【山を降りる】福間健二 #k2fact316
山を降りる。子どもには泣くところ見せない三拍子で背中を硬くして。大きくなる。一、二、三、時間との勝負でも、すりきれた靴で労働している人たちのことを考える余裕、ないとは言わせない関東地方の冬の光。家々が見えてくる。目をつむりたい。どうぞ、おたがいさまだ。(山を降りる1) #k2fact316
2021-12-20 12:03:17いつもの自分じゃない。一日の終わりに片付けること、なにか忘れている。いつもぼくを見ている男が降りてこないのだ。靴下、厚いのに替えたのに。法則に素直な形成物をおしのけないようにしたのに。月が近くに見える。犬がいる。みんな、泣きたい前に崩れかかっている。(山を降りる2) #k2fact316
2021-12-21 11:49:17処分してなかったグレーのコートとみんな。まだ大きくなる。泥棒なの、でも社会批評的なことが好きなのよ、と姿勢はきれいでも、通路でまなざしが透きとおらない。みんながどうだというのはほとんど嘘だから。猫がいる。人間に戻る方法。忘れていいことなのかもしれない。(山を降りる3) #k2fact316
2021-12-22 11:31:34だれだったか、じゃない。だれの敵だったか、何に味方したか、だ。墓地で片方だけ脱いだ靴が思い出すのは。二階の窓はわかっていない。だれかに覗かれていること以外は。「やあ」と言う。「やあ」だけでいい。それで安心する人。あけてはいけない箱があるのを知っている。(山を降りる4) #k2fact316
2021-12-23 13:46:00アンナ、ジンナ、刻まれた名前がうるさい。芸能界、資料室、いやじゃなくても作業場の顔で通した。光から光へ、動物の目が動き、何をすればいいか困ってもいつもポケットがいくつもある服。硬くなる。固くなる。どっちだったのか。途中で書くのをやめた手紙、破ってない。(山を降りる5) #k2fact316
2021-12-24 10:46:12大、丈夫、です。まちがって買った品を快く取り替えてくれたコンビニの若い女性に感謝して渡った交差点の思い出。信号が変わるのを待てない少年、でもやさしい目。雨があがって、段ボール箱に入れて置かれている動物に会う土曜日だろう。だれと永遠に別れる。まだ知らない。(山を降りる6)#k2fact316
2021-12-25 12:25:48置かれている。置かれていった。バイ・ナニ。知りたかったこと、聞いておきたかったことは、何年も経ってからの再訪の旅でわかる。震える手とまじないの言葉がきみの背骨を守った。追いついた。追い抜いた。盗めるもの盗んだ。でも、少年の物語はつづく。まだ脱ぐ皮がある。(山を降りる7)#k2fact316
2021-12-26 13:29:05最初の山、途中の山、最新の山。積極的な三拍子の、共通の課題は人間らしさで、変化を確かめる。そう、割るもの割って運ぶもの運んで脱皮が終わらないのだ。生きること、りーちゃん、しーちゃん、下平尾さんに教わって、まだ防備なし。定期的にやってくるものには退屈する。(山を降りる8)#k2fact316
2021-12-27 14:03:18人間らしさ。立って歌うってこと。遠くからやってくるものが背骨に入り込むってこと。いつのまにか鍵があいているってこと。さっき三日月書店の前から電話してきた人。過去も未来もないというわけにいかない旅人。年末、残った仕事を歩きながらする。関東南部、天気はいい。(山を降りる9)#k2fact316
2021-12-28 12:52:08山を降りる。ひとりの男を追って。小さな、静かな町。彼との関係は不明のだれかの脳のなかにある正解が先に降りて、騒動の一歩手前。彼の影は薄い。さっきまでここにいた気がするけど。そう言ってくれるのは人間に戻ったばかりのきみ。酒場のカレーライス、一緒に食べよう。(山を降りる10)#k2fact316
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