ストレイトロード：ルート140（54周目）
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Rista_Bakeya
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Rista(化屋月華堂)
@Rista_Bakeya
「こんな大変な問題、どうして隠してるの」端末を持つ藍の手が震えていた。貴重な手掛かりが本体ごと割れないように手を添え、そっと引き取りながら内容を見た。推測しかできないが。「公にしないことが望ましいとの判断は大抵、何かを守る為です」「身分とか特権とか」「住民の命か」動揺が止まった。
2021-01-16 19:09:25
Rista(化屋月華堂)
@Rista_Bakeya
激しい雨風の中でようやく人がいる集落に辿り着き、扉を叩いたときには日没の時刻を過ぎていた。住民は私達を中に招いてくれたが、藍の存在を認識するなり表情が曇った。「まさか今日の天気は」「これが恐ろしい魔女に見えますか」ソファに寝かされた少女は視線が定まらない。予想以上に消耗が激しい。
2021-01-17 19:33:26
Rista(化屋月華堂)
@Rista_Bakeya
「奴らが高いところに集まるなら、低い土地に住めば安全じゃないか」藍が民話のように語っている話は仮に事実でも十数年前の事件に過ぎない。だが子供達は真剣に聴いているようだ。「怖い鳥はおじいさんの家に見向きもしませんでした」後日その家は長雨で沈み、怪鳥が水浴びに来る。藍はどう語るのか。
2021-01-18 18:50:44
Rista(化屋月華堂)
@Rista_Bakeya
140文字で描く練習、2677。低い。 自分にとっては身近でも、下の世代や違うコミュニティにとっては遠い世界の話になる。 TLで十数年前のトレンドを語ると昔話みたいに扱われるように。
2021-01-18 18:50:44
Rista(化屋月華堂)
@Rista_Bakeya
薬が効いてきたのか藍は眠っている。町医者が片付ける手を止め、私の顔をじろじろと見た。「何故落ち込む。預かった子をこんな状態にして不甲斐ないとでも？」力尽きるまで暴風と戦ったのは藍の判断。だが無理する前に止めるべきだった。「生きている内にここへ連れてきた。素人としては充分な働きだ」
2021-01-19 19:02:47
Rista(化屋月華堂)
@Rista_Bakeya
「すげー魔女なのに、あんなへぼいもの乗ってんのかよ」少年は藍の背後に回り、私達の車を指して言った。標的には今のところ完全に無視されている。「雨降らせてみろよ。できるんだろ。おい」魔女の二つ結いの一房に小さな手が触れた瞬間、横風が吹いた。蛇のようにうねる髪に驚いた少年は逃げ出した。
2021-01-20 20:52:23
Rista(化屋月華堂)
@Rista_Bakeya
画面は十数台のカートが直線を駆け抜ける姿を追いかけていく。青い車が通過した後、撮影者は奥のスタンドへとカメラを向けた。勝負の行方を見守る観衆の最前列に藍の両親が並んでいる。画面に映る誇らしい顔二つがアップになった途端、隣で見ていた藍が吹き出した。「二人とも来てたなんて聞いてない」
2021-01-21 19:52:35
Rista(化屋月華堂)
@Rista_Bakeya
「まだ隠してるんでしょ、宿題」助手席から左手が伸ばされた。目的を果たした藍は心に余裕が生まれたのだろう。信号待ちの間にプリントの束を手渡したら、彼女の右手の中で携帯端末が鳴った。『あなたの大好物を用意して待ってるから』母親は早くも娘の帰宅が待ち遠しいようだ。「本当に今作ってそう」
2021-01-22 19:17:01
Rista(化屋月華堂)
@Rista_Bakeya
画家は藍だけに小声で何か尋ね、耳打ちを聞くと溜め息をついた。「そっか。先入観って厄介だよね」美しい少女の背後で醜い生物が牙を剥く絵。それは空想の怪獣、子供の健やかな成長を脅かす諸問題に姿形を与えたものと作者は言う。「みんな本物を連想するんだ、もっとやばい奴が自分達の中にいるのに」
2021-01-23 19:13:10
Rista(化屋月華堂)
@Rista_Bakeya
廃材で建てられた小屋に怪我人が伏せていた。「むさ苦しい部屋でごめんな」案内役の男が断りを入れたのは、明らかに不快そうな顔を見たからだろう。気遣いに藍は退出を求める仕草だけで答え、私には医者の手配を指示して対面の場から追い出した。「事件を知る重要な人よ、まだあの世に逃がしたくない」
2021-01-24 18:50:23
Rista(化屋月華堂)
@Rista_Bakeya
怪物が落としていった鉱石の鑑定を依頼したら、入手場所や経緯をやたら細かく尋ねられた。「何度も言うが、ただ珍しければいいわけじゃない」悩む藍を煽るように店主が繰り返す。確かに一人の証言だけでは盗品や嘘を疑うだろう。だが彼女が秘匿したい理由も解る。珍しい生物には常に乱獲の危険がある。
2021-01-25 18:56:38
Rista(化屋月華堂)
@Rista_Bakeya
「折角の雨だ、遠ざけるなど勿体ない」僧侶は私達に着座を勧め、自らは立ち上がった。天候をかき乱した魔女に嫌味も言わず、床に皿を並べ始めたので困惑したが、程なく規則的な水の音に気づいた。雨漏りを受け止める狙いか。「貴方もひと休みするといい」藍を見ると雨垂れに誘われるように眠っていた。
2021-01-26 19:58:43
Rista(化屋月華堂)
@Rista_Bakeya
車のドアを開けた瞬間、周囲に溢れる音が何十倍にも膨れ上がった。そのほとんどは頭上のスピーカーが発する振動だ。藍が何か言いたそうにしているが、今は誰の声も通らないだろう。耳を塞いだまま歩き出した雇い主に黙って従った。鼓膜どころか全身でリズムを感じる。良し悪しは分からず、ただ喧しい。
2021-01-27 18:42:12