【ある冒険者の宝物】

サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の宝物1】「『ここに到達するまでに育まれた友情は紛れもなく宝である』……と書かれている」 それを聞いた仲間たちは怒りや失望をあらわにして洞窟を去っていく。 後日、俺は一人で宝箱を回収した。二重底の下には希少な貴金属の数々。友情？ そんなものは最初から最後までなかったよ。

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【ある冒険者の宝物2】『折れた剣』旅に出る際に武術の師より賜った剣。一般的な量産品で、過去に重い一撃を反らした衝撃で刀身の半ばより先が砕けてしまった。師が長らく愛用していた武器であり、自身の命を守り切ったことから愛着も湧いたため、処分されることなく道具袋の中で眠り続けている。

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【ある冒険者の宝物3】「洞窟に宝箱があってね」 「ああ」 「でもそれは擬態した食人型魔法生物だったんだ」 「よく無事だったな」 「遊んでたら愛着が湧いて、持ってきちゃった」 「よく無事だったな!?」 「留守番も任せられるし、もう立派な家族だよ」 「空き巣は無事じゃ済まないだろうな……」

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【ある冒険者の宝物4】「約束の報酬だ。少なくてすまん」 「誰にだって事情はあるだろ、気にすんな」 「がめついお前の言葉とは思えんな。さては道中、金目のモノでも見つけたか？」 「なに言ってんだよ。カネより大事なものもあるってことに気付いただけだ」 「……薬師を呼ぶか」 「お前なあ！」

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【ある冒険者の宝物5】一体どれほどの大物から剥がれ落ちたのか、大人の両手を合わせたよりも二回りほど大きな竜鱗。盾とするには心許なく鎧に縫い付けるには加工が手間。扱いに困った行商人から安く買い取ったが、使い道はすぐに思い付いた。どれだけ加熱した鍋を載せても、平気で持ち運べるのだ！

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【ある冒険者の宝物6】『王家の指輪（複製品）』これを本物だと思っていた子供の頃は、王家に連なる者に相応しい立ち振舞いを心掛けていた。これが子供の小遣いで買える土産物だと知った今も、それは続いている。体に流れる血ではなく、自分自身の生き方が自己を作り上げると、指輪が教えてくれた。

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【ある冒険者の宝物7】「こいつが代々伝わる家宝、ダイヤモンドの鎧だ」 「ほおお、さすがドワーフらしいスケールのデカさ……しかしこんな無防備に飾ってて盗まれやしないかね」 「重いし加工も手間、そのまま売れば一発で足が付く。金にするには不向きなのさ」 「じゃあ火事にだけ気をつけときな」

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【ある冒険者の宝物8】決して手にしてはならない禁断の秘宝、それが天候を操る宝玉だった。うまく使えば人々の役に立つ……と思ったのも束の間、誰もが自分のために使えと願うだろうし、誰にとっても良い結果がもたらされるとは限らない。考える絵だけで胃痛がした私はその場を去ることにした。

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【ある冒険者の宝物9】 ある冒険者「うおお宝箱！ どんなお宝が入ってるんだ!?」 ある冒険者「はいはい宝箱宝箱。こんな露骨な『お宝ですよ～』なんて罠に決まってんじゃん」 ある冒険者「わああ宝箱！ どんな罠が仕掛けられてるんだろうね☆」 ある冒険者「宝箱？ 罠仕掛け直してやろっと♪」

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【ある冒険者の宝物10】引き出しの奥に大事に仕舞われた手紙。憧れの冒険者へ宛てた応援の手紙、その返事がそれには書かれていた。内容は一言、感謝の言葉が書かれているだけだが、内容以上に『返事を貰えた』という事実が手紙の価値そのものと言えた。それは、どんな金銀財宝よりも価値があった。

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【ある冒険者の宝物11】「この宝石が射られた矢から守ってくれた」 「運がいいなあ」 「この書物はナイフの刺突を防いでくれた」 「もう読めそうにないね」 「この硬貨は銃弾を反らしてくれた」 「すごい歪んでる」 「この鍵が毒針による攻撃を――」 「君は運だけで今まで生き延びてきたのかい？」

