人参があるなら馬参や狼参そして竜参、神参もあるはず3(#えるどれ)

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帽子男 @alkali_acid

仙参は杖のような灯参を掲げながらさらに間合いを詰める。 「だが儂…否、魔参は異なる道を選ぶ…神参を倒し!とってかわる道をな!」 見よ。 少女の背にも黒い光輪が浮かんだではないか。

2020-08-07 20:30:43
帽子男 @alkali_acid

そう。魔参もまた神参に仕える天参の一株であった。 だが仙参と違い、参界の平穏よりも、根菜としての高みを目指した魔参は、やはり山参を離れた。 初め赤兎の加護あるワン氏とヒ氏の見張りあって人界との境を超えられなかったが、ある時両家に異変が起きたのを幸い、勢力を参界の外へ伸ばしたのだ。

2020-08-07 20:34:42
帽子男 @alkali_acid

「仙参よ!まずはそなたの養分を吸い尽くし!しかして神参を貪らん!」 黒い人参娘が猛ると、白い人参翁は杖を振るって挑みかかった。 たちまち、滑らかな裸身にまとわりついていた根が剣となり鉾となり、盾となって攻防一体の働きをする。

2020-08-07 20:36:28
帽子男 @alkali_acid

「ぐぐぐぐ…同じ日に種播かれた兄よ…ともに天参であったころ、儂はそなたに一度も勝てなかったが…今や」 ウィスティエのほっそりした脚が、根菜の胴を鋭く蹴りつけ、弾き飛ばす。 「人間の肉の器はよいぞ…人参とは比べものにならぬ柔軟さ…」

2020-08-07 20:39:29
帽子男 @alkali_acid

”そこまで堕ちたか…そなたもかつては偉大なるものであった” 仙参は杖を支えに身を起しつつ、土臭い匂いを発して言葉を紡ぐ。 「儂は今いっそう偉大となったのだ!滅びるがよい!老いぼれ!」

2020-08-07 20:40:47
帽子男 @alkali_acid

だが白き人参の乗り手はすっくと立った。 すると背丈は何倍にも大きくなったようで、光輪の輝きはいっそう眩く、人参娘の生身の双眸を灼き、怯ませた。 朽ちることも腐ることもない神参の光が、老躯を通じて燃えているようだった。

2020-08-07 20:42:46
帽子男 @alkali_acid

「おの…れ!」 根菜から発する耐え難いほどの明りに、ウィスティエは腕であどけなさの残る顔をかばいながら、一歩後退る。 「や、野菜ごときが…」 そうして膝をつき、苦しげにあえいだのだった。

2020-08-07 20:44:24
帽子男 @alkali_acid

仙参は逆に一歩踏み出すと、膝まずく少女をめがけて、杖を断頭の斧のように高く掲げた。 「…ぐぐ…ぐ…」 刹那。強い芳香とともに勢いよく煌めく人参が振り下ろされ、そして、

2020-08-07 20:46:22
帽子男 @alkali_acid

途中で止まった。 「ぐ…」 咀嚼音がする ウィスティエが眼差しを上げると、大きな赤い毛並みの兎が頭からばりばりと白き人参の乗り手を齧っていた。

2020-08-07 20:47:15
帽子男 @alkali_acid

「ウンナ!ならぬなり!仙参は食べては!ああ…あっ…」 背にしがみついた少年があわあわと制するが、耳長の獣は食餌を続ける。 「ああ…」

2020-08-07 20:48:22
帽子男 @alkali_acid

赤兎は、半分まで齧ったところで、もはや輝きを失った獲物をぽいと放り捨て、じろりと今度は次なる敵を見やった。 みつ口をひこひこ動かしながら、つぶらな瞳で、人参娘の、豊満には程遠いがしかし十分に円かな腰や肩、わずかなふくらみを帯びた胸を観察し、均整のとれた妖精らしい姿態を品定めする。

2020-08-07 20:51:47
帽子男 @alkali_acid

それからじろりと後ろに向けた。背にしがみついた許婚に。 「…なんと!ウィストはまこと天女!いな娘々(めがみ)に!あ、ならぬ」 あわててダングは袖で顔を隠し、視界を遮る。 「何か召されよ」

2020-08-07 20:53:18
帽子男 @alkali_acid

「ワン氏とヒ氏…仙参がしもべとして選んだ人間の子孫よ…ぐぐぐ…どちらも苗床として都合がよい」 「ウィスト?」 「もはや儂はそなたらの知るウィストにあらず、参界と人界をすべて人参畑とし!永遠に統べる…人参王(にんじんおう)なり!!」

