戦車小話~ドイツ重戦車って具体的に一体何がそんなに重くなってるの?

ドイツ重戦車と他国重戦車で比べると、案外サイズや装甲はそこまで大きな差がある訳でもないのに何故か一回りも二回りも異様に重い。ナンデ?! というおはなし
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えすだぶ@C103日曜東3"サ"-58a @FHSWman

車格の大きい戦車とか小さい戦車とか言いますが、装甲車体という鋼鉄箱のサイズは外寸とはずいぶん隔たったもので、同じ外寸でも実質的に大きい戦車と小さい戦車が普通にあり得るのであるなあ……と当然のことに今更合点がいったというおはなしでした

2021-03-03 19:37:35
えすだぶ@C103日曜東3"サ"-58a @FHSWman

IS-3の試作車から量産車にかけての車体前面装甲形状の変更も、これ車体の強化じゃなくて袖部の短縮による装甲面積の局限と軽量化なんですよね。もともと試作車でも車体防御は十分だったけど砲塔が弱くて、その強化に充てる重量を捻出する必要があったのです pic.twitter.com/qFspJ3nEaP

2021-03-03 19:57:58
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えすだぶ@C103日曜東3"サ"-58a @FHSWman

こうしてみるとIS-7の車体も、袖部を設けるにしても必要最低限の部分(砲塔まわりと機関冷却系の置き場)だけにして出来るだけ小さくせよ、という意図が感じられるです pic.twitter.com/aZVla7FJik

2021-03-03 20:00:03
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えすだぶ@C103日曜東3"サ"-58a @FHSWman

戦車の重さは装甲による部分が大きそうなきがしちゃいますけど、実際には大戦期でも装甲が総重量に占める割合は精々半分程度なんですよね。ただ装甲が重くなればより強力なエンジン、強い足回り、面積の広い履帯が必要……と吊られて諸々の重量が増していくんで、装甲重量の影響は間接的にはより大きい

2021-03-03 20:15:13
えすだぶ@C103日曜東3"サ"-58a @FHSWman

だからこそ装甲面積の局限(シルエットの縮小とは必ずしもイコールではない)はとてもだいじなのであることだなあとか、でも大戦期ドイツ戦車はその観点がちょっと弱いよねみたいな、ええと

2021-03-03 20:18:51
えすだぶ@C103日曜東3"サ"-58a @FHSWman

もちろん彼らにそういう発想がまったくなかったという訳では勿論ないですが。「エンジンが大きいと車体が長くなる。車体が長いと装甲面積が増えて重くなる。戦車用エンジンは短く作れ!!」みたいな事は言われていて、そして実際素敵に短いエンジンを用意しましたし

2021-03-03 20:29:43
えすだぶ@C103日曜東3"サ"-58a @FHSWman

ドイツ戦車は弾薬搭載容積の話ですが、搭載数以外に弾薬それ自体の嵩にも差があったかも? 彼らが使ったジグリコール系装薬は原料調達がしやすい代わりにニトロセルロース系に比べてエネルギーが小さいんで、同等の砲威力を達成するのにより多くの装薬が要る、つまり薬莢が大きくなるかもで

2021-03-04 12:50:12
えすだぶ@C103日曜東3"サ"-58a @FHSWman

ただこうやって各国戦車砲の弾薬を並べてみるとよくわからない。そも各々が「同等の砲威力」ではないので揃えて比較しようがないんですけどもね。んでも例えば17ポンド砲とパンター砲だと後者が装薬量1割多いにもかかわらず威力ほぼ同等なんで、たしかに嵩張ってるとは言えるかも pic.twitter.com/pFOu0ph0Zg

2021-03-04 12:59:20
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えすだぶ@C103日曜東3"サ"-58a @FHSWman

いっぽうドイツは戦車砲専用の弾薬を用意することがおおくて、他の火砲と共通弾薬にしがちな他国に比べると戦車砲に適した太く短い薬莢形状を選びやすかったというのはあり。IV号長砲身なんか好例で、他国3インチ50口径級と同クラスの割にはあんまり嵩張らない弾薬に仕上がってます

2021-03-04 13:01:22
えすだぶ@C103日曜東3"サ"-58a @FHSWman

しかしそれでもコメットの77mm砲弾薬の素敵さには及ばないあたり、やっぱり大戦期ドイツの火砲弾薬は嵩張りがちかもで

2021-03-04 13:03:37
えすだぶ@C103日曜東3"サ"-58a @FHSWman

・大威力砲でも弾薬搭載数に妥協しない ・ジグリコール系装薬(薬莢が嵩張る?) ・前輪駆動(ドライブシャフトによる床下空間占有) ・砲塔バスケット(空間占有) ・ガソリンエンジン(最終的な空間効率はディーゼルに劣る) ……こう並べてみると大戦期ドイツ戦車って容積を食う要素が多いですわね

2021-03-04 13:24:50
えすだぶ@C103日曜東3"サ"-58a @FHSWman

大戦期ドイツ戦車開発は戦車をコンパクトにしようとしてる気配が薄い印象がありますが[要出典]、それはその意図がないんじゃなくて、構成するそれぞれの要素がいずれも空間を必要とするものなので、全部あわせると自然に容積の大きいハコが必要になってしまうのであるなあ