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【ある冒険者の宝物12】『旅人の日記』大陸各地や大海原を旅した様子が書かれた日記。その時々思ったことが書き連ねてあり、乱筆乱文ではあるものの持ち主の知識欲や好奇心が生み出した文章量は膨大。読み物としての娯楽的価値に加え、様々な土地の様子を記した風土記としての研究的価値もある。

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【ある冒険者の宝物13】「この花畑は僕の宝なんだ。この下には僕の恋人が眠っているからね」 「そ……いやまて、お前の恋人って死霊術で動いたりしてないか？」 「失敬な。彼女はちゃんと生きているよ」 「お、おおそうか、悪い悪い……え？」 「ああよく寝た！ お昼寝は土の中が一番だね！」

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【ある冒険者の宝物14】秘宝『砂漠の水』と聞いて、てっきり宝石か何かの比喩だと思っていたさ。ところが嘘偽りなく、本当に水だったときたもんだ。枯れ果てることのない湧き水、そりゃ砂漠では命も同然だろうよ。まあ……水も食料も尽きかけてた俺たちにとっちゃ宝石よりも価値があったけどな。

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【ある冒険者の宝物15】『祝福の人形』あらゆる苦難を退ける祝福を授かった人形。その効果は教会関係者の誰もがお墨付きを与えるほど強力かつ確実なものだが、効果の対象が人形自身のみであることに気付く者は少ない。今日も人形は大量の金貨とともに、恩恵に与ろうとする人々の間を渡り歩いている。

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【ある冒険者の宝物16】「いくら何でも金庫を持ち歩くのはやり過ぎだと思うんだが」 「そうは言ってもねえ、金庫ごと持ち去られたらと思うと」 「心配性だな」 やはり、と思った。誰もがこの頑強で重厚な金属の塊を凶器とは認識しない。襲いかかってきた賊を幾人も撃退したこれは唯一無二の相棒だ。

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【ある冒険者の宝物17】「それを飲めば吸血鬼になれるなら、躊躇う理由はないだろ？」 「でも、これはあの人が死の間際に遺した血の結晶なんだ。あの人が生きた証を失うと思うと、どうもね」 「俺がどうこう言うのは野暮だから、お前の思うようにすればいいさ」 「そうだね、どうしたものかねえ……」

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【ある冒険者の宝物18】空を駆けるハーピーに一目惚れしてからというもの、彼女から抜け落ちた一枚羽根を唯一の手掛かりに東奔西走の日々。そして今日、ついにハーピーが集う里を発見した！ 「あの、ここにこの羽根と同じ色のハーピーさんは……」 「ここの子らは換羽期のたびに色が変わるんだよ～」

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【ある冒険者の宝物19】「もう復讐は済んだんだ、その刀も手放したらどうだ」 「うちの家訓は『復讐は徹底的に　一族郎党は根絶やしに』だから、もっと血を吸わせてあげないと」 「お、おう……陰惨な家訓だな……」 「何言ってんだい。『復讐は明るく楽しく』も家訓なんだぜ」 「どんな復讐だよ！」

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【ある冒険者の宝物20】『失敗作』刃こぼれせず腐食に強く切断力もあり持ちやすく、重量に反して利便性に優れた斧。しかし材料費や加工の手間を考慮すると到底店に出せるものではなく、鍛冶屋の師より失敗作の烙印を押された。戒めのため寝室に飾られたそれは、いつか振るわれる日を待ち続けている。

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【ある冒険者の宝物21】「そのナイフまだ持ってたのか」 「当然。お前からの初めての誕生日の贈り物なんだぞ」 「それで君は『じゃあ私はもっと大きいの贈る』とか言ってたな」 「昔から意地っ張りは変わらないな、お互い」 「というわけで今年の贈り物だ。受け取れ」 「もうナイフどころか大剣だ」

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【ある冒険者の宝物22】「そうか、君も“捨てられない人”なんだ……」 「いつか役に立つかもしれないだろ？ それを捨てるなんてとんでもない！」 「これを宝の山と呼ぶのは無理があるよ……」 「明日の祭事に出す聖火用の燃料を集めてるんです」 「やあ宝の山、出番だよ」 「出番じゃない！」