損害賠償について

0
杉山博亮 @sugiyamahiroaki

1)損害賠償の話。中間最高価格というと、すぐに民法416条2項の「特別損害」の問題という受験生が多い。間違いではない。しかし、通常損害か、特別損害かは「損害」の色分けであり、民法416条(賠償すべき損害の範囲)の前に、民法415条の「損害」にあたるかの問題が先行する。

2011-10-01 02:06:23
杉山博亮 @sugiyamahiroaki

2)民法415条の「損害」は、債務不履行があった場合(現実)と、それがなかった場合(仮定)との間の現時点における「差」である。この「差」を、事実として捉えるか(損害事実説)、財産状態として捉えるか(差額説)は、争いがあり、前者も有力だが、後者が従来からの判例・通説である。

2011-10-01 02:06:53
杉山博亮 @sugiyamahiroaki

3)事実説では、損害事実の確定→賠償すべき損害の範囲の確定→損害の金銭的評価、との3段階を経て賠償すべき損害額は決まるが、差額説では、損害(額)の確定→賠償すべき損害の範囲の確定、の2段階となる。差額説では、評価額の変動は、民法415条の「損害」自体の変動をもたらす。

2011-10-01 02:07:24
杉山博亮 @sugiyamahiroaki

4)「損害」は、現実と仮定との差であり、現実は1つだが、仮定は複数成立しうる。その中で「最もありそう」な仮定を選ぶのだが、どれがこれに当たるかの判断は、困難を伴う。例えば、ある人が事故の後遺症で左手が使えなくなったとする。彼は、美容師を目指し、資格試験を受験していたとする。

2011-10-01 02:07:49
杉山博亮 @sugiyamahiroaki

5)損害額(逸失利益)の算定は、彼の「仮定」される生涯年収に労働能力喪失率を乗じてなされるが、美容師としての生涯年収を仮定すべきか、そうでないか。合格して美容師になったであろうという仮定が「最もありそう」か、合格しないだろうという「仮定」がありそうか?

2011-10-01 02:08:19
杉山博亮 @sugiyamahiroaki

6)目的物たる不動産の価格が、履行不能後に高騰し(中間最高価格)、その後下落して、現在に至っているとする。もしその不動産が居住用物件なら、不履行がなかった場合の仮定として、現在もその不動産を持ち続けているという仮定が「最もありそう」だ。ならば、下落後の現在額が「損害額」となる。

2011-10-01 02:08:51
杉山博亮 @sugiyamahiroaki

7)しかし、それが転売用の物件なら、高騰した時に転売した可能性も現実味がある。だが、価格が上がり切る前にあわてて売却した可能性もある。欲張って売り損ねた可能性もある。もし最高価格で売却できた可能性が「最もありそう」だと証明できれば、原告はこれを民法415条の「損害」と言える。

2011-10-01 02:09:21
杉山博亮 @sugiyamahiroaki

8)しかしそれでも、その全額を請求できるとは限らない。このうち「通常損害」の部分(通常の値上がりの範囲)は無条件で請求できるが、「特別損害」の部分(特別の事情で高騰した範囲)はその事情を債務者(被告)が予見しえた場合にだけ請求できる。ここで初めて民法416条が出てくる。

2011-10-01 02:09:56
杉山博亮 @sugiyamahiroaki

9)もし現在価格が、代金額よりも下落していたら? 債務不履行がなかったと仮定した場合、債権者は現時点でもその不動産を所有しているはず。ならば、それ以上の「損害」はない、というのが論理的帰結。だがそれなら、解除して代金を返してもらった方が得だ。ただ、判例・学説は……(以下略。了

2011-10-01 02:10:36