- rouillewrite
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そのうち、自分の手が血塗れなことに気づいた。 いつの間にかリボンも外して、チョーカーも外して、痒くて痒くてたまらない首を掻きむしっていたらしい。 自分の爪についた血がそれを物語っている。
2022-03-13 22:07:14手についた血を見ているうちに、その手が3つにも4つにも増えて見えた。 目眩がして、視界がぐらつく。 傍にあったベッドにリボンを放り投げて座り込むように寄りかかると、転がった瓶の中身が散らばった。 白くて、醜くて、可愛らしくて。
2022-03-13 22:07:39咳き込んで出た血が、唇を伝う不快さに襲われても動けなくて、ルーシャンは静かにベッドに身を任せる。 頭が痛い。 首が痒い。 手が震える。 視界が霞む。 息が苦しい。 白い部屋が、妙に広く感じて、甘ったるい香りに噎せ返りそうになった。
2022-03-13 22:08:43そのうち、ここでの出来事が走馬灯のように駆け巡ってきた。 嘘をつき続けて、可愛らしくいた自分を優しく受け止めていた彼らは、今までの人たちと何か違っただろうか。 自分が何を言っても決して可愛がるような様子を見せなかった相棒の彼は、今までの人たちと何か違っただろうか。
2022-03-13 22:09:35今ここに誰もいないのは、嘘をつき続けたからだろうか。 周りを騙して楽しんで、最後は誰にも信じて貰えなかった狼少年のように。
2022-03-13 22:10:07ルーシャンそばに落ちていた瓶の中身を、震える指先で掬いとると、血の味のする舌先へと放り込んだ。 甘い。 あぁ。 こんな甘い夢ならば、みんな蕩けてしまうだろう。
2022-03-13 22:11:45目を、閉じる。 もう目も開けていられない。 その指先は床へと落ちた。 小さく痙攣を繰り返す身体を掻き抱いて耐えることも、もう出来ない。
2022-03-13 22:12:39『もう甘い夢から覚めなきゃ。 ───おやすみ。 ルーシャン・ピンコット。 僕から君に贈る、最後のプレゼントだよ』
2022-03-13 22:13:29コツコツと、誰かの歩く音がする。 それは随分と大きな足音だった。 下へ下へと向かっていく足音に気づく者は、誰一人いない。
2022-03-13 22:15:06明かりの少ないそこは向こう側まで見えない。 何か得体の知れないものでも出るのではないか、そんな雰囲気を持つ長い廊下を歩く。 左右は食料庫と大書庫、電気室、その他の設備など、いずれにしろここで過ごしていて自分たちが目にするものでは無い。
2022-03-13 22:16:32(あの玄関の林檎のエンブレムが、海運業の大企業のものだと気づく探偵がいない時点で、どうかなぁとは思いますけどねぇ)
2022-03-13 22:17:40と、誰もいない場所でそっと嫌味を吐く。イーライがいたら、きっと顔を赤くして殴りかかってくるだろうな、とレオニードは軽く笑ってため息をついた。
2022-03-13 22:18:02左右の扉をしっかり確認してから、突き当たりまでたどり着いた。目の前は壁、そして左を向くと、扉だ。 渡された館の地図を見る限り、ここは警備室と書かれているから、警備員でも待機しているのだろうか。いや、使用人はあの二人以外に見かけなかったから、単なる空き部屋か。
2022-03-13 22:19:57ドアノブに手をかけて、ガチャガチャと回してみる。 開かない。当然だろう。警備室に警備対象を入れてしまっては意味が無い。
2022-03-13 22:20:17ドアノブから手を離して、レオニードは踵を返した。 確信が持てない以上、どうするべきか考え直さなければ、と戻ろうとしたその時。
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