【ある冒険者の宝物】

小話のまとめ
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サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の宝物23】「押し花を習ってくる。娘がくれた花を長持ちさせたくてな」 「そりゃ娘さんも喜ぶだろうね」 「氷結魔術を教わってくる。娘がくれた花をずっと眺めていたくてな」 「仲の良いことじゃのう」 「不老不死の呪法を探してくる。娘がくれた花を――」 「その辺にしときなさい」

2022-10-01 00:51:54
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の宝物24】「さて、何を埋めたんだったか」 「子供の頃の話だものね」 「でも一番好きなものを入れたんだし思い出せそう」 「だね~」 「ふむ、俺は冒険者の絵物語が好きだったな」 「父様から貰った人形関係かも」 「僕はお絵描きしてたっけ」 「駄菓子屋さんの思い出が一番だな~」

2022-10-01 16:02:11
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の宝物25】沈没船に財宝が積まれている事実の少なさに反し、それを信じる者が多いのは、その噂を流す者たちがいるからだ。彼ら――遺された者たちにとって、船に乗っていた誰かの遺体や、万が一に備え石版や金属板に刻まれた情報が回収できれば、積荷が他者の懐に入る事は些細な問題だった。

2022-10-02 09:49:28
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の宝物26】古戦場跡の探索を任された我々は、そこで数々の武具を収集した。どれほどの価値があるかわからないが、学者は高く引き取ってくれるのだから、ここは我々にとって宝の山だ。 「みんな鉄屑拾いお疲れさま。はい今回のお駄賃ね」 「よし、今日は焼き菓子だ!」「私はケーキ!」

2022-10-04 00:11:28
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の宝物27】「そこで私は願いました。『では神よ、私しか価値がわからない物を』と」 「それがその、変な物か?」 「他人には無価値なものに映るようです」 「そんなの願って何になるんだか」 「私だけが価値を理解している優越感! 素晴らしい!」 「それ目当ての信仰かよ破戒僧め……」

2022-10-05 00:09:50
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の宝物28】『宝の地図』友人をからかうために冗談半分で作られたもの。当然ながら財宝の類は隠されていないが、その地図自体は極めて精緻に描かれているため非常に価値が高い。なお宝の地図が偽物であると発覚した原因は、古の地図にしてはあまりに細部まで正確に描かれていたためである。

2022-10-05 22:46:25
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の宝物29】巡業団の人気俳優のサイン。それを当時子供だった彼が手に入れられたことは何より幸運だったと言えるだろう。 「相変わらず若いよなー全然老けねえ」 「それどころか若返ってないか?」 「ははあアレか、吸血鬼か何かって噂」 「そのほうがありがたいね。俺が死ぬまで推せる」

2022-10-06 21:18:56
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の宝物30】それは彼にしか持つことができない魔剣だ。それは選ばれし者のみが認識できた。それは他のどんな武器よりも強く、想定しうる全ての敵を討伐した。それは役目を終えると跡形もなく朽ち果てた。何の変哲も無い棒、それは彼の在りし日の記憶の中で今でも鋭い光を放っている。

2022-10-08 06:00:36

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サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の宝物31】「あいつ、いつから指輪してたっけ? そんな趣味なかったと思ってたけど」 「あれはな、持ち主の死に際に『あり得たかも知れない未来』や『あってほしかった人生』を見せる術具なんだ」 「それ残酷じゃないか? 悔いが残るだろ」 「いいだろ。最期くらい夢見させてやれよ」

2022-10-09 07:37:18
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の宝物32】君の尾を梳いて抜け落ちた毛からお守りを作ったと知ったら、君はどんな顔をするだろう。でも、僕にとっては難局を乗り越える心の支えだ。これまでがそうだったように、これから訪れる苦難からも必ず生還してみせよう。 「あら、また忘れ物。相変わらずそそっかしいんだから」

2022-10-10 08:59:50
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の宝物33】「問題。飢えた村を救うべく命懸けで手に入れた食料の山と植物の苗を運ぶ冒険者が、もうすぐ山道に入ります。ここを通り無事村に辿り着く可能性は?」 「皆無。あのような小童、俺一人にも勝てぬ」 「つまり、やることは分かるな」 「バレないように護衛だろ? 人がいいね親分」

2022-10-11 21:56:03
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の宝物34】「これは魔法の鍋! 材料を入れ作りたい料理を想像すれば、たちまち完成するのだ!」 「面白そう!」「試したい!」 「なんか固くて黒いものが」 「君は水もなしに米を炊くのかね」 「味がしねーよ」 「調味料を入れたまえ」 「なにこのげちょげちょ」 「想像力が貧困だ!」