2021-03-04 13:27:08
えすだぶ@C103日曜東3"サ"-58a @FHSWman

厄介な事に、個々の選択自体は合理的なんですよ。持てる弾数は多いほうがいい。ジグリコール系装薬は必要な資源が戦時下ドイツでも調達しやすい。前輪駆動は操作伝達系が単純。バスケットは前輪駆動なら必須。ディーゼルはまだ得体が知れないので進歩したガソリンエンジンに及ぶものかどうかわからない

2021-03-04 13:32:46
えすだぶ@C103日曜東3"サ"-58a @FHSWman

しかしそれを全部入れるには大きな箱でないといけなくて、それはどうしても重くなってしまう……これ、部分最適化の行き過ぎとか非難するのは簡単だけど、予測しろというのはちょっと無理というもんですわね。未来の我々は出来たものを見ながら好き勝手言えますが、彼らの前には前例が何もないのだし

2021-03-04 13:39:08
えすだぶ@C103日曜東3"サ"-58a @FHSWman

そういやセンチュリオンは車体袖部がなくて車内容積が小さいんだよなみたいな話がありましたが、同時に重量を抑えやすい構成でもあるわけだなあ。実際パンターより薄らデカいのに、装甲強化したり何だりする前の当初の重量はパンターと同等なんで、たしかにサイズの割には軽いと言えるかも

2021-03-04 17:28:25
えすだぶ@C103日曜東3"サ"-58a @FHSWman

弾薬搭載数はセンチュリオンMk.1で74発、Mk.2で81発でなんで、後者ならパンターと同等。そして弾薬サイズはセンチュリオンのほうが若干ながらコンパクトなんで、弾薬に食ってるスペースはパンターのほうが大きい筈です

2021-03-04 17:38:50
えすだぶ@C103日曜東3"サ"-58a @FHSWman

そんで搭載燃料はパンターが720Lに対してセンチュリオンが458L。パンターが車体袖部にデカい燃料タンクを設けられたのに対して、センチュリオンはエンジン脇に小さいのしか置けなかった格好で、まさに車体袖部の有無による車内容積の差が響いてるんだなあ(センチュリオンはうまい図が見つからず) pic.twitter.com/kIUsMI6uNg

2021-03-04 17:43:08
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えすだぶ@C103日曜東3"サ"-58a @FHSWman

ここに更に戦車用ガソリンエンジンとしては一つの頂点みたいなHL230と、ミーティアのくそ燃費とが合わさって、実際の航続距離では倍の差がついてしまうわけです

2021-03-04 17:47:34
えすだぶ@C103日曜東3"サ"-58a @FHSWman

とまあドイツ戦車の車体袖部は重くてくそみたいな話をしましたが、一方でこんな風に車内容積増大の利点も実際無視できないわけですね。パンターとセンチュリオンは袖部の有無以外は規模的に似てて、この好例かもで

2021-03-04 17:51:34
えすだぶ@C103日曜東3"サ"-58a @FHSWman

戦車とはつくづく、あちらを立てればこちらが立たない、ままならぬ代物であることだなあ……

2021-03-04 17:52:08
えすだぶ@C103日曜東3"サ"-58a @FHSWman

先日の「ドイツ重戦車が他国重戦車に比べてやたら重かったのは車体袖部のせいでは?」というおはなし、もうちょっと具体的にしたかったので3Dモデルで超ざっくり装甲重量を推定してみました。虎のガワの重量が30tのところ、単純に袖部を切り取ると5t弱も減るようで、やっぱり車体袖部が意外に重いぽい pic.twitter.com/v1LN9xXieK

2021-03-09 20:54:49
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えすだぶ@C103日曜東3"サ"-58a @FHSWman

ちなみにこの推定、実際戦後ソ連の資料だと虎の車体ガワ重量は22t、砲塔ガワ重量8tとあって装甲重量計30tなので、怪しげな推定にしては意外に悪くない線かもです

2021-03-09 23:03:39
えすだぶ@C103日曜東3"サ"-58a @FHSWman

もちろんこのままだとラジエターの置き場がなくなるんで車として成立しなくなるんで、実際には車体袖部を無くすには大幅なレイアウト変更が必要になりますけどね。これはあくまで単純化したおはなしです

2021-03-09 20:58:54
えすだぶ@C103日曜東3"サ"-58a @FHSWman

で、戦車は装甲重量が減るとそれ以外も軽くできます。接地圧が同等でいいなら軽くなった分だけ履帯はもっと狭く軽いので済むし、走行装置も華奢でよく、また(機動力を据え置きにするなら)馬力もそこまで必要なくなるのでエンジンも小さく済む。補機や変速系もしかりで

2021-03-09 21:04:11
えすだぶ@C103日曜東3"サ"-58a @FHSWman

虎で車体袖部をなくすと装甲重量は5t減って、容積が減って積める燃料と弾薬が減る分をざっくり1t減、それらを支える足回りと駆動系は3tくらい減らせて(無茶苦茶雑な数字)……計9t減る。つまり車体袖部をなくして「弾薬や航続距離に妥協していいなら」虎は48tくらいの重戦車に抑えられるかもなのです

2021-03-09 21:18:32