ブレヒト『アンティゴネ』の邦訳について

ブレヒト版の『アンティゴネ』を訳しているので、従来の代表的な邦訳である谷川道子先生の光文社古典新訳文庫版と、岩淵達治先生のブレヒト全集版の両方と解釈が異なる箇所をまとめました。ツイート中、岩渕先生の邦訳の引用はIで、谷川先生のはTで示しました。また、二種類の英訳を参照し、そのうち、Judith MalinaのはMa、David ConstantineのはCで略記し引用しています。ソフォクレスはS, ブレヒトはB、ヘルダーリンはHです。
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🍉💛北野雅弘💙🍉 💉×7 @MasahiroKitano

K 「私たちはベーコンを切り分けてパンを食べた。  私たちの飢えを満たすのに兄さんが持ってきてくれたパンを。」 ここは脇台詞、というか回想の台詞なのに両者とも対話の中に入れている。 #アンティゴネ #ブレヒト

2021-01-16 17:56:07
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本篇120のクレオン Von elf Stadtschaften Entrannen wenige, die wenigsten ! I 「十一の地区軍団のうち、逃げのびたものはわずかだ」 Stadtschaftは辞書的には「都市信用組合」やねんけれど(大独和, Wahrig)ここでは多分「街区」「地区」そのものではないかしら。英語のtownshipがそう。

2021-01-17 12:11:17
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クレオンは街全体に殲滅戦を仕掛けてるってのはあとで出てくる。英訳はCがtownshipでMaはcitiesでMaは都市国家的ではない。Tは「十一の軍団の隊列」

2021-01-17 12:14:08
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細かいけれど 135 Die edelsten Geier I 「堂々たる禿鷹」 T「たくましい禿鷹ども」 K「気高き禿鷹」 もとのゲーテの「西東詩集への注記」の小林訳は「高い身分のはげたか」

2021-01-17 12:24:07
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次は #ブレヒト#アンティゴネ の邦訳に大きな疑念を持つきっかけとなった最初の箇所三つ連続の文 ① einmal, weil ich weiß Ihr rechnet nicht dem Kriegsgott die Räder nach Am feindzermalmenden 'Wagen T「諸君は、戦さの神に支払う、敵を踏み潰す戦車の代金の収支をないがしろにし」

2021-01-17 12:33:35
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Iは「まだ払っていない」。 4行前にFreundeって呼びかけ大喜びの勝利を告げた相手にひどいお言葉。ここはテバイの民を褒める文脈だろう。直訳で分からないわけでもない。 K「敵を踏みにじる戦車の車輪の数を戦さの神に数えたてはせず」 戦車の車輪の数を数えない≒経費を気にしない≒総力戦

2021-01-17 12:38:09
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② noch geizt ihm Das Blut der Söhne im Kampfe, T「戦場で捧げる息子たちの血も、出し惜しんでおる。」 これもうFreundeに言う言葉でも、勝利報告で言う言葉やない。 I「惜しんで十分に捧げていない」

2021-01-17 12:42:08
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辞書にはnicht A, noch Bはweder A, noch B(AもBもない)って書いてある。ここは多分チラ見したのも含めて全ての邦訳がT, Iと同じ。なんかあまりの一致に自分がおかしいのかと思いつつ K「子息らの血を戦場で惜しみもしていない」(147-9)

2021-01-17 12:50:38
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③doch ist Kehrt er geschwächt unters wohlgeschirmte Dach Viel Rechnen am Markt, ここはIは正しいように見える。 I「もし/戦さの神が戦い疲れて安全な神殿に戻ってきたら/たくさんの勘定を済まさねばならぬ。」 T「もし戦さの神が弱りはて、敗けて」 #ブレヒト は敗北前提ではない。

2021-01-17 12:55:50
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geschwächt (弱って)から敗北を想定したのだろうけれど、勝利の凱旋軍であっても行った時よりは「弱って」戻るのは当然で、クレオンは反事実的仮定ではなく、事実的に「勝利」後の軍費の精算のことを話している。

2021-01-17 12:59:01
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K「神が兵力を減らして自らを安全に保護してれる屋根の下へ戻るときには、市場では数多くの計算がなされるのだ」 リズムが悪いなぁ。修正の余地あり。

2021-01-17 13:01:50
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der, über die Nacht Des Meers, wenn gegen den Winter wehet Der Südwind, fähret er aus In geflügelten sausenden Häusern. T「冬に逆らい南風(みなみ)吹けば」I「冬でさえ南風(はえ)が吹けば」人は帆船に乗って海に乗り出すという箇所。 「冬だけれどラッキーなことに南風なので」なのかしら

