神聖娼婦の話

石工の魔女様の話と関係あるかもしれない奴です
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屑望喜納子 @motikinako_kuzu

神聖娼婦と言う奴がね。いたんですわ。神聖娼婦。分かる? 神官娼婦とかでも良いんだけどさ。神聖って言う方が、んふふ。ほっほほ。興奮しません?神聖娼婦、ね。はい決まり。神聖娼婦ですわ。神聖娼婦。

2022-10-15 01:33:11
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

神々に使える聖なる女。その身に神を宿し、戦士と交わることで祝福をあたえる。古い信仰だ。とはいえ古くとも新しくとも信仰は信仰だ。そしてまた、戦の恐怖を性の興奮で静め、乗りこなすことは合理でもあった。

2022-10-15 01:34:23
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

戦士の里があった。勇猛果敢。冷酷にして残虐。神を身に宿す女を中心に里を作り、恐れを知らない狂戦士が周囲の里と言う里を襲い、略奪し、それで生活が成り立っていた。

2022-10-15 01:35:39
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

神を宿す女は男に祝福を授ける。 14になったばかりの少年が戦士としての儀式で、女と交わる。 女は薄布だけを日頃から身に付けていた。 香り高い油を自らの身に振りかける。 唾を飲む少年を柔らかな指先で褥へと押し倒し、まだ女を知らない陰茎を柔らかな乳房で挟み込み、擦り立てる。 「う、お……」

2022-10-15 01:37:17
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

ぐちゅ、ぬ、ちゅ。ずちゅ。くちゅ。 静謐とも言える空間の中で、艶かしい女の吐息と少年の焦るような荒い息だけが聞こえていた。 女は陰茎を乳房から解放し、少年に香油でぬめるしっとりとした柔らかな身体を押し寄せて、密着させ、耳元でささやいた。 「……達しそうになったら、合図を……♡♡」

2022-10-15 01:38:53
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

「う、あぁっ、でっ、出るっ、んぅぅっ!」 「あら……」 びゅる。ぶぴゅるっ。びちゃ……びゅぐっ。 少年は囁きで最後の一線を越えて、勢いよく青臭い精を吐き出した。 はぁ、はぁと荒く息を吐く少年に女は笑いかけ、陰茎がまだ萎えない内に少年にまたがった。 「もっと、もっと……♡」

2022-10-15 01:40:24
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

快楽は興奮である。戦において死の恐怖を越えるものは興奮であった。 神聖なる娼婦は神の祝福を戦士に授ける。勿論、ただの信仰であった。奇跡がそこに介在はしていなかっただろう。いや、事実戦士達は強かった。しかしそれが奇跡によるものかはもはや分からない。一人の女の手で滅んでしまったから。

2022-10-15 01:41:49
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

神聖なる娼婦には娘がいた。どの男の種かも分からない。だが信仰はそれを、戦士の種を身に受けた神の化身が、里につかわした次なる神だ、ととらえた。 少女は成熟すれば母親のように身を男達に捧げる運命であった。しかし。

2022-10-15 01:42:56
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

少女は土と石に興味を示した。 粘土をこねて焼き、器を作る。ただそれだけならず、母親から語り聞かせられた神話を元に、戦の女神の似姿を石から彫り出して見せた。

2022-10-15 01:44:00
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

母親は大層喜んだ。役目として男と交わる傍ら、自らの娘を役目以上に愛した。愛しい愛しい我が子。 「美しき戦の女神様もお喜びでしょうね……ふふ、素晴らしい指先……あなたには、不思議な才があるのかもしれませんね」 「女神様は……うつくしいの?」 「えぇ、この世の物のどれにも似ない……」

2022-10-15 01:45:43
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

少女は母親が大好きだった。だから戦の女神の似姿を、もっと、もっと美しく彫り上げようとした。この世のどれにも似ていないのならば、似た物を新しく作り上げれば良いのだ。 少女は性的に成熟するよりも早くその才能を開花させた。少女にとっては幸せなことだった。

2022-10-15 01:46:43
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

母親が男と交わる神殿には戦の女神の像が立ち並んだ。彫るごとにそれらは美しくなっていく。静謐な性と戦の神殿は、荘厳とさえ言えるものになっていった。

2022-10-15 01:47:47
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

「おかあさん……これ」 少女は戦の女神の像と、それと同じ服装の母親の像を彫った。 母親はそれが何であるかを理解すると、喜色を満面に浮かべて喜び、少女を抱き締めた。 少女は男と交わっていない時の母親が大好きだった。自分だけを何よりも愛してくれるから。

2022-10-15 01:49:05
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

「ふふ、こんなに美しいものを貰ってもよいのかしら? 女神様に怒られてしまうかも……」 「んん、女神様はね、もっともっと美しいの、だけどおかあさんの像は……」 「あら、違うように彫ってあるの?」 「……あのね、私と似てて、私だけのおかあさんなの」

2022-10-15 01:50:20
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

少女と母親は愛と美で密接に結ばれていた。 この世のどこにもない美を探求する過程で、しかし。 神聖娼婦は過酷な労働からその寿命は長くはなかった。

2022-10-15 01:51:30
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

今ならば性の交わりが病を運ぶこともあるのだと言うことは分かったかもしれない。当時戦士の里は病を運命と呪いとして理解した。 少女は悲しみを表す術を知らなかった。病床の母親の枕元に、美しい戦の女神の彫像を並べ、神に祈った。

2022-10-15 01:52:39
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

願いを聞くものはなかった。

2022-10-15 01:52:46
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

雨が降った。少女の母親は戦の女神を象徴する聖なる火にくべられた。 骨を砕いた粉。壷に納められた遺骨を、少女は表情なく見つめた。そして、その遺骨を雨の中、土に撒いた。

2022-10-15 01:53:53
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

雨が続いた。少女は泥を捏ねた。 長雨の中、人の形を作っては崩した。

2022-10-15 01:54:26
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

この世のどこにもない姿をしているならば、作り上げればいい。この世のどこにもなくなったのであれば、その姿を作り上げればいい。はずだ。

2022-10-15 01:54:57
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

やがて雨は上がった。少女の元を戦士の取りまとめ役が訪れた。 「……いつまでも土を弄っていないで、女神様のより代として役割を果たすべきだ。お前もまた、神を身に下ろし、我々に祝福を授け、次の女神様を産まねばなら……な……」 少女は、泥から出来た女神の似姿と母親の似姿を差し出した。

2022-10-15 01:57:07
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

「美しいものに戦の女神が宿るのならば、これを」 戦士は怒鳴り付けようとしたが、しかし、それはあまりにも美しく、扇情的。 性の欲が抑えきれずに鎌首をもたげる。 しかしそれでさえ少女にとっては失敗作だった。

2022-10-15 01:58:12
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

少女は戦士達に次から次へと、あまりにも美しすぎる失敗作をあたえた。戦士達はこの世のものではない美しさに耽溺した。里は衰退していった。戦士は性に溺れた。

2022-10-15 01:58:55
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

そうして、里の男も女も、泥の偶像と抱き合うこと以外のなにもしなくなった頃。

2022-10-15 01:59:24
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

この世の何にも似ないほど美しく作り上げられた泥の偶像は、少女の母親によく似た姿をしていた。しかしあまりの美しさがそこに、ただ美しいだけで、それだけで奇跡を許した。あまりに命に似た泥の乙女はゆっくりと動き出し、泥で出来た唇を震わせた。

2022-10-15 02:00:37