【ツェッペリン飛行船と世界初の民間航空事業/前編】
順調に思われたフライトは、午後2時ごろに発生したエンジントラブルにより、暗雲が垂れ込め始めます。速度が低下したLZ4のガス嚢内では、水素が太陽光の熱を吸収して膨張を始め、船は高度1,000メートル付近まで上昇していきました。 pic.twitter.com/OLVuWZTYw2
2020-09-05 16:36:14止む無くガスを放出して上昇を食い止めますが、夕方になると気温が急速に低下、今度は水素が収縮を始めます。このままでは、浮力を失って地上に叩きつけられかねません。ここにツェッペリンは24時間連続飛行の継続を断念し、不時着を決行しました。午後5時20分のことです。 pic.twitter.com/qejDc01QB2
2020-09-05 16:36:47バーゼルから北に約400キロ、マインツまであと14キロの地点でした。約11時間、距離にして500キロ強の飛行でした。 それでも伯爵はさほど悲観的ではありませんでした。船が無事である限り、挑戦は何度でも出来るからです。 pic.twitter.com/FMAQ2Js1KS
2020-09-05 16:37:21エンジンの修理が終わると、午後10時にLZ4は再び離陸しました。ガスを放出したことで浮力が減少したため、この時、5人の乗員と不要な装備が降されました。飛行を再開したLZ4は基地があるボーデン湖を目指して南下します。ところが、シュトゥットガルト近辺で、深刻なエンジントラブルが再発、 pic.twitter.com/wno8PaYbzL
2020-09-05 16:39:09再度の不時着を余儀なくされたのでした。ツェッペリンは、少ない乗員で見事にこれをやってのけます。日付は替わり8月5日の朝になっていました。不時着地は、エヒターディンゲンという田舎町の郊外です。 (画像は不時着の為降下するLZ4) pic.twitter.com/3g9F7nS6j7
2020-09-05 16:39:36エンジンは使用不能の状態でしたが、幸いダイムラー社の工場がシュトゥットガルトに在り、新しい物をここから取り寄せることになりました。水素を補給する手配も整えられます。ツェッペリンがエヒターディンゲンの宿屋で休息を取っている間、 (画像はエヒターディンゲンの街路上の伯爵) pic.twitter.com/nQBVdbbs5p
2020-09-05 16:40:10近辺の町や村から数万人もの見物人がLZ4を一目見に集まってきました。彼らは銀色に輝く船体を間近から思う存分眺め、好奇心を満たしました。 pic.twitter.com/0p2vzpKtP2
2020-09-05 16:42:46観衆がLZ4の離陸を見届けてやろうと辺りの野原や畑に居座っていた午後3時頃、予期せぬ一陣の突風が襲いました。このため、船体が押し流されて船首が樹木に衝突し、外皮とガス嚢が破損しました。 (画像は流されるLZ4) pic.twitter.com/AMnAQxwtQK
2020-09-05 16:43:16そして、次の瞬間、凄まじい勢いで炎上し始めたのです。当時、布地同士が擦り合わされると静電気がスパークすることは知られておらず、ガス嚢はゴムで覆われた布で作られていました。これが災いしたのです。
2020-09-05 16:43:44無数の人々があげる叫び声を耳にして宿屋から飛び出した伯爵が目の当たりにしたものは、紅蓮の炎に包まれる断末魔のLZ4の姿でした。ツェッペリンが駆け付けた時には、彼が愛する飛行船が在るべき場所に、醜いアルミの残骸が転がっているばかり。 pic.twitter.com/tmCQjHlh6o
2020-09-05 16:46:16周囲に群がっていた観衆は掛ける言葉もなく、夢の跡形の前に進み出る伯爵に道をあけました。我を忘れたかのように立ち尽くすツェッペリン伯爵は、幸いにも負傷者は出なかったことを聞くと、黙ってその場を去りました。 pic.twitter.com/06bYOHvcV0
