妖精の騎士と鏡の女王(#えるどれ)

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帽子男 @alkali_acid

「ガミ…」 「私は…家庭に向かない人間だ…妻とも…子供達ともどう接していいか解らない…それだけではないだ…娘が年頃になった頃から…ああ…例の病が…あの子達にまで向きそうになる…」 「それでいいんだよ。戻し交配をするんだから」 「ケル。君、子供はいなかったね」 「うん」

2020-09-30 23:01:29
帽子男 @alkali_acid

「我が子に欲望を向けるような父を…尊敬する子などいないよ」 「あっは。君って純真だね。そんなの建前で、意外と血縁の間でも男女の関係は成り立つと思うけど」 「少なくとも私はだめだ…時の精霊を子孫として増やしたところで…とても従わせられない。孤立するだけだ」

2020-09-30 23:05:35
帽子男 @alkali_acid

ケロケルは一瞬天を仰いでからまた幼馴染に語り掛ける。 「でもダリューテとは沢山子供を作りたいよね?」 「それは君が…ああ…ダリューテとなら…うまくいく気はする…」 「そのためには頑張らないと」 「だが…無理だ」 「じゃあこうしよう。君は子供が生まれてくる前に心をのっとればいい」

2020-09-30 23:07:18
帽子男 @alkali_acid

「何?なんだって」 「転生…っていうのかな。君自身の霊気を赤ん坊の中に満たす。そうすれば産まれた時から君の分身だよ」 「それは…うん…しかし」 「君は時を自由に行き来し、すべての子孫に転生することもできるはずだ。そうやって無限の分身を作り上げ、最後は」

2020-09-30 23:11:45
帽子男 @alkali_acid

「ダリューテとの対決の場に集める」 「私の…分身を…どれぐらい?」 「さあ…千か、万か、億か。君は精霊だから分身と心を一つにすることができる。合唱が一つの歌になって聞こえるように、時の精霊の軍勢は巨大な一つの意思となるだろう。さすがにダリューテだって勝てないよ」

2020-09-30 23:13:35
帽子男 @alkali_acid

「解らない…あまりにも多くの矛盾があるように思えるが」 「あはは。そもそも時を遡って物事をやりなおすとか、転生するだなんて、もともと科学として考えるなら矛盾してるんだ。まるで辻褄が合ってない。物語だとすればご都合主義のでたらめもいいところさ。考えたやつは最低の間抜けさ。でもね」

2020-09-30 23:15:19
帽子男 @alkali_acid

狂気発明者は嬉しげにしめくくる。 「これは科学じゃない。魔法なんだ。何でもありなんだよ」 「本当に…本当にそうだろうか…」 「そうとも。やってごらんよガミ。うまくいかなかったらまた戻っておいで…あーところで、参考までに聞くけど」

2020-09-30 23:18:54
帽子男 @alkali_acid

童形の学者はとびきり愛くるしい笑みを作って問いかける。 「君、何回ぐらい僕を殺したんだい?」

2020-09-30 23:20:16
帽子男 @alkali_acid

時の支配者はかすれた悲鳴とともに助言役を塵に還した。今の己の行為が最後にはならないことを薄々察しつつ。 それから指示に従って繁殖に取り掛かる覚悟を決めた。 まず子育てにふさわしい伴侶を得ねばならなかった。妖精の騎士こそ望ましかったが、とうてい不可能だった。

2020-09-30 23:25:29
帽子男 @alkali_acid

幾人かを思い浮かべたが、どれも確証が得られない。いや場数を踏めばうまくこなせる自信もつくだろうが、今は無理だった。最初の結婚生活の失敗から這い上がるには、もっと確実な階梯を登らねばならなかった。 従順で、気立てがよく器量よしで、健康で、出産にも育児にも適性がありそうで温厚で、

2020-09-30 23:28:46
帽子男 @alkali_acid

何より時の支配者を敬い、心無い言動で傷つけたりせず、労り慈しんでくれなくてはならない。子育てにかまけて無視したり連れなくしたりする女も願い下げだった。 「…ああ…とても…いや…いる…いるとも」

2020-09-30 23:31:08
帽子男 @alkali_acid

時の支配者は過去から現在へとゆっくりと滑り降りていった。 そうして妖精の騎士が、冥皇の安置所に乗り込んでくる少し前までやってきた。 黒い多面体の要塞の奥の間に、絶世の美男は憩い、開いた両足の間に裸身の乙女が蹲って奉仕を行っていた。

2020-09-30 23:34:16
帽子男 @alkali_acid

若き精霊は、ずしりと重みがあって柔らかな乳房を掬い取り、確かめながら、ほっと安堵の息を吐いた。 ついで慌てて、あたりの時の流れを何万倍にも速めた。これで邪魔をされずに休息と慰安をとり、思索に耽れる。 「モック。だいぶ上手になったね」 穏やかに褒めて、伴侶の髪を撫でる。

