えんとつの町のやつの映画の感想

原作絵本でおかしいなと思ってたところが映画ではわりと直っていました。きちんと感動できるところ、面白いところもあったと思います。 ただあちこちで本人の喧伝したい主張、思想がチラ見えしていて、本人が語るほどエンタメに徹し切れてはいないなという印象です。作者が読んで欲しいのは子供じゃなくて大人なのだろうなとも思いました。 2021.1.1 ゴミ人間と捨てられた夢のテーマについての連ツイートを追加しました。 続きを読む
27
銅折葉 @domioriha

この「ゴミ」=「人々が直視したくない諦めた夢」の比喩は、絵本作成当初から完成に至るまで徹底して西なんとかさんが主張していたことのはずなのだが、絵本販売後はいつの間にかその強調がなくなり、映画版ではどこかにすっ飛んでしまった設定である。

2021-01-01 22:38:21
銅折葉 @domioriha

それはなぜかといえば、絵本版においてこの比喩がぜんぜん目立ってないのが原因だ。 ゴミ人間を見て町の人々は化け物と恐れ、臭いから近寄るなと怒鳴ったり暴力を振るったりするが、それだけなのだ。 ルビッチもプペルと同じ臭いをさせているが、それだけなのだ。

2021-01-01 22:40:15
銅折葉 @domioriha

この比喩を貫き通すのであれば、アントニオらにルビッチが嫌われる時、「あいつといたらお前も臭くなるぞ」とか「おなじゴミの臭い匂い同士、お似合いだぜ」などと言わせねばならない。だが、プペルと同じ空の上のホシを信じているはずのルビッチは、臭いとも汚いとも言われることはない。

2021-01-01 22:41:41
銅折葉 @domioriha

ルビッチは汚れるにはお誂え向きの煙突掃除夫をしているにもかかわらずである。これが非常によくない。 ついでに言えば、えんとつ町のえんとつは町の成り立ちにとって欠かすことのできない存在であり、そのメンテナンスをする煙突掃除夫はなくてはならない存在のはずだが、そこの掘り下げも全くない。

2021-01-01 22:43:51
銅折葉 @domioriha

ついつい軽視されがちな3Kの職場、インフラの整備に従事する人々が軽んじられているという社会的問題に関しても、ここからごく簡単に盛り込める要素なのに、触れていかないのも実に勿体ない話でもある。

2021-01-01 22:45:48
銅折葉 @domioriha

そして、えんとつ町は西なんとかさんが絵本発行後に唐突に思いついた腐るお金レターの発想を安直に盛り込んだことで、町の創設者シルビオ・レターが外の世界から切り離すための町になった。 えんとつは町の産業とは関係なく、煙で空を覆い隠すためだけの設備になり下がっている。何やってんだ。

2021-01-01 22:50:17
銅折葉 @domioriha

話を戻す。臭い匂いについては、プペルが毎日ゴミの山に潜ってルビッチのペンダントを探していた「驚きの事実」による感動を出すことでも台無しになっている。 毎日汚れて臭いのは、人知れずルビッチのために頑張っていた、という演出を入れたいがために、ゴミ人間に別の臭い理由を与えてしまった。

2021-01-01 22:54:42
銅折葉 @domioriha

ゴミ=捨てられた夢の比喩の上で、ゴミ人間であることの意味を求めるならば、わざわざゴミに近づかなくても勝手に臭くなり、勝手に汚くならなければダメなのに。これも当初の設定が意味を見失っている部分だ。

2021-01-01 22:56:01
銅折葉 @domioriha

そしてゴミ人間であるプペルだが、ゴミが捨てられた夢の比喩ならば、彼はその夢をもう一度実現しよう、実現させようとする意志(衝動)を持っていなければならないはずだ。 しかしプペルが自発的な行動を見せるのは、終盤唐突に何かに取り憑かれたように動き出してからだ。

2021-01-01 22:56:59
銅折葉 @domioriha

絵本版に顕著だが、この終盤の動きは、明らかに物語を無理矢理畳むための作者の憑依である。それまでのプペルとはまったく違う原理で、ガスを風船に詰めて空にいく方法も自然に理解している。 しかし彼がそうなるに至る説明はまったく語られていない、非常に片手落ちの描写である。

2021-01-01 22:58:48
銅折葉 @domioriha

プペルはルビッチ父の魂が帰ってきたものだから、ペンダントの事を自覚するなどしてルビッチ父の記憶や能力を取り戻した(自覚はない)という説明も一応可能だが、絵本版においても映画版においても、ルビッチ父は空にいくための知識も手段も持っていないのである。(映画版では他者のフォローがある

2021-01-01 23:00:42
銅折葉 @domioriha

特に絵本版ではルビッチ父は漁師であり、海の上で空のホシを見た経験があるので、記憶や知識を取り戻したならルビッチを連れて海に出るのが自然なのである。 この漁師設定は絵本版から足されたもので、舞台版ではルビッチと同じ煙突掃除夫だった。ここでも余計な設定変更で作品を台無しにしている。

