DNAの複製時に起こるエラーは、量子力学のトンネル効果による塩基間の陽子の移動を考慮した方がよいかもしれない、という興味深い計算結果が出たよ。

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DNAの複製時に起こるエラーは、量子力学のトンネル効果による塩基間の陽子の移動を考慮した方がよいかもしれない、という興味深い計算結果が出たよ。リプで解説するね! Louie Slocombe, et al. "An open quantum systems approach to proton tunnelling in DNA". Commun. Phys., 2022; 5, 109. pic.twitter.com/wekkOrVUb3

2022-05-09 13:31:33
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[ニュースのポイント] ○DNAは遺伝情報を保存している生命の根幹的な分子で、細胞分裂時には複製が作られるよ。 ○今回、量子力学のトンネル効果によるDNAのエラー発生率は、それを考慮しない場合より数桁高いことが示されたよ! ○まだ多くのことは不明で、実験的な証明が待たれるよ!

2022-05-09 13:31:33
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全ての生命には細胞の中に「DNA」があるよ。このDNAは2本の鎖が並行してらせんを作る二重らせん構造をしていることが特徴的だよ。この二重らせん構造は、鎖の中でプラスの電気を帯びている水素原子が、マイナスの電気を帯びている部分と電気的に引き合って結合する「水素結合」で結ばれているよ。

2022-05-09 13:31:33
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水素結合で結ばれるところはきちんとしたルールがあり、「塩基」と呼ばれる4種類の分子が水素結合をしているよ。DNAの塩基には「グアニン」、「シトシン」、「アデニン」、「チミン」があり、グアニンはシトシンと、アデニンはチミンと結合すると決まっているよ。この塩基のペアを「塩基対」と呼ぶよ。

2022-05-09 13:31:34
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塩基対の並びが遺伝情報を表す文字となることから、DNAは塩基対が正確にペアを作り、それがきちんと並んでいることが重要になるよ。逆に何らかの理由で塩基対に異常があると、それは異常な遺伝情報となり、最悪の場合にはがんや遺伝性疾患などの重病や死を招く原因となっちゃうよ!

2022-05-09 13:31:34
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塩基対の異常は、紫外線、放射線、発がん性物質、フリーラジカル、DNA複製誤りなど様々な外的・内的要因で起こり、異常が発生すること自体は日常的に起こるよ。このような異常を起こしたDNAは、部分的に修復したり、あるいは丸ごと捨ててしまうなどして、異常が蓄積しないようにしているよ。

2022-05-09 13:31:35
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ただ、身体のチェック機能も完全無欠ではなく、どうしても低確率ではあるけど見逃されてしまうことから、何らかの害が発生する恐れはあるよ。では、どの程度の確率でDNAのエラーは起こるのかな?特に、生物が健康で過ごすために欠かせない、細胞分裂時のDNAの複製時に起こるエラーはどの程度なのかな?

2022-05-09 13:31:35
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サリー大学の研究チームは、興味深い着眼点から、DNAのエラー発生率を調べてみたよ。それは量子力学の「トンネル効果」だよ。例えば、高い壁の向こう側にボールを投げることを想像してみて。壁を乗り越えられるだけの運動エネルギーを与えて投げないと、ボールは決して反対側に行くことはないよね?

2022-05-09 13:31:35
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ところが量子力学の世界では必ずしもそうとは言えないよ。同じく量子力学の不確定性原理では、量子の位置と運動量を両方同時に正確に定めることはできない、と言っているよ。壁の例えで言うなら、壁の向こう側に量子というボールが存在する確率は、こちら側にある可能性より低いけど、ゼロじゃないよ。

2022-05-09 13:31:36
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よって、量子というボールを壁の高さ以上に投げるエネルギーが与えられなくても、確率的に壁の向こう側に行ってしまうことがあるんだよ!壁にトンネルを開けて通過したかのように見えることから、これをトンネル効果と呼ぶよ。トンネル効果は確率の問題で起こるもので、その確率は条件に依存するよ。

2022-05-09 13:31:36
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DNAの塩基対のスケールともなれば、十分に量子力学の効果が表れるミクロの世界だから、DNAの中でトンネル効果が起こること自体は不思議ではないよ。ただ、これを実際に予測することは困難だよ。というのは、DNAを持つ生物はかなり暖かい存在であるという点が、量子力学での計算を邪魔するからだよ。

