ブレヒト『アンティゴネ』の邦訳について

ブレヒト版の『アンティゴネ』を訳しているので、従来の代表的な邦訳である谷川道子先生の光文社古典新訳文庫版と、岩淵達治先生のブレヒト全集版の両方と解釈が異なる箇所をまとめました。ツイート中、岩渕先生の邦訳の引用はIで、谷川先生のはTで示しました。また、二種類の英訳を参照し、そのうち、Judith MalinaのはMa、David ConstantineのはCで略記し引用しています。ソフォクレスはS, ブレヒトはB、ヘルダーリンはHです。
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🍉💛北野雅弘💙🍉 💉×7 @MasahiroKitano

鉄の壺には何が入っていたの? #アンティゴネ はポリュネイケスの死体にかけた砂が取り除かれているのを知らなかったのだから、直ちに砂を集めてそこに被せ、それから持ってきた壺に入っていたErgießungを振りかけた。

2021-01-18 14:17:32
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K「もう一度砂を集めて彼に被せ、鉄の壺から三度に分けて供養の液体を注いだのです。」とした。auf ihmで集めた砂を遺体の上に被せていることがわかる。 冒頭でのイスメネとの対話中にアンティゴネは砂を壺に入れているのだけれど、その砂は最初に使われている(いわゆる「第一の埋葬」)

2021-01-18 14:21:49
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一旦戻った #アンティゴネ は、壺に供養の液体χοήを入れ、それを持って供養の儀式を完成させようとするのだけれど、遺体がむき出しになっているのを見て砂をかき集めて彼を覆い、それから供養の液体を注いだ。

2021-01-18 14:26:28
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第一の埋葬の時、「下手人は痕跡を残していない」つまり足跡もないのにその場で砂を集められたのは直前に竜巻が起きたからかしらね。ソフォクレスでは「地面は固く乾いていて」ってあるけれどブレヒトではそこは省略したような。

2021-01-18 14:49:24
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この「供養の液体」だけれども、『オデュッセイア』Xでは「乳と蜜を混ぜたもの」「甘い酒」「水」となっていて三種類を別々に注ぐ。『コロノスのオイディプス』でも一揃いの壺から供養の液体を注ぐ。最後の壺の中身は「水と蜂蜜、ただし酒は加えずに」なので、いろいろ混ぜたものを注ぐ習慣もある。

2021-01-18 15:13:18
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いろいろ問題があるポリュネイケスの「二度の埋葬」なんだけれど、ブレヒトでは、最初は砂をかけ、二度目にコエー(供養の液体)を注ぎに行くと言う良い動機付けがされている。

2021-01-18 15:15:40
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次はそんなに自信がない。#アンティゴネ はコロスの考えが自分と同じだと期待してコロスに訴えかけるがコロスは沈黙したまま。それを受けての言葉 Ihr also duldet's. Und haltet das Maul ihm. T「自分をおさえて、牡蠣みたいに黙り込んでるのね」 I「みんな我慢して、王に口をつぐんでいるのね」

2021-01-18 20:09:28
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duldenはここで「耐える、我慢する」なのか? 解釈の問題に入り込んでるけれど、第一声が「大掠奪の勝利がやってきた」であるコロスが実は #アンティゴネ と同じ立場で圧政に「耐えている」のだと解釈する余地はほとんどないはず。 K「あなたたちは黙認するんだ」 #ブレヒト 版のコロスは加害者の仲間

2021-01-18 20:15:50
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だからアンティゴネのその後の言葉がUnd sei's nicht vergessen !になる。これは勝利を喜ぶコロスのUnd nach dem Kriege hier Macht die Vergessenheit aus ! に対応しているように見える。

2021-01-18 20:21:02
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477-9 "wie der Gast, ...sein Bündel machend, die Lagergurte durchschneidet よく分からなかったところ。クレオンが #アンティゴネ を嫌われて出ていくよう求められた客に例えている。 I「帰りがけの駄賃に/寝床を壊してその革紐で荷物を括っていくような手合い」 ベッドに革紐? #ブレヒト

2021-01-19 15:22:57
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T「使ったベッドを壊し、その革紐で荷物をまとめる」で同じ。 ベッドの革紐って何なんだろう。 C "Who packing his bags in his insolence cuts through the guy-ropes" マリーナも分からなかったみたいで"who insolently tampers with his luggage."

