【縛られないために】福間健二 #k2fact349
人がいる。安心して地面に降りる。新しい体。用途を問わず、三つか四つ年上の足どりで、眠るジャケットの、一夜で変わる景色の、要するに中身の、役に立つように。光の三角形は突然できる。いつの時代も、みんな大変だったのだ。とくにフェアーにやろうとしなくても。(縛られないために1)#k2fact348
2022-12-29 18:51:56弁護士好みの絵画は。急に知らん顔するようなエクスタシーの収縮は。洗剤使ったせいでへんに落ちなくなる汚れは。ちょっと時間は要ったけど、洋子さんの言うこと、深いと思った。大そうじ、窓も換気扇も拭くだけではだめ。一九六三年のボブ・ディランにならないと。(縛られないために2)#k2fact348
2022-12-30 19:32:39どうせ落下するなら、と考えた。小雨の丘よりは青い牧場だ。バケツをひっくり返してもいい。降りて、降りたらちがう自分だ。大そうじの二日目、まあまあきれいに磨いた洗面所の鏡に映る地球の少年少女にはまだチャンスがある。日本の少年少女はほとんど絶望的だけど。(縛られないために3)#k2fact348
2022-12-31 18:35:24青いインクで書く日記のなかにしかない未来からの振動。隠れているミュータントと何を取り合いして、この鉤爪、再生不能になるのか。いま知って、忘れられなくなるが、いいのかって悩むことじゃない。見れば若い枝が出ている。笑顔だ。一緒に踊ってほしいと頼むんだ。(縛られないために4)#k2fact348
2023-01-01 18:16:39働かないハチローさんの手がじゃま。テレビの生中継に戻して、無宗教の体はできるだけよじらせない。わかっていた別れ、名前だけで風に運ばせるものが重いはずはないのに国立市東四丁目のバードランドで頬をピシャリ。気にするなよ。でも、突然よみがえる記憶がある。(縛られないために5)#k2fact348
2023-01-02 12:48:23わたしは白鳥だ。そんな不注意発言と燃える屋根。見えない裏側のためだけでなく、行方不明のリーダーのおいていった呼吸を感じすぎて、雲間からのぞく日ざしのほほえみにまで反発した。ダメであり、好意の構成もくずれ、まだ開いていない店も多い新しい年の三日目だ。(縛られないために6)#k2fact348
2023-01-03 18:36:30連絡はした。相談はしていない。わかってもらえるという期待も姿勢だけにして、自転車で甲州街道をこえて泉町一丁目の廃棄物処理工場まで。遺品整理もしてくれるそうだが、行きも帰りもきつく、見えてくる山は、つむじまがりの一生をなだめる機嫌のとり方を教えない。(縛られないために7)#k2fact348
2023-01-04 17:18:44でも、なんだって、だれだって、先生にできる。光るものを盗む、安心させない先生とかだ。大風が吹かなくても二つ、三つじゃない義務の不履行。許さないし、捕まりやすい獲物じゃないぼくたちは冬野菜のあったかサラダを作って食べた。少し塩が薄かったかもしれない。(縛られないために8)#k2fact348
2023-01-05 17:15:03何がよみがえるだろう。老いた男がひとりいる川岸の静寂を破る鈴の音で。あるいは、死を思って降りる階段の下に集まってくる虫の触覚の動く音で。きのう言おうとしたのは、ダイコン、カブ、ニンジンをもらったあとの一歩が大事だってこと。わたしは詩だ。それはまだ。(縛られないために9)#k2fact348
2023-01-06 12:15:36排水溝の群像を見ていた。死にかけた動物的なものを、仲直りして慰めるのかと思ったら、使わなかった招待券が青い目でこちらを見返した。すると設計上の欠点も気にならなくなる夕闇の駅なのだ。待合室、最後のひとり。いいえ、もうひとり。長い打ち明け話をする人だ。(縛られないために10)#k2fact348
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