2021-01-17 18:23:26
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これはヘルダーリン訳そのままなのでまずソフォクレスではどうか。Jebb は、stormy south winds were associated with winter と考えてヘシオドスを挙げる。南風(ノトス)は春夏は穏やかだけれど冬は嵐。

2021-01-17 18:31:45
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もともと原文のχειμερίῳ νότῳは冬の(嵐の)南風ってだけなのでgegenをHが逆説的に捉えたことはなさそう。gegenは普通に時を表すかしらね。私はソフォクレスでは「冬、吹き荒れる南からの風」ってしてた。wehenはそよ風にも嵐にも使うみたい。 K「冬、南からの風が吹く中」かなぁ。

2021-01-17 19:04:45
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278 Und der Himmlischen erhabene Erde T「天の恵みの大地をば」 I「神々の崇高な大地」 もとは「神々のうち、最も畏きガイア様」 ヘルダーリンは神名を全部名詞に変えてるのをだいたい気づいていたけれどここは見落としてる。der Himmelischenは部分属格かな。

2021-01-17 19:59:40
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人は一人では腹も満たせないのに、持ち物を壁で囲ってしまう、という言葉のあとで、und die Mauer Niedergerissen muß sie sein ! Das Dach Geöffnet dem Regen !(306-8) I『その壁をとっぱらえ!屋根を雨に向かって開けるのだ!」 T「壁を壊さなければ奪えない!雨なのに/部屋をぶち抜いてしまう!」

2021-01-17 22:53:50
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ここはソフォクレスから外れたブレヒト独自の言葉なので自信がないが「壁は壊さねばならない」はコロスの主張(muß seinやし)、「屋根を雨に開く」は状況の記述ではないかしら。 K「壁は壊さねばならない。屋根が開いて雨が降り込んでいるのだ!」とした。

2021-01-17 22:58:12
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人は雨を避けるすべを覚えたってのは自然の脅威を避ける能力を持つと言う肯定的人間観なのだから「屋根を開けろ!」と言うだろうかと思うのと、「壁」は私有と猜疑心の象徴だから「壁は取り払わねばならぬ」は記述ではなく当為だと思う。Tは両方当為に、Iは両方記述にした。(引用でIとTを逆にしてた)

2021-01-17 23:04:32
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Cはthe wall Must be tom down. The roof Opened to the rain. でThe roofのあとにmust beが省略されていると見ればTと同じ、openedがThe roofを修飾してると見ればKと同じ。 Malinaはand the wall: It must be torn down! Open the roof to the rain! でTと同じ。

2021-01-17 23:08:59
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見張りに連れてこられたアンティゴネを見たコロスの最初の反応 Wie Götterversuchung aber stehet es vor mir(311) T「神の試練」I「神々の試練」 試練の内容は、 T「あの娘と知りながら、そうでないと言えという」 I「犯人はわかっているのに、とても言えない、アンティーゴネ、/あの娘だと」

2021-01-18 11:24:56
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Tだと連れられてきた娘がアンティゴネだと「言わない」のが「試練」でコロスは実は言いたい。Iだと「言う」ように神は求めているのだけれど「とても言えない」で、「言う」ことが試練。 「試練」と解する限りIが妥当。

2021-01-18 11:30:06
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でもドイツ語はDaß ich sie weiß und sagen doch soll / Das Kind sei's nicht, Antigone.(312-3)で「この娘がアンティゴネでない」ということが「試練」。 コロスは「アンティゴネでないと」言いたいのだから、これは「試練」ではないだろう。

2021-01-18 11:34:53
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ちなみにソフォクレスでは「これは、神様の作られた幻なのか! この方は #アンティゴネ お嬢様、そうと知りながら否定などできようか」で「神々の試練」の311行だけ #ブレヒト はヘルダーリンを変更している。 なので「神々の誘惑」かしら。コロスの「否定したい思い」を煽る誘惑

2021-01-18 11:40:25
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もちろんVersuchungと言う言葉ですぐ思い出すのは、悪魔からキリストへの「荒野の誘惑」で、あれは「試み」という訳語もあったような気がする。ただ、「悪魔の試練」にはならない。ブレヒトがそれを念頭に置いていたかどうかは知らない。

2021-01-18 11:46:00
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345-7 Und sammelt wieder Staub auf ihn, vom Eisenkrug Den Toten dreimal mit Ergießungen Verschüttend T「それから又、砂を集めて、鉄の壺から三度、死体にふりかける。」 地面から砂を集めてそれを一旦鉄の壺にいれてその壺から三度振りかけてるような記述。Iも同様。なんでそんな手間を…

2021-01-18 14:11:54
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