2021-01-19 15:28:26
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「荷物をまとめながらLagergurtを切断する」のだと思うのだけれど、Lagergurtで検索すると bit.ly/3sybdKR とか bit.ly/3qzku3q が出てくる。なぜか馬用品のサイトが多い。

2021-01-19 15:52:24
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寝袋などの荷物を一まとめにする革紐ってことだとすると、「荷物をまとめながら革紐を切る」で、そうすると荷物はまとまらないので「ぐずぐずする」って意味。それで良いのか。

2021-01-19 15:55:38
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Malinaは分からなかったのではなく意訳したのね。 guy-ropeはテントの張り綱なので、そちらだとすると陣屋に来てて、追い出されて行きがけの駄賃にテントの張り綱を切って帰る客ってちょっと今の場面と合わない。

2021-01-19 15:59:05
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K「荷物をまとめるのに愚図愚図と時間をかける客」にしよう。 しかし、「ベッドを壊してその革紐で荷物をまとめる」ってどういうことをイメージしてたのだろう。

2021-01-19 16:04:46
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ドイツのベッドは革紐が標準装備でそれは壊さないと取り出せないのだろうかと思ってしまった。 例えそうだとしても、ベッドを壊してその革紐で荷物をまとめる客ってどんな客やねん。

2021-01-19 16:33:41
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ようやくイスメネ再登場 502 "Ich bin die Täterin, stimmt mir die Schwester zu" T「私も手を下しました。お姉様も認めてくれるはず」 ここはソフォクレスでは条件文。#ブレヒト はヘルダーリン訳を使っていないけれど、普通に倒置の条件ではないかしら。 K「姉がそう認めてくだされば」

2021-01-19 17:07:11
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でそれへのアンティゴネの応答 504 "Das wird die Schwester aber nicht erhuben" T「妹よ、そんなことは許しません。」 I「妹よ、そんな偽証をしてはいけません」 このSchwesterは姉のこと。 K「だが姉はそれを許しはしない」 「姉が認めるなら」「姉は認めない」って応答。 #ブレヒト #アンティゴネ

2021-01-19 17:09:10
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509-11 "Bei denen, die durchgängiger Weise sind Und die Gespräche halten miteinander drunten : Die mit den Worten liebt, die mag ich nicht." I「志を変えずに死に、あの世でも/互いに語らいを続ける人たちにかけて」 Tも同様。これはブレヒトの文脈では正しいと思う。

2021-01-19 20:07:12
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但し、Hも同じ言葉遣い。でHはソフォクレスのἍιδης χοὶ κάτω ξυνίστορες「ハデスさまも、地下に住まう方々も」の訳なので、「死んだ人たち」の意味。よく考えるとここでアンティゴネが「志を変えずに」死んだ人たちについて語る理由は特にない。 K「逝ってしまった人たち、地下で語らい合う人たち」

2021-01-19 20:13:12
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「逝って」の漢字にニュアンスをちょっと込めた。 ここはConstantineの英訳は "By those who have gone through with it"とwith itにT, Iと同様のニュアンスがあるような感じ。Malinaは"By all who are beyond the world of matter"と「死んだ人たち」くらいの意味合い。 T, Iの方が良いかも。

2021-01-19 20:22:07
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アンティゴネとイスメネの対話の箇所は大体異論ない。細かいけれどそのあとのコロス一人がクレオンに杖を渡す場面546-7 stampfe du Nicht zu hart den Boden und nicht, wo er grünet. T「やたらと緑の大地は蹴飛ばしなさるな」 K 「大地をあまり強く踏んでも、緑が芽を出している場所を踏んでも…」

2021-01-20 12:18:55
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ソフォクレスで言う第二スタシモン。#ブレヒト はオリジナルの「ラクミュスの兄弟たち」の物語を付け加えている。 ラクミュスの兄弟たちは、悲惨な状況を耐えていたが、ある日ペレアスが杖を二人にふるった時に怒り、立ち上がり虐待者を打ち殺した。という話に続けて 557 Dies war diesen das ärgste

2021-01-20 14:17:16
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T「二人には苦しめられたことが一番許せないことだった」 虐待はずっと続いていたので、このDiesは「苦しめられたこと」と言うよりも、むしろペレアスに杖で打たれたこと。 K「それが二人には最悪のことだったのだ」とするだけで「それ」が何を指すかはわかる。

2021-01-20 14:20:52
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