まっかなくちべに

同窓会と小さな復讐と大倉さん
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よつげ @Eight_os

1 準備はいいか、私。 これは、自分との戦いだ。 協力者は居れども あくまでこれは私が、私の気持ちにケリを付けるための、自己満足。 …その、つもりだった。 #エイトで妄想

2020-07-08 23:21:36
よつげ @Eight_os

2 中学二年生の、あの日。 私は、人生で初めて恋をした相手に、人生で初めて失恋した。 「木下さん、やったっけ」 二年生に進級して、初めて隣りの席になった彼は、絵に描いたような地味子だった私に「よろしくな」と微笑んだ。 ろくに話す人なんていない。 #エイトで妄想

2020-07-08 23:21:37
よつげ @Eight_os

3 「なぁー、教科書見して?忘れてもうた」 落ち着いて物静かな一匹狼タイプ…と、思われて一目置かれてた。 「やば、次俺当たるやん ここわかる?」 と、いうか、距離を置かれてた? そんな私に 「あれ、ちょっと前髪切った?前の方がええよ〜」 彼は懲りずに話しかけてきた。 #エイトで妄想

2020-07-08 23:21:37
よつげ @Eight_os

4 期待しないってほうが無理がある。 少しずつ、長い時間をかけて、気持ちを育てて 冬休み前に、放課後の教室で告白した。 あの時を思い出すと、今でも恥ずかしさで消え入りたくなる。 期待とは裏腹に彼は目を泳がせて後ろ髪を触って 「…えっと、ごめん、そういうの興味無い」 #エイトで妄想

2020-07-08 23:21:38
よつげ @Eight_os

5 正直冬休み中は凹んだ。 でもすぐに立ち直れると思った。 興味無い、なんていうのが嘘だというのは分かってたけど やっぱり彼はいい人だった。 私のことが好きじゃないって言うのは言わないでくれたんだ。 そう解釈した。 さすがクラスの人気者だなって。 #エイトで妄想

2020-07-08 23:21:38
よつげ @Eight_os

6 心の中で思い続けようとしたある日。 私は、廊下から聞いてしまった。 彼とその友達が教室で話している声を。 「お前、木下さんと仲ええよな」 「えー?いやそんなことないって、他の子と変わらへんやろ?」 「でも告白されたんちゃうん?」 わ、もう噂になっちゃったんだ… #エイトで妄想

2020-07-08 23:21:39
よつげ @Eight_os

7 私のせいで迷惑かけて申し訳ない… 「ないやろ、あいつはw」 唐突に降ってきたそんな彼の一言が心臓を凍りつかせた。 「地味やし暗いしトロいし、近くで見てもそんな可愛ないで? 無理あるってあんなん」 その場から駆け出した。 傷ついた、なんて安直な言葉かもしれない。 #エイトで妄想

2020-07-08 23:21:39
よつげ @Eight_os

8 だけどあの日から、その言葉は私に取り付いた呪いだった。 良くも悪くも。 …その後、私は高校で初めての彼氏を作る。 何だかんだ今も続いている(多分)その彼を選んだのは その呪いを私の中でプラスに変えてくれたから。 「せやったらさ、見返したったらええやん?」 #エイトで妄想

2020-07-08 23:21:40
よつげ @Eight_os

9 傷ついたその思い出を恐る恐る打ち明けた時、彼はあっけらかんとそう言った。 「嫉妬するかと思った…」 「なーんでよ、あくまで昔の恋やろ? …綺麗になってそいつの元にもう一度現れたら、きっとお前のこと見直すんちゃう? というか、むしろ誰だか分からんかもw」 #エイトで妄想

2020-07-08 23:21:40
よつげ @Eight_os

10 そんな言葉をきっかけに 私は自分に似合う、かつ彼の好みに合うメイクを探し始めた。 知りたくもないのに人気者はやはり違うというか 高校の彼女の情報まで逐一目に、耳にしてしまう。 どういうタイプが好きなのか どういう顔が好みなのか それをしっかりと目に焼き付けて。 #エイトで妄想

2020-07-08 23:21:41
よつげ @Eight_os

11 初めて買った濃い赤色のリップは もちろん学校で付けるなんてことはなかったけど 持ってるだけでとてつもない武器になる気がした。 そして、今。 あの口紅を纏った私はご立派なホテルの小さなパーティー会場… 『栄斗中学校〇年度卒業生同窓会』の看板の前に立っていた。 #エイトで妄想

2020-07-08 23:21:41
よつげ @Eight_os

12 受付の時だけ本当の名前を言う。 あとは全部、演技。 中学の頃だもん。 すぐ転校しちゃったから〜とか言っとけば偽名使ったって基本バレない。 どうせ、私の顔も名前も覚えてる人なんてほとんど居ないけど、 一番今の時点でバレてはいけない人の方をちらっと見る。 #エイトで妄想