2020-09-05 16:46:43フェルディナント・フォン・ツェッペリン伯爵はこの時、齢70。全てを失った今、飛行船開発の夢を断念し、隠遁生活に入る決意をしたとしても、誰がそれを責めることが出来るでしょう。 pic.twitter.com/BYhUn9eRde
2020-09-05 16:47:11一方、幾万人もの観衆は、ツェッペリンが去った後も、興奮が冷めやらずその場に留まっていました。それから何が起こったのか、今日では正確には分かりません。一説によると一人の労働者風の男が進み出て、人々に呼びかけたと言われています。「皆で伯爵を助けよう」、と。 pic.twitter.com/1MLkh7Anvc
2020-09-05 16:49:24ツェッペリンをここで終わらせてはならない。それこそは、そこに居合わせた人々に共通する想いでした。伯爵の夢は、今や国民の夢でもあったのです。 かくて人々は声を限りにドイツ国歌を歌い出したのです。数えきれない歌声が、エヒターディンゲンの地にこだましました。 pic.twitter.com/iyKcIYEL9G
2020-09-05 16:49:54「ドイツよ、ドイツ、全てのものの上にあれ、世界の全ての上にあれ…」 その歌声は、エヒターディンゲンからラインラント地方へ、そしてドイツ全土へと広がり、響き渡りました。(この様子はロイド・ジョージが偶然目撃しています)
2020-09-05 16:50:17嵐のようなツェッペリン救済運動が始まりました。新聞はこぞって伯爵への募金の必要性を訴え、あらゆる階層の、あらゆるドイツ国民が続々とお金を送ってきました。その中には激励の手紙が添えられているものも数多くありました。驚くなかれ、一月足らずで集まった寄付金は625万マルク。 pic.twitter.com/sOfTXe66zX
2020-09-05 16:50:45ツェッペリンを「狂人伯爵」などと嗤う者はもういません。 かくしてツェッペリンの飛行船事業は、それまでのいかなる時期よりも遥かに強固な財政基盤を得たのです。 (画像のメダルは、ツェッペリン救済キャンペーンの一環として、LZ4の残骸から鋳造、販売されたもの) pic.twitter.com/ajHaYgSUh0
2020-09-05 16:54:40しかし、どんな高額の寄付金よりもツェッペリンの心を揺り動かしたのは、ある幼い少女から送られた僅か数ペニヒのお金でした。それは、彼女の全財産に他なりません。老いた巨人は再び立ち上がる決心をします。 これが後年「エヒターディンゲンの奇跡」と呼ばれる出来事の顛末です。 pic.twitter.com/5nmWmU8744
2020-09-05 16:55:10今や、伯爵と彼の飛行船は息を吹き返し、前人未到の領域へ果敢に飛躍する時を迎えようとしていました。 それは同時に、更なる試練の始まりでもあったのです。 pic.twitter.com/nqpTo4gmSX
2020-09-05 16:55:41ハイ、済みません。長すぎますね。しかも未だ航空事業の話に入れてないし、拙著の序章と内容丸被りやん!と怒られそうです。画像を充実させたのでお赦しを。 後編では色々改善したいと思います。
2020-09-05 16:56:07【CM】 WW1の最中、ブリテン上空で死闘を演じたツェッペリン飛行船団を描いた拙著、好評発売中です。「世界の艦船」5月号に書評掲載! 拙稿をご覧頂いて飛行船に興味を持たれた方は、是非お手に取って下さい。 amazon.co.jp/dp/4908862680/ リウマチ、肌荒れなど、万病に効きます。 (個人差あります)
2020-09-05 16:56:41【空中空母の系譜】 飛行船から戦闘機隊を発進させる、というロマンはあるものの、イマイチ実用性に欠ける試行錯誤の顛末はこちらをご覧下さい。 togetter.com/li/1521252
2020-09-05 17:22:01