2022-10-12 23:53:35
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の宝物35】「おいおい、その立派な剣は飾りか?」 「そうなんですよ恥ずかしながら若かりし頃は武器が良ければ強くなれると勘違いをしてまして剣術の先生にもそう言ったら譲っていただいたのがこの剣で勿論実際にはそんなことはなくこれは戒めとして常に」 「わかった! わかったから!」

2022-10-13 22:17:26
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の宝物36】ああ、確かに俺は酒を飲まん。それは親父宛てに贈られてきたものさ。返すのも野暮だし親父はもう死んだことを伝えようとしたら、その送り主も死んじまってたよ。たまに帰ってきた親父が旨そうに飲んでてな、何一つ遺品が残らなかった親父との唯一の繋がり……かもしれねえな。

2022-10-15 09:26:52
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の宝物37】「見事なものだろう? この月光に輝く白銀は我の誇りそのものだ。貴様の体を貫くなど造作もない」 「お前……そいつで大勢の人間の血を吸ってきたんだろうな」 「貴様もその仲間に加えてやる。覚悟しろ!」 「血液の提供に感謝するぞ」 「ほ、本当に全然痛くなかった……」

2022-10-16 10:24:02
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の宝物38】〈そうやってリラを持つと吟遊詩人みたいだな〉 「そんな人生に憧れたのも昔の話です。でも処分するには惜しいので、未練がましく持ち歩いているのですよ」 〈折角だし何か弾いて!〉 「では」 彼女の鎮魂曲は、亡霊達を霧散させた。 「墓参りのたびにこれは疲れますね……」

2022-10-17 23:36:33
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の宝物39】彼女は木の実を食べられず、どんな状況でも口にすることを拒む。もしもあの日、彼女の隊が遭難した日、仲間が彼女に後を託し力尽きる前に、村の孤児達への玩具用にと大事にしまっておいた木の実の存在を思い出していれば、体が木の実を受け付けなくなることはなかっただろう。

2022-10-21 01:10:18
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の宝物40】「これ精霊の結晶? 一体どうやって手に入れたの?」 「看取った相手から直接さ。いつか復活するから大事に預かっててほしい、とな」 「いつかって、ヒトの寿命何回分だと思ってるんだろ」 「それは理解しているでしょうね。どんな形でも、ただ長く一緒に居たいだけでしょう」

2022-10-22 00:07:06

41~50

サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の宝物41】「こうやって財宝を集め続けたら、いつか宝探しの仕事がなくなってしまうんじゃないか?」 「それは海の水がいつか尽きる心配をするのと同じだね」 「宝が自然に湧いてくるってのかよ」 「実は悪い魔法使いが我々の死体を財宝に変えて――」 「もっとまともな作り話をしてくれ」

2022-10-22 05:58:43
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の宝物42】「確かに私の魔術なら期間を指定して記憶を消すことはできる。だが良いのかね。思い出は人生の宝物だろう?」 「いい思い出が次第に色褪せていくのも、嫌な思い出がいつまでも鮮明なのも我慢ならないんだよ」 「そうか。ならば、次は前向きな人生となることを祈らせてもらおう」

2022-10-23 09:03:56
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の宝物43】「エメラルドにオパールにダイヤモンド、ルビー! こんな大きな原石がたくさん!」 「はー、この色付き石にそんな大層な名前があったんだなあ」 「僕の故郷では貴重品だよ! これは家宝にしてもおかしくないね……」 「なら全部あげるよー私にゃ相場はよくわからないからね」

2022-10-24 23:25:00
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の宝物44】「うわ、そんな装飾品だらけで冒険に行く格好じゃないでしょ」 「男たちからの大事な贈り物、肌身離さず身に着けたいのが心情よ」 「でも、もし戦闘になったら傷ついたり壊れたりするかも」 「安心せい、これらは全て相手を堕とし滅ぼす呪具ゆえ」 「それほんとに贈り物?」

2022-10-26 04:49:24
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の宝物45】「何それ、魔術書?」 「見せてやろう。汚すなよ」 「わ、絵がたくさん」 「私の旅の理由さ。絵描きを訪ね、これに描いてもらっている」 「お金を出して絵を描いてもらうとか、まるで貴族の趣味だねえ」 「どれも同じものが二つと存在しない絵だ。出した金以上の価値があるぞ」

2022-10-26 23:19:08
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