2021-01-01 23:03:18
銅折葉 @domioriha

話を戻す。つまりプペルは、何も覚えていない、何も知らなくても、「あの空の上に帰りたい、帰らなきゃいけない」と思っていないといけないはずなのだ。 ゴミ人間たるキャラクターの造形において、彼からその衝動を奪ってはいけないはずなのだ。

2021-01-01 23:04:51
銅折葉 @domioriha

実際、作品解説においては「プペルとルビッチは町中から袋叩きにあっても、それでも空の上のホシを信じて上を見上げる」と説明されている。絵本版においてはプペルは一度もそういうことをしてない。映画では一応ルビッチの夢に同調しているがこれもルビッチへの友情が理由であり彼自身の衝動ではない。

2021-01-01 23:06:50
銅折葉 @domioriha

なんのためのゴミ人間なのか。

2021-01-01 23:07:10
銅折葉 @domioriha

そして、これ以上にゴミ人間であるルビッチには「えんとつ町で嫌われる」ためにやることがあったはずだ。 捨てられたゴミを拾い、それぞれの持ち主のところへ、これはアナタのものですよね、まだ動きます、使ってあげてくださいと言うべきだった。

2021-01-01 23:08:27
銅折葉 @domioriha

ゴミ人間は作中でただ臭い、ただ汚いだけで嫌われているので、ほとんどの読者が(西なんとかさんに相当近しい人でさえ)ゴミ=捨てられた夢の比喩を読み取れていない。 なんのためのゴミ人間なのか。

2021-01-01 23:10:23
銅折葉 @domioriha

レンズの割れた双眼鏡、動かなくなった車のおもちゃ、読まなくなった本、破けてしまったぬいぐるみ。 ゴミ人間は、えんとつ町の人々が捨てたゴミ、諦めた夢の象徴を拾い上げ、彼らの元へ戻そうとしな狩ればならなかったはずだ。 そうやってこそゴミ人間は迷惑がられ、嫌われなければならなかった。

2021-01-01 23:12:41
銅折葉 @domioriha

なんのためのゴミ人間なのか。制作スタッフ、「矛盾がないよう徹底的に何百回となく本文をチェックした」何十人というスタッフの中において、本当に誰かもう少し、プペルがゴミ人間である事の意味について真摯に考えてやる人はいなかったのか。 それが本当に残念でならない。

2021-01-01 23:14:29
銅折葉 @domioriha

映画版においては数々の設定変更に伴って、ゴミ=捨てられた夢の比喩が劇中においてほぼ意味をなさなくなっており、その結果ゴミ人間というキャラクターは当初の生み出された意義を失って、ただゴミで組み立てられただけの個性と、父へ邂逅する道具に成り下がってしまっている。

2021-01-01 23:16:58
銅折葉 @domioriha

こうなるともう感動的に歌い上げられる主題歌の、奇跡が近づいてる、とても綺麗な心があるといった歌詞も、もはやうそ寒い。 なんのためのゴミ人間なのか。なんのために夢を追う物語の中核に煙突掃除夫の少年とゴミ人間を据えたのか。もう誰もそこに振り返っていない。

2021-01-01 23:22:20
銅折葉 @domioriha

誰もが夢を諦めた世界で、疎ましがられる夢を語り、その言葉でついには空の上のホシを掴み、多くの人々にもその姿を追わせる偉業をなしとげたはずの。 人々が嫌うゴミでできた体の、口から吐き出す臭いガスで空の上に辿り着くゴミ人間の歩みは、映画版で完全に失われてしまった。

2021-01-01 23:25:14
銅折葉 @domioriha

ゴミ人間って言葉は刺激的で、臭い臭いと言われるの悪印象だ。 捨てられた夢をもう一度抱かせるために、あえてゴミでできた姿になったキャラクターの、最初にして一番大事な意義を奪ってしまった上、変質した物語の上でその心は綺麗だと絶賛させるのは、もう、本当になにをやってんだと言う他はない。

2021-01-01 23:27:48
銅折葉 @domioriha

この件について自分がえんえん粘着してるのは、自作を最高傑作と喧伝している西なんとかさん本人が、移り気に思いつきを次から次へと突っ込んでいくせいで(そして全ては計画通りということにしてしまうせいで)、作品の最初にあった一番肝心なところが軽んじられてるのが我慢ならないからだ。

2021-01-01 23:35:54
銅折葉 @domioriha

より正確に言えば、思いつきを次々好き勝手盛り込んでいくことで、物語はとっくに変質して別物になっているにもかかわらず、最初から全てこの通りだった、そして当初からのコンセプトは全て完全に成立していると喧伝してるのがあまりにも納得いかないからだ。

2021-01-01 23:37:48