2020-07-13 23:58:33
よつげ @Eight_os

13 まだこっそり入ってきた私には気づくこともなく女の子たちと話してる。 さらにイケメン増したな…。 そう思ってると、とんとんと肩を叩かれる。 「同じクラスやったっけ?」 「…えっと」 「あ、えっと僕宮野です、覚えてる?」 …ああ。 すっと冷めた気持ちで笑顔を作る。 #エイトで妄想

2020-07-13 23:58:34
よつげ @Eight_os

14 この人も、あの時大倉くんの周りにいた。 「あ、宮野くんか!私、九条早苗」 「くじょう…ええと」 「覚えてなくても無理ないよ〜 すぐ転校してもうたし」 自分がこんなに明るい声が出せる人間だとは思ってなかった。 少なくとも、高校に上がるまでは。 #エイトで妄想

2020-07-13 23:58:34
よつげ @Eight_os

15 「あれ、宮野その子誰?」 周りの男達がどんどんこっちに気づき始める。 でも一人も私だとは気づかない。 バッチリメイクして、髪も整えてて、少しだけ露出多めの服を着て。 彼らの記憶の中にある『地味でトロくて暗い木下さん』は何処にもいないんだろう。 #エイトで妄想

2020-07-13 23:58:35
よつげ @Eight_os

16 「九条さんみたいな可愛い子、転校してなかったら絶対忘れてなかったのに〜」 「嫌やわぁ、絶対嘘やって」 「ほんまほんま!」 や、ひょっとすると 存在自体忘れられてるかもね 「九条さん今どこで働いてるん?」 「商社だよー、末広…」 「え!?めっちゃでかいとこやん!?」 #エイトで妄想

2020-07-13 23:58:35
よつげ @Eight_os

17 そのままそこで話し続けてると、 「はぁーちょっと休憩させて…」 忘れたくても忘れられない声がして 思わずグラスを持つ指に力が入る。 「てかみんな集まってるやん、何して…」 ゆったりとこっちに近づいてきた大倉くんが 輪の中心に…すなわち私のところに近づいてきて #エイトで妄想

2020-07-13 23:58:36
よつげ @Eight_os

18 目を見開いて足を止める。 気づかれて…ないよね? ドキドキしつつ大倉くんをじっと見る。 しばらく沈黙が続いて 大倉くんが口を開こうとした時 「大倉!この子九条さん言うねんて!すぐ転校してもうたらしいけど こんな可愛い子いたっけ!?」 #エイトで妄想

2020-07-13 23:58:36
よつげ @Eight_os

19 宮野くんが大倉くんの肩に手を回してそう聞く。 「くじょう…」 大倉くんは目を泳がせて小さく呟くと 「ああ、九条さんね。 覚えてるよ」 ニコッとこっちに笑いかけた。 …ほんと。 嘘が上手なのは相変わらずだね。 残念だけど、もう騙されないよ。 #エイトで妄想

2020-07-13 23:58:37
よつげ @Eight_os

20 真正面から向き合って、ニッコリと笑う。 こんな笑い方あの頃の私は彼の前ではしてないはずだ。 そう、感情はさっきから殺してる。 「九条早苗 絶対忘れてたやろ大倉くんw …久しぶりやね」 同窓会から恋が始まるなんて 誰が言い出した。 ここは恋を終わらせる戦場なんだ。 #エイトで妄想 pic.twitter.com/7T7b04nuco

2020-07-13 23:58:42
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よつげ @Eight_os

21 交換した名刺によると、大倉くんは今現在大手食品メーカーの営業部。 一応エースらしい。 「海外事業部とかの打診もあったんやけどさぁ、今の営業の仕事嫌いやないから断ってんのよな」 「すごいじゃん、でも合ってると思うよ営業」 ありがとって、ちょっと照れたように俯く。 #エイトで妄想

2020-07-15 20:41:59
よつげ @Eight_os

22 「でもそっちもすごいやん お前がそんな大きな会社勤めると思ってへんかった」 「馬鹿にしてる?w」 「何でよ、普通に褒めてんねんけどw」 大人になったんだな私、と少し感慨深くなる。 自分でもここまで心に波風が立たないことに驚きだ。 #エイトで妄想

2020-07-15 20:42:00
よつげ @Eight_os

23 さっきからずっと、『二人で』話してるのに。 あの後、「あっちにめっちゃ美味い肉あったで」って誘われて連れ出された。 そこからずっと、大倉くんは私の隣を占領してる。 狙われてる? それならまあ、都合はいいか。 ただ。 …時間的にそろそろ抜けないと。 #エイトで妄想

2020-07-15 20:42:00
よつげ @Eight_os

24 この後出し物みたいなのがあって、ビンゴ大会とかでは名前が呼ばれる可能性もある。 「…あの、私そろそろ帰らないと」 「え、まだ終わってへんけど」 「この後行くとこあって」 大倉くんにそう断ると、ちょっと考えてから「どこ?」と言う。 「…言わなきゃいけない?」 #エイトで妄想

2020-07-15 20:42:01
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