ギガベース日誌 ACT09「REMEMBERED DEATH」01

再す誕ふ者ん🍜🍬 @hfsm_ABIDING

砲撃に合わせ、リーパーバードのブースターが点火され、コアの四方から伸びた蒼炎が雪原を撫で溶かす。 高雄、衣笠、最上、筑摩は牽引用のワイヤーを機体の脚部に巻き付け、グライドブーストに引かれる形で艦隊は雪上を滑り出した。　#ギガベース日誌

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「犬ぞりみたーい！」 「作戦中にはしゃがない！」 白と白の隙間を、マーカーのみを頼りに突き進む機体。シャークが最も危惧していた工場跡方面からの遠距離攻撃は無く、作戦は第二段階へ移行した。 「地雷除去！」 「はーい！」　#ギガベース日誌

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此度は通常弾による砲撃。爆風が雪を、その下に隠されているかもしれない地雷ごと抉り、安全が確保された道が形成されていく。 「偵察機の方はどうだ」 「工場側で不審な動きは確認されていません」 「よし、砲撃で空いた所を一気に突っ切る」　#ギガベース日誌

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機体は速度を緩めぬまま、工場の真正面へ。 半分以上が雪に埋もれた柵を弾き飛ばしながら、部隊は傷一つ無く敷地内に侵入する事に成功した。 「全艦、牽引を解除し戦闘形態へ」 高雄達に合わせ、シャークも操縦桿を握り直し、呼吸を整える。　#ギガベース日誌

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このミッションのために用意した投射型リコンを周囲に展開。敵戦力の 入り口から見て右手には巨大な倉庫が連なり、開け放たれた扉から侵入した雪が相当な高さまで堆積していた。 左手には、事務所と思わしき質素な建物が並び、少し奥には酷く錆にまみれたタンクが鎮座している。　#ギガベース日誌

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「タンク周辺の雪がはけてるねー。敵はあの辺りにいるんじゃない？」 艦娘達は優秀だった。指揮官はおろか海軍関係者でもない自分に良く従い、正確に役割を果たす。 タンク周辺に違和感を覚えたのもその優秀さの一片だろう。　#ギガベース日誌

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しかしシャークは、彼女達が持たず自分が持つ要素───冷静さの裏に宿す野性的直感によって、その露骨な綻びに仕組まれた悪意を感じ取った。 「タンクには近づくな。この地点から、手前側の建物を攻撃しろ」 「了解。艦隊、砲撃用意！」　#ギガベース日誌

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重巡達が艤装を構えた、砲撃を開始しようとしたその瞬間だった。 右手側の倉庫前で堆積していた雪の中から、轟音が響く。 同時に、リコンが潜んでいた敵戦力を探知する。 「？！」 「砲撃は止めるな！あっちは俺が対処する！！」　#ギガベース日誌

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リコンがスキャン結果を機体へと返す。 R2B SHCHIT。普及率の高い防衛用MTだ。 奇襲に使うにはあまりに不敵な機体であり、起動しながらも飛び出してくる様子は無い。 敵の狙いは、明らかだった。 「こっちは囮だ。タンクには恐らくロクでもないもんが仕掛けてある。とあれば……」　#ギガベース日誌

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艦娘達の砲撃によって砕け散る外壁。 弾けるコンクリートと鉄に包まれた内側から、カメラアイの発光が煌めいた。 「建造物内部に、ACと思わしき機影を確認！」 「炙り出しは、成功だ」　#ギガベース日誌

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注がれる砲撃に耐えかねた敵機は、瓦礫と雪を弾き飛ばしながら、シャーク達の前方へ躍り出た。 設置済みのリコンが敵機をスキャンする。その結果を見たシャークは、声を荒らげて艦娘達を静止した。 「砲撃中止！止めろっ！！」　#ギガベース日誌

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前触れの無い停戦指示に困惑する艦娘達だったが、シャークのミッションに異を唱える立場に無い事を弁え、砲を閉じる。 敵機は攻撃してくること無く、一定の距離を保ったまま静止した。 「……まさか、お前が作戦目標とはな」　#ギガベース日誌

