石工の魔女短編 毒の乙女と薬の乙女

石工の魔女様が作る、様々な「形あるもの」の両性具有の乙女達。えっちなやつ。短編。
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屑望喜納子 @motikinako_kuzu

毒の乙女と薬の乙女は表裏一体。毒の乙女は薬の乙女を遠ざけようとするが白衣を着た緑の液状の、薬の乙女は決して毒の乙女を一人にしない。かつて万能薬をこの世に実現させた薬師がいたのだ。薬の乙女はそういったパナシーアから作られた奇跡の乙女だ。いや、奇跡というのは相応しくないかもしれない。

2022-10-09 02:45:21
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

というのは彼女は超常を糧としてはいても、人類が作り出したものが材料となった乙女だから。この世にかつて生まれたパナシーアを魔女が独占し、自らの伴侶としてフラスコに封じ込めた。今はフラスコから這いずる緑色の乙女として毒の乙女と仲良くやっている。

2022-10-09 02:46:23
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

昔々のことだ。人の世界に病が流行った。咳が止まらずにやがて肺が腐り血を吐いて死ぬ。何が原因か分からず患者は隔離された。村は焼かれた。恐怖は伝播した。人々は香草を詰めた鼻高のマスクを魔除けとして、呪い師と医師に頼った。身定かならぬ医師が闊歩した。

2022-10-09 02:48:08
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

その世界でどんな冒険があったかは魔女達には関わり無いことだから語らない。ただ、一人の薬師が突き止めた。それは毒だった。病ならば悪しき気を吸ったり、触れたりした上で清めなければ感染する。しかし一人の薬師が犠牲者の肺を取り出し検査した結果、大気中の毒が原因だと知れた。

2022-10-09 02:49:39
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

やがて毒を産み出していた南の国よりきた呪い師は討伐された。王から薬師には生活に困らないほどの報酬が支払われたが、薬師はその全てをなげうって毒に苦しむ人々の治療を続けた。 毒の霧は止んでいなかった。

2022-10-09 02:50:43
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

幾千の毒虫、毒草、毒キノコ、不浄な泥。そう言ったものを壺に詰めて幾年も封じる。すると互いが互いを食らい、最も強い毒を持つ一つが生まれる。これを蟲の毒、蟲毒と言う。 そうして生まれた蟲毒を一とする。

2022-10-09 02:51:49
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

やがて生まれた一つの蟲毒。これをまた壺にいれる。幾千の蟲毒を合わせ、また一つの蟲毒とする。これを重ね毒と呼ぶ。

2022-10-09 02:52:36
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

重ね毒を更に蟲毒により濃縮する。三重ねと呼ぶ。そうして生まれた三重ねの毒は、数十年の時をかけて作られた地獄。毒のみならずそのために費やされた命の怨嗟がこもる呪いにも等しいものだった。それをすり潰し、水に混ぜ、煮立たせる。

2022-10-09 02:54:05
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

最早毒は複雑に入り交じり、細かに大気に入り交じり、どう取り除いたものか判別もつかない。だが薬師の男は突き止めた。かつて、五重ねの毒が百年を越える年月をかけて、世界のあらゆる毒を混ぜ合わせて作られたと言う。

2022-10-09 02:55:16
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

その毒は南方のお伽噺によれば、魔女が持ち去ったと言う。あらゆる形あるものを自らの欲しいままにする、工芸の魔女。それは薬師の住まう地域では石工の魔女と呼ばれていた。

2022-10-09 02:56:16
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

毒のサンプルがあれば解毒の手段もあるかもしれない。男は魔女の館に幾日も出向いた。そしてやがて魔女に面会し、毒を求めた。魔女は不吉な予言をした。 「あなたはそうすれば早く、かつ苦しみのうちに命を終える」 男はそれでもと言った。 魔女は了承した。

2022-10-09 02:57:52
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

指輪の乙女の話が途中なので男がどう死んで、どう薬の乙女が生まれたかはまたその内にまとめて話したいと思います。

2022-10-09 02:58:49
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

毒の乙女の部屋に男は通された。朝と夕に白い石で出来た乙女が食事を持ってくる。それと死んでいないかの確認と。男は毒の乙女から五重の毒を得るまで帰らないつもりであった。

