ストレイトロード:ルート140(54周目)

オリジナル短編「ストレイトロード」をベースに、毎日1作ずつ投稿している掌編という名の習作。 今回は2651~2700+おまけ。終盤のリクエスト回数以外の共通テーマは「形容詞」。なお各話の内容につながりはありません。 今後も引き続き1日1組つぶやいていきます。 続きを読む
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Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

今日の車内には不安も緊迫感もない。目的地は既知の場所、藍が友人達を連れて遊びに行くだけ。送迎を命じられた私は運転手として働く間少しも気を抜けないが、助手席の横顔を確かめるたび、こちらの頬もつい緩んだ。魔女になる前から親しい間柄だというから、今見せている笑顔も昔と同じかもしれない。

2021-01-03 19:57:50
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

140文字で描く練習、2662。親しい。

2021-01-03 19:57:51
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

「わたしのだけ少ない気がする」藍が取り分けられたサラダを睨んでいる。自分の皿と両隣、そして末席に落ち着いた私の分ともわざわざ比較しに来たが、見た目はほぼ変わらない。緑の葉はむしろ多いくらいだが。「何が違うの?」私は葉の下を一枚めくった。櫛形切りのトマトを見た藍は黙って席に戻った。

2021-01-04 18:48:52
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

140文字で描く練習、2663。少ない。 かさの問題と重量の問題は別物。

2021-01-04 18:48:53
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

怪物が去った朝、焦土と化した街の片隅で犬と戯れる親子に出会った。夜通し緊張に晒された子供達の息抜きに見えたが「神経尖らせてるのは大人の方でした」怯えた犬が騒いだ故に避難所を追い出されたという。「世知辛いと嘆いても始まらないので」落ち着いた犬は早くも藍に懐いたようで共に遊んでいる。

2021-01-05 20:13:33
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

140文字で描く練習、2664。世知辛い。 架空の災厄を描いているはずだけど、なかなか現実味のない苦難を思いつかない。どこかで見聞きしてそうな話になってしまう。

2021-01-05 20:13:34
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

チケットを買って映画を見る。この街で私達が取った行動は未だそれだけのはずだ。しかし藍は敵に囲まれたような顔で周囲を警戒していた。「全員やる気がない街って何なの?」言われてみれば笑いも前向きな表情も見かけていない。窓口での素っ気ない応対に始まり、害がない程度に冷たい従業員ばかりだ。

2021-01-06 19:18:21
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

140文字で描く練習、2665。素っ気ない。

2021-01-06 19:18:21
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

「車あるんだろ、早く出せ」宿屋の少年が藍に詰め寄った。「母さんと連絡がつかないんだ」入院先に行かなくてもいい、端末越しに毎日話せるから。昨日のすました発言はどこへやら、他愛ない会話の断片を口にしては大声で泣く彼を、藍は黙って後部座席に押し込んだ。私も指示を待たずハンドルを握った。

2021-01-07 19:12:55
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

140文字で描く練習、2666。他愛ない。 その瞬間には、その瞬間の会話の価値なんてわからない。

2021-01-07 19:12:55
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

荒野の赤土と青空を映す水面。写真映えする貯水池は確かに存在した。目当ての場所に着いたはずなのに、藍は歩き回っては首をひねる。「なんでこれだけこんな小さいの?」彼女が持つ写真には一本の木も写っていたが、何故か実物より高く見えた。合成ではないと明言されているから仕掛けがあるのだろう。

2021-01-08 20:08:15
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

140文字で描く練習、2667。小さい。

2021-01-08 20:08:16
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

はずみで藍の手から逃げた懐中時計を追い、今にも凍りそうな小川へ入った。岸へ戻った頃には全身の震えが止まらず、冷たい水に浸かった両足は感覚がなくなっていた。だが落とし物を受け取った雇い主に笑顔はなかった。「待てって言ったよね?」彼女なりの考えがあったのか。不満の他に本音が見えない。

2021-01-09 19:40:43
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

140文字で描く練習、2668。冷たい。

2021-01-09 19:40:43
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

経済の動向を伝える新聞記事に見覚えある名称を発見した。藍の父親が勤める会社は手堅い商売で苦境を乗り越えているようだ。紙面では魔女の存在に触れていないが、親子関係はそれなりに知られていると藍本人が言う。恐怖や嫌悪を抱く人々が心ない言動を親の職場にまで向けていることは想像に難くない。

2021-01-10 19:33:38
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

140文字で描く練習、2669。手堅い。 どんなときも揺れないものを持っているから強くあれる。先頭集団にも立っていられる。

2021-01-10 19:33:38
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

ガラス張りだったらしい温室は天井を失い、元あった植物は枯れ草として他の草木の足場となっていた。遠く離れた大陸の花実を潰したのは大雪か、あるいは未知の怪物が蒔いていった種か。藍が己の背丈を超えて育つ茎を見上げた。「これも遠いところから来たのかな」それは地図上にない場所かもしれない。

2021-01-11 19:48:16
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

140文字で描く練習、2670。遠い。

2021-01-11 19:48:16
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

ロビーで待たせていた藍は片手で口を覆いながら雑誌を読んでいた。北方の地域で怪物の住処を調査中の人物が寄稿したらしい。彼女の背後から文章を拾ってみると、生々しい描写が目についた。ただ巣穴を覗いただけではない。「多分もっとすごいもの見てる」藍が急に雑誌を閉じた。「人を襲うところとか」

2021-01-12 19:51:18
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

140文字で描く練習、2671。生々しい。

2021-01-12 19:51:19
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

薬草、野菜、穀物類。各々は害がない普通の食物なのに、ブレンダーにかけただけで様相は変わる。「よくあんなに苦いもの飲めたわね」耳打ちしてきた藍は匂いを確かめただけなのに疲れたような表情をしている。目の前でニコニコ笑う作り手の少女に悪気はないはずだが、彼女も味見だけで手を止めていた。

2021-01-13 19:34:24
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

140文字で描く練習、2672。苦い。

2021-01-13 19:34:24
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

「あなたは目立つからそこの後ろよ、早く」追っ手を撒きたい藍は看板の裏から葦の茂みを指し、私を川の中へ追いやった。幸いにもぬるい水だったので凍えはしなかったが、身を屈めて長時間じっとしているだけでも足腰への負担は大きい。無事やり過ごした後、車を隠した場所まで戻る道が一番苦しかった。

2021-01-14 18:50:21
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

140文字で描く練習、2673。温い(ぬるい)。 季節によっては危険な指示。

2021-01-14 18:50:21
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

タイヤを切り裂いた少年達を捕らえたら、文句の雨霰を浴びせられた。要約すると、恵まれた境遇と特異な能力をひけらかす魔女が妬ましいようだ。「あなたたちが持ってるのは嫌がらせの才能だけ?」通報をちらつかせる藍に向かって唾が飛んだが、風に叩き落とされた。「その頭、自分のために使いなさい」

2021-01-15 19:34:00
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