山姥切ズと近現代刀剣本の記述いろいろ

国会図書館デジタルコレクションの個人送信でいろいろ見れるようになったので、もろもろの話をURL付きでご紹介します。 (片付けができていない関係で、自分が作ったまとめ本のうちNDLに入っている資料を参照している部分の話題を中心に載せております。)
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セツカ@更新情報 @waterseed_upd

⑥続)まあ、何か混乱があったのでしょう。 それはそれ。 山姥切国広をその後名古屋の愛刀家が入手し、その方と本を発行したコレクターとの約束により刀が交換されて、コレクターさんの手元に移りましたというのが、巻頭に書かれています。

2022-05-26 23:16:22
セツカ@更新情報 @waterseed_upd

⑥続)なお私は未見なんですが、この再発見経緯については刀剣美術の過去号にも、もうちょい詳しいことがあるとかなんとかどなたが呟いておられたような…

2022-05-26 23:17:20
未夏 雨翠 @372_usui

山姥切国広発見の経緯は刀剣美術67号の薫山日々抄内です。ただ前後の詳細な関係は「日本刀物語」の方が詳しい。 美術の方で分かるのは1960/11/1に本間先生が初めて見たということです。

2022-05-26 23:30:26
セツカ@更新情報 @waterseed_upd

⑥続)そして作品の解説のほう。 「古来山姥切と号しているが、号のいわれは明らかではない」という文章と「一説に山姥切の号は、元来この長義の刀につけられた号で」という文章が。 長義のほうを山姥切と表記する記述、現状確認した中ではこれが一番古いです。 dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid…

2022-05-26 23:24:31
セツカ@更新情報 @waterseed_upd

⑥続)これの主執筆者が佐藤貫一氏(寒山氏)でございます。 寒山氏、④で紹介した新刀名作集の押形は間違いなく目にしております。国広大鑑ではその図を掲載してますので。 昭和29年の大鑑から、昭和37年その弟子までの間、何がどうなってそうなったのかがわかる資料は現状未見です。

2022-05-26 23:29:25
セツカ@更新情報 @waterseed_upd

⑥続)はっきり「山姥切長義」の呼称が確認できる本としては、昭和44年、『寒山小論文集』があります。 実質的に、現在の国広研究の土台は寒山氏の論によるものであることもあり、従来の愛好家層には刀剣乱舞実装前から徳美の長義を「山姥切長義」と呼ぶ方がいらっしゃいます。

2022-05-26 23:33:11
セツカ@更新情報 @waterseed_upd

(山姥切ズがらみの二次創作で資料ネタをスパイスにするなら、一番使いやすいのはこの⑥の「堀川国広とその弟子」だと思います。とうらぶの山姥切ズの設定は寒山氏の文章がベースなので、資料をひねくり回さずに使えるかと) dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid…

2022-05-27 19:40:22

刀剣評価の教科書的説明と実態:写しの評価と代銘代作の評価

セツカ@更新情報 @waterseed_upd

さて、つづきー。 たまに、とうらぶ設定で「写し」を負の要素としていることを怒ってる方を見かけます。 確かに日本美術において、写しであることは価値を毀損することではない、というのが教科書的な理想的説明です。 ただ実際問題として、従来の刀剣愛好家層で、写しを負の評価要素とする方はいます

2022-05-29 10:19:41
セツカ@更新情報 @waterseed_upd

○○だからといって価値が低いと見るべきではない、みたいな文章、見かけたことありませんか? 大体そこには、それを理由に低く見る人の存在があると思ってください。 ○○には、写しとか磨上とか無銘とか代銘代作とかが入ってきます。

2022-05-29 10:23:48
セツカ@更新情報 @waterseed_upd

刀剣の研究は、学問的に整理されたとはいえない状況があります。 だからこそ、そういう教科書的な外での評価の空気って色々あるというか… 極端な話、新刀以降は価値なしとする人とか、いわゆる五ヶ伝以外は価値なしとする人とか、いますよ。

2022-05-29 10:33:42
セツカ@更新情報 @waterseed_upd

さて、写しの評価の話。これはNDLの資料にないやつなので自分のまとめをおいときます。 昭和27~30年頃、刀剣愛好家の会誌で、宗珉の仁王の目貫について「模倣は芸術ではない」という提起に対し「必ずしもそうでない」「これは模倣とはいえない(から芸術)」というやり合いが waterseed.hatenablog.com/entry/2018/12/…