2022-05-09 13:31:36
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量子の位置と運動量の両方がある程度の値を持っている状態というのは、いろいろと計算しづらいよ。例えていうなら、勝手気ままに公園をウロウロしている子供の集団の人数を数えるのが難しいような感じだよ。計算を楽にするには、これらの値がなるべく小さくなる、極低温の世界が一番計算しやすいよ。

2022-05-09 13:31:37
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もちろん、生物は何もかも凍り付く世界にいるわけじゃないから、極低温を前提とした計算は実態と大幅に乖離する恐れがあるよ。よって今回の研究では、300K (27℃) くらいのスケールへの補正を考慮した計算を行い、念のため想定される障壁の1.5倍の場合でもどうなるかについて計算を行ったよ。 pic.twitter.com/Tfz5DBxb7N

2022-05-09 13:31:38
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今回の研究では、グアニンとシトシンの塩基対について、グアニンからシトシンへと陽子 (水素イオン) が移動し、お互いに異常な塩基となる現象が、トンネル効果を考慮するとどのくらいの速度で起こるのかを計算したよ。この速度がどの程度早いかで、DNAの修復機構をすり抜ける可能性を計算できるよ。 pic.twitter.com/jm9jXPAJe9

2022-05-09 13:31:39
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その結果は興味深いものだったよ。陽子のトンネル効果による移動は10フェムト秒から100ナノ秒 (100兆分の1秒から1000万分の1秒) のスケールで起こるとわかったよ。これは、細胞分裂時にDNAを複製する最初の段階、ヘリカーゼによるDNAの水素結合を解く速度より数桁速いよ。

2022-05-09 13:31:39
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このことは、DNAの二重鎖を解く直前にトンネル効果で陽子が移動し、異常なグアニンとシトシンが修復機構のチェックをすり抜け、そのままの状態でDNA複製の次の段階へと移動してしまう可能性が十分にあることを示しているんだよ!これによる1ヶ所の点突然変異の確率は1.73×10⁻⁴だと計算されたよ。 pic.twitter.com/Ss4Yvl8WjW

2022-05-09 13:31:40
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この確率は、トンネル効果を考慮しない場合の古典的確率である約10⁻⁸より数桁も高い一方、DNA修復機構の正確さを考慮すると、これくらいの頻度で起きていてもおかしくない数値だよ!DNAのエラーに関する量子力学的効果はあまり考慮されなかったことから、これは視点を変える発見かもしれないよ!

2022-05-09 13:31:41
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ただ、この研究については、あくまで計算で示されたものであって、実験的には確かめられていない点については注意が必要だよ。さっきも説明した通り、DNAにエラーを起こさせる作用は環境中に無数にあり、トンネル効果の影響が全体のどの程度の割合を占めているのかは、実験的に確かめるのが難しいよ。

2022-05-09 13:31:41
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1つ研究手段として考えられるのは、極低温に置いたDNA中でトンネル効果によるエラーがどの程度発生するのかを確かめることだよ。極低温においてはより正確な計算ができることから、理論的な値と実験的な値を比較することで、実際の生物の温度に補正した今回の計算結果が正しいかを知ることができるよ。

2022-05-09 13:31:42
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また、今回示された確率は、DNAとよく似た分子である、1本のRNAで起こるエラーの頻度と、オーダーはよく一致しているよ。生命の起源については、最初はRNAから始まり、突然変異を繰り返すうちにDNAが生まれたという仮説があるけど、RNAの突然変異の頻度とトンネル効果が関連している可能性もあるよ!

2022-05-09 13:31:42
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いずれにしても、今回の計算結果は興味深いけど、何かここから大きなことを言うのは難しいよ。この論文が正しいか間違いかはこれからの実験次第であり、それを確かめる手段自体は、少なくとも1953年にDNAが二重らせん構造を持つことが理解されたころよりはそろっているはずだよ!

2022-05-09 13:31:42
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[原著論文&画像引用元] Louie Slocombe, Marco Sacchi & Jim Al-Khalili. "An open quantum systems approach to proton tunnelling in DNA". Communications Physics, 2022; 5, 109. DOI: 10.1038/s42005-022-00881-8 nature.com/articles/s4200…

2022-05-09 13:31:43
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[参考文献] "Quantum mechanics could explain why DNA can spontaneously mutate". (May 5, 2022) University of Surrey. surrey.ac.uk/news/quantum-m…

2022-05-09 13:31:43