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雪と土埃の混ぜ物が散り、隠されていた敵機の全容が曝け出される。 同時に、敵機のミグラントからオープンチャンネルで通信が入った。 「企業の連中も味な真似をするもんだ。よりによって、最初に寄越してくるのが元バディだと？」　#ギガベース日誌

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「久しぶりだな。企業相手に何かしらやらかして行方知れずになったって所までは聞いてたが……正直とっくに死んだと思ってたぜ。"バリー・ブル"」　#ギガベース日誌

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レイ・シャークと、バリー・ブル。 "壊し屋"の謗りを強者の証として纏い、名を馳せた二人のミグラント。海軍解体戦争勃発まで、彼等は良き協働者として行動を共にしていた。　#ギガベース日誌

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血生臭い衝動を抱えながら、事象を冷たく見据える理性を介在させられる彼等は、多くの言葉を要さずに互いの生存を預ける間柄となれた。 そんな心地よくも乾いた関係は、バリーが海軍解体戦争で活動の方針を切り替えたことで、特段のやりとりも無いまま自然消滅と相成った。　#ギガベース日誌

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「ああ、色々やらかして死にかけまくったが、どうにかこうして命を拾っている。全く、ちょっと反体制勢力とつるんだぐらいで、企業の連中もしつこいもんだ」 「おいおい、あのギガベースに匿われてたって噂は本当かよ。そこまでの男と組んでたのか、俺は」　#ギガベース日誌

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（最悪だ） シャークは内心毒づいた。 協働した相手が次のミッションでは敵など、ミグラントの社会では日常茶飯事。感傷に浸る者から死んでいく。 彼が最悪と見做すのは、自分の判断。 （バリーだって知ってたら、絶対に艦娘なんか連れてこなかった。クソが）　#ギガベース日誌

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今交わす会話は時間稼ぎだ。口を動かす裏で端末の画面を叩き、艦娘達にプライベート通信で警戒を促す。 海軍解体戦争以降のバリーの悪名の拡がりは、それはもう凄まじいものだった。 海軍関係者、あるいは海軍と繋がりのあるミグラントで、その名を知らぬ者はいない。　#ギガベース日誌

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快楽のままに艦娘を殺害し、それを公言し、あまつさえその様子を撮影したスナッフフィルムを好事家共に売り捌く。壊し屋などという陳腐な肩書は、"艦娘殺し"というストレートな表現で上書きされていた。 （壊すといくらだっけ……クソが！二隻の時点で赤字かよ！）　#ギガベース日誌

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シャークが鎮守府からレンタルした艦娘達は、その戦力に見合わない破格の値段で借り受ける事ができた。 その代わり、彼女達を破損、即ち死亡させた場合の負担費用は桁が二つほど変わってくる。　#ギガベース日誌

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ノーマル1機が相手なら、リスクとコストを天秤にかけて艦娘が最適と判断したが、結果から言えば誤りだった。 相手は艦娘を殺すプロだ。彼女達は優秀だが、バリーを相手にまともに戦闘を行えば、複数隻の大破、死亡は免れない。　#ギガベース日誌

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そしてシャークは、艦娘殺しである以前に、バリーが優れたミグラントである事を知っている。 随伴歩兵を護りながら戦う余裕は、与えてはくれないだろう。 「……にしても、こんなド田舎のボロ工場まで、よく来たもんだ。艦娘まで連れて」　#ギガベース日誌

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「やっぱり気になるか？ここにいるのがお前だって知ってたら、絶対に連れてこなかった」 バリーとシャーク、どちらもその場に静止し、言葉だけが交わされる。 「……シャーク」 張り詰めた糸が、切れる。 「悪いが、死……」 「こっちの台詞だ！！」　#ギガベース日誌

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シャークの機体、リーパーバードがブーストチャージで積雪を蹴り上げた。 続けて艦娘の砲撃が地面を叩く。リコンによる装甲評価結果は、砲撃で装甲を貫くことは困難であると示した。であれば、目眩ましに使う。艦娘達はPAを前方に集中しながら、工場入口側へ後退する。　#ギガベース日誌