2022-10-11 02:24:32
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

「帰ってください」 「いや、帰らぬ」 「ふえぇ……」 壺から一向にでない毒の乙女を前に男は座り続けた。毒の乙女は壺から出ずに、帰って、帰って、と繰り返した。 「そなたの毒があればあるいは三重の毒を退ける薬が作れるかもしれんのだ、毒は薄めれば薬ともなり得る」

2022-10-11 02:24:32
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

「あるいは毒への抗体を得る血清を作れるやも知れぬ。私にはそなたの毒が必要なのだ」 「だ、だめだめだめ……僕の毒を、外に出すなんて絶対だめ……」 「ダメではない、欲しいのだ」 「ふ、ふへぇぇ……」 男は頑固だった。

2022-10-11 02:24:33
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

一週間が経った。 「な、なんでそんなにが、頑固なんですか……」 壺から顔の上半分だけを覗かせながら毒の乙女は問いかけた。キノコの生えた気の弱そうな泥で出来た乙女だ。その身体の全ては猛毒。 「生来こうだ。直しようがない」 「ふへぇ……」

2022-10-11 02:24:34
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

二週間が経った。 「あ、あの、ずっと僕がこうしてたら、あなたは外の毒に触れなくてすんで、安全なんじゃ……」 「それでは困る。私は私の安全のために解毒法を探すのではなく、人々のために解毒法を求めるのだ」 「ふへぇぇ……」

2022-10-11 02:24:34
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

三週間が経った。 「あの、あの…………」 「うむ、なんだ」 「えぇと……良い天気、ですよね……?」 「うむ、地下だから天気は分からんな」 「ふへぇぇぇぇ…………!」 「だが、そなたが言うならば今日はよい天気であろう」

2022-10-11 02:24:35
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

その日は雨だった。外からは水の音がした。男は言った。 「そなたの思う天気がこの場の天の気。そなたがよい天気と私に話しかけるならば、天道があろう」 「……?」 「私はそなたに話しかけられて嬉しいと言うことだ」 「ふ、ふへへ」

2022-10-11 02:24:35
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

一月が過ぎた。 「あ、あの……」 「なんだ」 「す、少しだけなら、その……僕の毒、分けても良いかなって……」 「……! まことか!!」 「あ、あなたなら僕の毒を外にまかないと思うから……少しだけ、ほんの指先だけ……」 「おぉ……! そなたの優しさ、寛容さに感謝する!!」

2022-10-11 02:24:36
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

毒の乙女は壺から指先を差し出した。男は香草のつまったマスクをして、手袋をして、試験管に指先から滴る毒液を受け止めようとした。

2022-10-11 02:24:36
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

「……ぐ、っ、お゛がっ、かはっ……!」 「……!!」 男は血を吐き、試験管を取り落とし、倒れた。 毒の乙女の本来の毒。薄めずにもたらされた毒の滴りはたった一滴の自然な気化でさえ肺を焼いたのだ。 「ま、ま、ま、魔女様!!! 魔女様ぁ!!!」

2022-10-11 02:24:37
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

石工の魔女は地下室に踏み入らず、伴侶を使わして男を地上に運び込んだ。 やがて男は意識を取り戻した。 「あの子の毒は、意図して薄めなければ私でさえ近寄れない猛毒になる。その研究をするのならば毒の原液を持ち帰り、あなたは研究し続ける必要がある。結果、あなたは毒の原液に曝露され続ける」

2022-10-11 02:24:37
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

「だだだ、だめです、だめ、だめ、だめだめ…………!!」 「私は生来頑固者だ」 男は起き上がり、封のされた試験管を見た。 あの時確かに受け止めた毒の原液の滴りが一滴入っていた。 「だめ!! いや!!」 「世話になった。すまぬ」 男は去った。

2022-10-11 02:24:38
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

以来、毒の乙女は希釈した毒ですら分泌しなくなった。以前は石工の魔女との戯れに希釈した毒を分泌し、楽しんでいたが、それさえせず、魔女と愛し合うこともしなくなり、壺の中からでなくなった。

2022-10-11 02:24:38