2022-05-29 10:49:38
セツカ@更新情報 @waterseed_upd

この昭和30年頃の論戦では、反論側の論の出し方からして、今現在の教科書的な「写しであることは作品評価を下げるものではない」という考え方は共有されていないように見えます。 (美術史まで追ってないから、この考えは日本美術界だといつ頃からだよーというのがわかる方いたら教えていただければ)

2022-05-29 10:54:07
セツカ@更新情報 @waterseed_upd

話題にしたので代銘代作の話も。 刀作りというのは、チーム作業です。一人が小槌で指示を出して、他の人が大槌で「相槌」を打ちます。現代工はエアハンマーに相鎚を任せられますが、昔はそうはいきません。 (それなのに相鎚がいない!というのが小鍛治の物語でしたね) the-noh.com/jp/plays/data/…

2022-05-29 11:16:09
セツカ@更新情報 @waterseed_upd

通常は、小槌の人がメインの刀鍛冶で、その人が銘を刻みます。 が、メインの鍛冶の名で、他の鍛冶が小槌を持ったり、銘を切ったりすることがあり得ます。 工房というチームで作っているんだからそういうこともあるよね、それで価値が下がるというのはおかしいよねというのが教科書的な考え方です。

2022-05-29 11:23:41
セツカ@更新情報 @waterseed_upd

(たぶん、???となった方は、漫画家のプロダクションとか思い浮かべてもらえばいいんじゃないかと。ほぼアシスタントの仕事じゃないかなみたいに噂されていても、その漫画家の作品扱いされていますよね)

2022-05-29 11:25:32
セツカ@更新情報 @waterseed_upd

で、この代銘代作についての考え方も、最近になるにつれて、負の評価から「そういうこともあるよね」に変わってきている風がありまして。

2022-05-29 11:32:40
セツカ@更新情報 @waterseed_upd

例えば大正14『刀剣雑話』 代作の「犯人」の考察をした上で 「此代作といふ事は今日の我々の道徳から律する程の悪い事ではなかったのである。」 筆者から見たら悪いことだけれど、刀が作られた頃には悪いことではなかったようだという書きぶりでございます。 dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid…

2022-05-29 11:36:49
セツカ@更新情報 @waterseed_upd

NDLにないですが、昭和29『趣味のかたな(4)』60pにはもっときつい表現がありますよ。 代銘代作について、本人作でないなら本来なら贋作扱いすべきところを、師の指示で高弟が作ったのにその扱いは酷だから好意的に呼んでいるのだ、というような記述が。

2022-05-29 11:47:06
セツカ@更新情報 @waterseed_upd

そういう扱いがされたことを前提に、昭和29年の国広大鑑では「代銘代作の問題」として、代銘代作と贋作は異なること、代銘代作だからといって必ずしも価値が下がるものではないということが語られています。 dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid…

2022-05-29 11:50:04
セツカ@更新情報 @waterseed_upd

ということで、「今現在の」教科書的理想形だけ見ていると忘れがちなんですが、その思想がずっと続いていたとは限らないし、なんなら今もその理想形とは違う主義主張の方は一定数いますよという話でした

2022-05-29 11:54:30

マイナスにできそうな理由のある刀についてめちゃくちゃ悪く言う人たちというのは、従来の愛刀家層に一定数います。
昭和(戦後)の刀剣ブームは投機的なものとマウント合戦の側面が透けてみえるので、その影響もあるのでしょう。
ここ数年の話として、まとめ主も、従来層ご重鎮クラスで「写し」であることを理由にひどいことを言う人に遭遇したことがあります。
なんなら他に、研ぎ減りだの作風だのを理由に、名物刀剣クラスに対して悪し様に言うのも耳にしたことがあります。
そして、従来層の刀の勉強って、口伝のような部分が大きいので、教科書的なものからの離れ具合はグループによって違うんですよね…

おまけ

「新刀に化物退治の号がつくのはおかしい」という言説への反論

セツカ@更新情報 @waterseed_upd

そういえば、「新刀に化物退治の号がつくのはおかしい」に対する反論も資料示しやすくなりましたね。 その価値観は広い共通認識ではないというのが、「刀剣と歴史」掲載の「怪談と名刀」という物語から言えます。そこには、新刀での化物退治物語も含まれているのです。

2022-05-29 12:40:14
セツカ@更新情報 @waterseed_upd

怪談と名刀が、物語を収集したものなのか、掲載のために創作したものなのかはわかりませんが、もしそういう共通認識があったのなら、創作だとしても「新刀での化物退治」の話は考えないでしょう。 このURLは人を丸呑みする大蛇の腹から国路の脇指で逃れた話 dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid…

2022-05-29 12:40:15