描いたものとされ、実際描かれているのだが、前者では貴族家庭が没落し、後者では上辺の栄華と裏腹に源氏初め女性たちは不幸。 どうも、両者に共通する主題は、その時代の女性の不幸を描くことにあったのではないか。

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実際、『紅楼夢』では涙を誘わずにはおられないヒロイン林黛玉の孤独で悲惨な病死を始め、美しい姉妹や侍女たちは皆不幸な運命をたどる。『源氏』に関しては10歳で源氏に拉致された紫の上始め言わずもがなであろう。

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ちなみに、現代中国でも『紅楼夢』は広く読まれているようで、筆者が知っている限りでも、２回ドラマ化され、DVDも出ている。詳しくはアマゾンで、ちなみに毛沢東なども読んでおり、彼は「数回読まねば、紅楼夢は分からない」と言ったと中国人から聞いたことがある。

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現代中国での『紅楼夢』の評価は「悲しい愛を綴った物語であることは争う余地がない」としながらも、中国封建社会の腐敗と没落を描いた小説という観点は一般的なようである。「中国の封建制度の末日を告げる鐘を鳴らす偉大な叙事詩とも言える。」（福元・史石『物語・中国の歴史⑷』講談社1984年）。

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『源氏物語』に関して、日本で上のような社会科学的観点からする研究が行われているとは思えない（未だ本居宣長の「もののあはれ」を出ていない）が、『源氏』に関しても、私は源氏や女性の不幸にこと寄せて、平安貴族社会の没落を予兆した物語ではないかとの印象を持ってしまうのだが。

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中国四大奇書のひとつと言われる『紅楼夢』に関しては、そのDVDなどが中国版『源氏物語』などとの紹介が為されるが、一定仕方がない面があるにしろ、これには非常な違和感を私は持っている。

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というのも、光源氏がそれこそ「や××××」（失礼）、本当に無数の女性と関係を持つのに対し、『紅楼夢』の主人公・賈宝玉は、ほぼヒロイン林黛玉への想いを貫いており、彼の情事（ヒロインとは別人）に関しては物語の最初の方に一度出てくるだけなのである。

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その賈宝玉の情事（初体験）の相手は、襲人という姉のように宝玉にかいがいしく尽くす侍女なのであるが、ちなみに父の持っていた戦前の岩波文庫版では、そのシーンにかなり伏せ字が入っていた。

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父は若い頃、紅楼夢を読んだというのだが、「あれが恋愛小説だとは思いもよらなんだ」と言ったのを記憶しているが、宝玉と黛玉の出会いの場面も何か「前世からの宿縁」のように書いてあり、昭和一桁生まれの若かった父などは、恋愛小説として読むのは難しかったのかもしれない。

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というか、昭和一桁の父どころか、定年間近の私でさえも、若い頃、紅楼夢を一読して、宝玉と黛玉との恋愛の機微など読み取れなかったし、この年になって再読に挑戦しようとしているのだが、正直、読み取れる自信はない。

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ちなみに、父は一種の社会小説のように読んだようでで、第53回の荘園からの貢物の場面が印象に残っていたらしく、「なんと贅沢な」とか思ったようであるが、このシーンなどは中国の「社会発展史」のような本でも、封建地主階級の搾取の様相を示すものとして取り上げていた。

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さて、かく言う私は紅楼夢を全部読んでない。大学生の頃、入院中、夢中になって読んだのだが、岩波の12巻目がまだ出ておらず、それを買ったまま読み忘れていたのに全部読んだ気になっていたのである。

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3年前、衛星放送で中国ドラマ紅楼夢を最後まで見て、前述した襲人の結婚を見て、最後を読んでいないことに気がついたのである。ちなみに、3年前に見た紅楼夢ドラマ。私は全部DVDに焼いたが。 amazon.co.jp/%E7%B4%85%E6%A…

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源氏物語は若い頃も挑戦しているが読めてない。思うに、平安女流文学の文体の分かりにくさもあるが、紅楼夢の非常に多面的な内容によるところも大きいのではないかと思う。