とある院卒の社会体験記･･･地方出身者の夢と現実

まりにゃ🌰🐿 @mayimbesasson

今年で27歳になります。4月、初めて社会に出ました。同期はイランとイラクの違いも分からない馬鹿しかいません。私は唯一の院卒ですから馴染めずにいます。一浪はしたけれど、宮崎県で一番偏差値の高い高校を出て、曲がりなりにも難関とされる国立大学に進学しました。私はどこで間違えたのでしょう。

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地元では神童と呼ばれていました。父は延岡市内の工場に勤める技術者でした。普通のサラリーマン家庭です。宮崎市内の高校に進学したので下宿でした。浪人時代は北九州予備校に通いました。一人暮らしは初めてではありません。また同じような勉強の日々が始まると上京したときも漠然と思っていました。

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大学ではアラビア語を専攻しました。地元で中東に興味持っていたのは私ひとりでした。ですが同期を見てみるとどうでしょう。AFSでヨルダン留学を経験した人とか高校時代から代々木のモスクに通いアラブの友達が何人もいた人とか。都会出身者の人生経験の豊かさに圧倒されました。

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そもそも都会と田舎ではスタート地点が違うのです。新しいことを始めてみようと入ってみたバスケサークルで思い知りました。そこでは同期に童貞であることを馬鹿にされました。浦和高校卒の、同じ一浪の同期に。「俺男子校だったんだよ？浪人してるんでしょ？出会いとかなかったの？」

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私がいた北九州予備校が北朝鮮予備校と地元で呼ばれていて遊ぶ暇もないことは理解されませんでした。高校時代も浪人時代も人間関係を犠牲にして勉強に励みました。耐えて耐えて上京した結果がこれです。都会と田舎の格差を見せつけられました。サークルは3ヶ月で辞めました。

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都会と田舎には格差があります。同期を見てても思いました。アラビア語を専攻したいと言ったときそんなもの勉強して何になるんだ、イスラムにでもなるのか、危ないことはするなよ、周りの人から飛んできた無理解な言葉の数々は全て覚えています。

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上京するまで知らなかったのです。都会には子供がアラビア語をやりたいと言ったとき祝福してくれる親がいるなんて。これまで都会の子供たちは勉強詰め込まれて窮屈だと思い込んでいました。実際は逆でした。子供たちは親に、先生にやりたいことを肯定されて伸び伸びと育ってきました。

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勉強の詰め込みという点では九州の方が酷かったことに初めて気付きました。九州の外では朝課外なんて習慣はありません。北九州予備校のような全寮制詰め込み教育を施す予備校は笑いものにされました。海外に行く前に東京でカルチャーショックを経験しました。

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勉強も、人間関係も、バイトもオールラウンドに頑張るという都会の文化に馴染めずにいました。田舎者の私のアイデンティティは勉強なんだと、ますます専攻語の学習にのめり込みました。アラビア語と向き合っている間は辛いことも忘れられた気がします。

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大学2年、好きな子ができました。恥ずかしながら、初恋でした。静岡県出身、身長140センチ、童顔でフワフワと話す。一目惚れしました。西武多摩川線で見かけるたびに話しかけました。授業はどうだとか、心細くないかとか。私なりに頑張りました。

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夏休み前に語科の教授に呼び出されました。彼女が私のことを怖がっているからあまり話しかけ過ぎないでほしいと注意されました。どうやら語科中で噂になっていたようです。田舎で勉強一筋だった私に恋愛の仕方は分かりませんでした。

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後に彼女が私の同期と付き合い始めたことを知りました。私より背が20センチ低い、長髪でどこか小汚い、アニメとかラノベとか好きなタイプのオタク。これに負けたのか。都内の御三家と呼ばれる中高出身らしい。彼とは趣味が合うとか。私は、また、都会に負けました。

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人間関係を諦めて私はアラビア語学習に取り込みました。語根と接辞の関係性、派生語の作り方に興味がありました。必修科目のアラビア語の方言の授業は苦手でした。ですが文法学を熱心に学ぶ姿を評価されて院進を勧められました。

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大学院に進めば勉強しているだけで認められる世界がある、研究を続けていればいつか教授になれる、そう思っていました。ですがここでは勉強はして当たり前、研究して当たり前、publish or perishの世界でした。

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人文学は志望者のわりにポストが少なく、研究の質は確保した上で、指導教官や大学の偉い人にも気を遣わなければ生き残れません。北九州予備校に耐えた私でもこの手の競争は初めてで、好きだったはずのアラビア語や言語学の研究も辛く感じるようになりました。大学院は私が思ってた世界とは違いました。

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学部生に優しかった教授も院生には容赦なく切り込んできます。壊れるくらいに文献を読んでも論文3行も書けません。その上で未来は不透明です。奨学金を借りたけど返せるのだろうか。そうした不安に押しつぶされて、教授の研究室掃除を無給で手伝わされていたときに私の心は完全に折れてしまいました。

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大学院1年目の終わりに鬱で休学しました。教授は気を遣ってくれましたが、暗にお前は向いていないから降りろと思っているのが伝わりました。両親は鬱にあまり理解がなく、奨学金のこともあるし辛いならやめて就職したらどうだろうと勧めてきました。

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大学院3年目、修士論文を書きながら就活を始めました。同じ大学だからと同期たちが就職したような大企業ばかり受けましたが、ほとんどの企業で2次面接で落とされました。人文学の院生は必要とされないのでしょうか。

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2年生のとき好きだった後輩は国際関係専攻で院に進んでいましたが、彼女は石油開発会社に内定を決めていました。最初は日本社会が院生を冷遇していると思っていたんですが、この辺りから問題は私にあるのではと気付き始めました。

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彼女が受かった石油開発会社の年収をネットで調べて驚愕しました。みんな日本の給料は安い安い言ってたのに、話が違うじゃないですか。高い給料、充実した福利厚生、世界を飛び回る仕事、同期たちが就活してたとき馬鹿にしていたものが急に羨ましくなりました。

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私は結局小さなIT企業にしか受かりませんでした。秋葉原の雑居ビルにオフィスを構える、中国人が経営している会社です。自社でソフトウェアを開発しているわけではなく、エンジニアを派遣している会社でした。後にITドカタとかSESとか呼ばれている業態だと知りました。

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同期たちより4年遅れて社会に出ました。みんな大手メーカー、総合商社、外資系、外務省で活躍しています。私がイランとイラクの違いも分からない同期たちと4年過ごすころには彼らは社会人8年目を迎えるわけです。進次郎構文のような単純な事実に卒業して初めて気付き、恐ろしくなりました。

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拾ってくれた社長には感謝しています。プログラミングを勉強して、いつか自分のコンテンツを作って独立したい。社長も勉強させてくれると言っていました。pythonを勉強して語学学習サービスを作れたらと思います。自然言語分析にも興味あります。そしていつか見返したい。今年で27歳になります。

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あれから6年が経ちました。33歳になりました。私は結局IT業界に馴染めず、ITの勉強もゼロから始めるのは苦痛でやめてしまいました。名ばかりの研修も、偽装されたスキルシートも、遠い昔のことのようです。今は学生時代下宿していた武蔵境でuber eatsの配達をやっています。

まりにゃ🌰🐿 @mayimbesasson

注文を受けて一日中自転車を漕ぐ生活を半年以上続けているうちに随分健康的な体になりました。もう以前のように鬱で一日中動けなくなるなんてことはなくなりました。東京なので家賃は高いですが、自分ひとり暮らす分には不自由しないくらいには稼げます。