2020-09-30 23:37:15
帽子男 @alkali_acid

欲望を解き放つと、口に貯めさせてからよく味わって嚥下するよう促す。躾けた通りに遺物鑑定士はすべてをこなし、賞賛のつど恥辱と恍惚の両方に苛まれるようだった。 「君に以前こうした経験がまったくなかったのは…もちろん結婚生活が単調だった…ということを意味しないだろうが」

2020-09-30 23:40:31
帽子男 @alkali_acid

「閣下…どうか…も…う…その話は…」 「あ、ああ済まない。ところで頼みがあるのだが…」 「なん…なりと…」 「できるだけ沢山…私の子供を産んでくれないだろうか…」 「…っ…こ…ども…」 「うむ…いや…残酷なことを頼んでいる…何せ子供の寿命は種族差から君より長く…待てよ…」

2020-09-30 23:42:46
帽子男 @alkali_acid

時の支配者は一瞬の間を置いて、違った口調で話し始めた。まるで瞬きするうちにどこかへ行って、誰かと相談を済ませて来たかのように。 「大丈夫。モック。君の肉の器が衰えても、この安置所にある生命の大釜を用いれば、若返らせられる。もちろん繁殖の力は失われるが…可能だろうね?」 「ぁ…ぅ」

2020-09-30 23:44:29
帽子男 @alkali_acid

時の支配者は遺物鑑定士を愛撫しながら、連れだった冥皇の財宝の一つを見聞しに向かった。 「どうだね。君の力なら解るだろう」 「…はい…生命の大釜は…死すべきさだめの人の子に、限定された復活をもたらします。ただしそれは…霊気までは修復できず…むしろ摩滅させていきます」 「そうか…」

2020-09-30 23:47:20
帽子男 @alkali_acid

「…まず記憶…それから…判断に…影響が…」 わななきながら、遺物鑑定士は厳正に呪具の機能を言い当てていった。待ち受ける自らの運命を。 若き精霊はしばしためらったが、やがて作り笑いを浮かべた。 「前向きに考えよう…記憶を失えば…君はもう…その…以前の結婚生活に悩まなくてもよくなる」

2020-09-30 23:51:19
帽子男 @alkali_acid

「っ…はい…」 「そうとも…これは幸せなことだ…そうだろう?」 「はい…閣下…幸せです」 モックモウは篭絡の魔法にすべてを委ね、今や心から愛おしく思える主人に蕩けた笑みを返した。ほかにどう答えようがあるというのか。

2020-09-30 23:53:24
帽子男 @alkali_acid

望み通りの返答を得た時の支配者は真底ほっとしたようすで幾度も頷いた。 「そうとも…これでいい…これでうまくいく…モック…君がいてくれて私は本当によかった…」 あたりの時の流れがまた変わる。気づくと二人の周囲には無数の光が揺らめいていた。いや正確には煌めきつつ下から上へ昇る砂の柱。

2020-09-30 23:56:47
帽子男 @alkali_acid

内部にはそれぞれ時の支配者に近似した麗しい相貌を持つ何かがいた。 「完成した」 時の精霊の一柱が述べる。 「永劫に永劫を重ねた繁殖の末」 別の一柱が述べる。 「我等はこの時に戻って来た」

2020-09-30 23:58:55
帽子男 @alkali_acid

「時間の靭性は限界に達しつつある」 すると中心に立つ時の支配者は、乙女を抱いたまま、周囲の口調が乗り移ったように淡々と返事をした。 「妖精の騎士を篭絡し…冥府へ通じる門を開かせる」

2020-10-01 00:01:11
帽子男 @alkali_acid

「冥府こそは折り畳まれた世界…かつて偉大なる種族が築いた帝国の首都たりし大地…精霊の故郷」 「折り畳まれた世界に到達し…時を遡り…唯一にして大いなるものによる破滅を防ぐ」 「しかして唯一にして大いなるものを廃棄し…我等時の支配者を正統なる時空の玉座につけるのだ」

2020-10-01 00:04:12
帽子男 @alkali_acid

「安定する…安定する…時間への負荷は解消され…空間の支配は獲得され…時の支配者の存在は確定する」 「始めよう…終(つい)の戦を…」 「唯一にして大いなるものに対する、最初で最後の戦いを…」

2020-10-01 00:06:12
帽子男 @alkali_acid

さらに多くの精霊が次々に到着しつつあった。過去のあらゆる時点で、あまたの女を篭絡し孕ませ、分身として転生させた存在。 数が増えれば増えるほど、合唱に人数が多く加わり音の響きが大きくなるように、時の支配者の力も強くなっていった。

2020-10-01 00:09:52
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