生命美術館事件2(#えるどれ)

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帽子男 @alkali_acid

「ところでダリュはどこじゃ?ダリュを抱かねば現に戻た心地がせぬ」 魔人がきょろきょろと周囲を見渡すと、黒犬が吠え、黒海豹が床を転がる。硝子のかけらをぱきぱき潰すが全然気に留める風もない。 「んー。ワテらもうアンググには会わんことにしたわ」 「海豹はそうすればよいのじゃ」

2020-07-23 23:44:13
帽子男 @alkali_acid

「んなー!」 「サンセイ!サンセイ!クモニサンセイ!」 黒歌鳥が飛び立って、豊かな黒髪の上に止まる。 「アタイハセンニョサマトイッショ!イッショ!」 「むむ!ホウキボシ!たとえホウキボシが相手でもダリュは譲らぬのじゃ!」 「アタイマケナイヨ!」 「こなたも負けぬのじゃ!」

2020-07-23 23:45:40
帽子男 @alkali_acid

黒犬がたまりかねたようすで進み出ておんおんと鳴く。 「…アケノホシかや?災いとかこなたは知らぬのじゃ。したいようにするのじゃ」 「ワフ!ワフ!」 「こうしてやる!うりうり」 すんなりした足が獣をあっさり蹴り転がし、あおむけになった毛むくじゃらの腹を器用にゆする。

2020-07-23 23:47:29
帽子男 @alkali_acid

「ワ…ワフ…ワヘ…ワヘヘヘヘ…」 アケノホシはだらりと舌を口の横に出して、四肢を縮め、尻尾を振りまくりながら降参の姿勢をとった。 「ほかに文句のあるものはおるかや?」 「キキ…キ」 「チノホシの頼みでもこればかりはきけぬのじゃ」

2020-07-23 23:48:47
帽子男 @alkali_acid

心配そうなチノホシの首を指でそっとなでながら魔人はささやく。 「二人でダリュのために飛び切りかわいい衣と飾りを作ろうぞ。どうじゃ。眠っている間に新たに生まれた意匠も取り入れて」 「キ…キ」 「絶対絶対ダリュに似合うのじゃ…ん?」 「キィ…」

2020-07-23 23:50:12
帽子男 @alkali_acid

「おとーはん!あかん!なしてクモにそないあっさり転がされんねん!作るんやったら!アンググの衣と飾りや!」 常に冷静な、黒海豹が厳しく口を挟む。 「ワテ…背広っちゅーやつの触り心地結構気に入ったわ…あとツヤツヤつめたい腕時計と袖扣(カフス)に…領帯夾(タイピン)にアンググに合う…」

2020-07-23 23:55:27
帽子男 @alkali_acid

「ほほー。男装かや?ダリュに似合うのじゃ」 「アンググや」 「ダリュ」 「アンググ」 「ダーリュー」 「アンググやて」 黒海豹が鰭でびしびしと長い脚を叩くと、魔人はげしげしと蹴り返す。 「んなー!言うとくけど、下の代のが偉いとかもう通じんで!」 「やかましいのじゃ!くぬ!くぬ!」

2020-07-23 23:58:37
帽子男 @alkali_acid

海豹と女形の青年は放っておくと永久に戦い続けそうな気配なので、やがて黒竜が尾の先をねじ入れて止める。 「オオグイ。止めんでや!クモとはきっちりケリつけなあかん」 「父様!あざらしめはちゃんとわからせねばならぬのじゃ!」

2020-07-24 00:00:59
帽子男 @alkali_acid

少し離れたところで黒き獣と黒の繰り手のやりとりを見守っていた黒猫は、やがて鼻息を吐くとすっと離れていく。瓶から出たばかりえ、また眠る場所を探しにいこうとでもいうように。 「…む!!カミツキ!カミツキが何か抜け駆けをしようとしている気配がするのじゃ!」 「ヴ」

2020-07-24 00:02:49
帽子男 @alkali_acid

とびかかってくる魔人を、猫はひょいとかわすが、相手もあさるもの、糸を飛ばしてからめとろうとする。 互いに残像を後に置いていくようなめまぐるしい攻防が始まる。 「ヴナ」 「その余裕ぶった顔が…気に入らぬ!!」 「ヴナ」 「ダリュの一番はこなたじゃ!」 「ナウゥ…」

2020-07-24 00:05:08
帽子男 @alkali_acid

とうとうカミツキがちぎれ尻尾で黒の繰り手の額を一打ちする。 たちまち女形の魔人はすとんとへたりこむ。 「ぶった…ぶったのじゃ!」 「ナウウ」 猫は耳を伏せて丸くなる。 「むむぅ…撫でさせよ!」

2020-07-24 00:07:06
帽子男 @alkali_acid

小さな殺し屋は心底気が進まぬげに、しかし自らの行いの償いとして腹を差し出した。黒の繰り手はしばらくわさわさと荒れた毛並みを触ってから、鼻を鳴らす。 「ふん…ひとまず許すのじゃ」 「ヴ」 「…ダリュは譲らぬのじゃ」 「ヴ…」 「いってよしじゃ」 「ヴナ」

2020-07-24 00:08:57
帽子男 @alkali_acid

黒猫はひょいと身を起こすとすたすたと去っていく。何となくじとっとした目で魔人は見送る。 「やっぱりカミツキだけずるしている気がする…」 だがその目の前にすぐからくり仕掛けの天馬が降りてきて、乙女の姿に変わる。 「だ、ダリュ!」 黒の繰り手はまた昂り始める。 「ちっちゃいダリュ!」

2020-07-24 00:10:53
帽子男 @alkali_acid

「ちっちゃダリュじゃ!か、かわいいのじゃ!かわいいのじゃ!どうしてダリュはこんなにかわいいのじゃ!!…何々?ほかの瓶に閉じ込められたものどもとな…む…ならば解き放ってくれようぞ。ようすを確かめてからな」

2020-07-24 00:11:47
帽子男 @alkali_acid

黒の繰り手は、再び天馬に変わったからくりの導きに従って歩き出した。周囲には五匹の黒き獣が付き従う。 いよいよ財団が警戒する人類への脅威、遺物の収容違反は深刻なものになりつつあった。

2020-07-24 00:15:42
帽子男 @alkali_acid

さて、「ウィストの狭の大地あっちこっち」シリーズ、 次回は「人参(にんじん)を超える究極の食材…神参(しんじん)…それに対抗する魔参(まじん)…そして…敵か味方か仙参(せんじん)…まさに参界(じんかい)最終戦争の様相を呈してきたな…」 乞うご期待!!

2020-07-24 00:19:29

次回の話

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