2020-08-07 20:55:08
帽子男 @alkali_acid

人参王。 魔参に囚われたウィストの心はついにそこまで変わってしまっていたのだった。 ダングは身震いし、ウンナは耳を立てて歯を打ち鳴らした。 「ウィスト…正気に戻られたし…もとの優しき天女のウィストに」 少年の切なげな訴えるが、寄り添う赤兎の方は余計闘志を燃やしている。

2020-08-07 20:58:22
帽子男 @alkali_acid

「ぐぐぐ!天女なぞ下らぬ!儂は人参王になる」 ついに赤兎が襲い掛かり、人参娘はまとわりつく根をうごめかせて応戦した。 うわべは兎でも中身は根菜の兎参と異なり、真の幻獣である赤兎は、たちまち根を齧りとり、食いちぎり、獲物を丸裸にしていく。

2020-08-07 21:00:37
帽子男 @alkali_acid

「おのれ!…これほどの力…もはや仙参が育てた玉兎ではないか…」 一糸まとわぬ姿となったウィスティエは、妖精らしい敏捷さで飛び退ると、両腕を掲げた。 暗黒の人参塔は鳴動し、そこかしこから黒い花毬を咲かせ、触手をうねらせて屋上を覆いつくそうとする。

2020-08-07 21:03:02
帽子男 @alkali_acid

「ウィスト!…そ、そうだ…すまぬ…ウンナ…拙は恩を…返さねば…」 糸目の少年は赤兎にしがみついたまま、袖の隠しから札を抜くと、高くかざした。 「ウィスト!どうか魔参の力を渡し給え。この札があれば呪いから解き放たれるなり!」 「ほう…財団のおもちゃを借りたか」

2020-08-07 21:05:12
帽子男 @alkali_acid

小さな魔女はからからと笑うと、さらに花毬と触手を周囲に旋風の如く渦巻かせて、とりわけ太い一本に裸の尻を載せると、足を組んで頬杖を突き、はるか高みへ逃れる。 「儂は魔参…魔参が儂…もはや離れるつもりはない!」 「だが…カミツキ殿は!黒き獣の皆は!?そうだ…ヒカリノカゼはいずこ?」

2020-08-07 21:08:06
帽子男 @alkali_acid

「黒き獣は儂が畑から作る人参を食べて暮らせばよい!」 「猫や犬にはかなわぬなり!」 「やってみねば解らぬわ!人参は滋養に富み、万病に効く」 「ウィスト…」

2020-08-07 21:09:48
帽子男 @alkali_acid

なおも語り掛ける少年を、赤兎はいきなり振り捨てると、前にも増した勢いで人参を齧り始めた。双眸は熱した石炭の如く燃え、毛の一本一本が針金を思わすようにけば立っている。 「ウンナ!?」 耳長の獣と一つになった乙女もまた、身に帯びた力に呑まれようとしていた。

2020-08-07 21:12:39
帽子男 @alkali_acid

「そんな…このままでは…ウンナ…早く力を…だがウィストは…」 少年は、救い主である浅黒い少女と、許婚である赤毛の兎を交互に見比べた。持てる切り札は一枚。救えるのは二人に一人。 「や、やはり選べぬなり…拙にはウンナも…ウィストも…」

2020-08-07 21:14:50
帽子男 @alkali_acid

土壇場になってワン氏の跡継ぎの覚悟は鈍ってしまった。 「何とか二人とも…」 そういう都合の良い方法はない。

2020-08-07 21:17:12
帽子男 @alkali_acid

「赤兎!儂の野望の前には何よりも目障りなやつよ!ここで吸い尽くしてくれるわ!」 煮え切らない少年をよそに、少女と兎は最後の決着をつけようとしていた。 「受けよ!人参繚乱!!」 暗黒の人参塔が大きく根を持ち上げ、勢いよく大地を踏みしめると、植わっていた天参が土から飛び出し、

2020-08-07 21:20:41
帽子男 @alkali_acid

はるか上空まで埃煙とともに昇ってから、一斉に堕天の印たる黒い光輪を閃かせ、闇の星々のように瞬き、矢の雨となって降り注ぐ。 だが赤兎は耳を恐るべき捷さで振り回し、真紅の竜巻となって迎え撃つと襲いくる堕天参を一本も逃さず齧りぬいていった。

2020-08-07 21:24:32
帽子男 @alkali_acid

人参か。 兎か。 兎か。 人参か。 ダングは札を握りしめたまま、息すらつけず戦いの行く末を見守るしかなかった。

2020-08-07 21:25:47
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