「麒麟はきた」麒麟がくる二次創作
- Tobiishisan
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しかし不敬な。 猿が胴体から跳躍し、首の付け根に着地しようとする瞬間を狙って、全身の蘭茶色の体毛を針鼠の様に硬質化させる。 足元をうろついていた数体の悪鬼が突如張り出した体毛に胴を貫かれ百舌の速贄のごとく宙に掲げられ、ぎぎぎと昆虫に似た悲鳴を上げる
2021-01-26 23:16:15さて、猿はどの様に鳴くかのう。 が、 麒麟が猿と蔑んだ、剣士はいまだ麒麟の身体を駆けていた。
2021-01-26 23:16:16体毛を避けながらか。 否、剣山のごとく突き出た針先に爪先を合わせ着地し、まるで飛び石を渡るが軽快さで、別の針先に飛び移る。 猿の、常人では不可能な体捌き。 しかし麒麟は知らない。 今まさに刀を抜き、頭に迫りつつあるその男が自身と同じ常世の物では無い事を。
2021-01-26 23:16:16振り落とさねば。 碗をひっくり返す様に首を捻り大きく下に振る。 如何な生物でも宙は歩けぬ。 それが道理。
2021-01-26 23:20:41最初からこうしておけば良かったと、念入れでもう一度大きく首を振ろうとした瞬間、再び鉛玉が額を直撃し麒麟の動きが止まる。 度重なる邪魔に頭に血が上った麒麟は、逆さになったそのままの体勢で鉄砲の音が鳴った方向に炎を吐こうと首を向ける。
2021-01-26 23:20:41天地が逆転した視界に射手を捉える。 召喚時に我に「何故か」と問うた愚かな猿。 その猿が今は隠れもせず、こちらへ向けて銃口を向けていた。 そして鉄砲を携えたその手の甲は、燃え盛る炎の様に紅く光輝いている。 嫌な予感がした。
2021-01-26 23:20:41いや、浮かんでいるのではない。 刀を構えた剣士は如何な道理か、目に見えぬ足場を弓を引き絞るがごとく強く踏み締めている。 先ほどの射手と同様に薄らと紅い光に包まれながら。
2021-01-26 23:29:57その剣士の視点が一点に注ぎ込まれている。 麒麟の喉下、硬質化した体毛が唯一生えていない、麒麟の急所とされる僅かな箇所。 そこが今、天に向ける形で露わになっていた。
2021-01-26 23:29:57剣士が応え、足に溜めた力を解放する。 空気の爆ぜる音と共に、迅雷のごとき疾さで宙を飛び、刀を振り下ろす。
2021-01-26 23:34:45麒麟は恐怖した。 それは麒麟がこの世に生を受けて抱いた最初の恐怖であり、 そしてそれが、最後となった。
2021-01-26 23:34:46叩きつける雨が、洛中を三好勢から逃げる二人の男に容赦無く降り注ぐ。 一人は傷を負っているのか、直垂の腹から腰にかけてぐっしょりと血に濡れ、もう一人の男はそれを庇うかの様に相手の腕を自身の肩に回し、男を支える様に歩を進めていた。
2021-01-26 23:41:39時折追手を気にしてか、後ろを振り返り、傷付いた男を奮い立たせようと何事か話しかけ続けるが、激しい雨音が全てを消し去ってしまう。
2021-01-26 23:41:40ふと。 傷を負った男の全身から力が抜け、もう一人の男も支え切れず、勢い両者泥の中に倒れ込んでしまう。
2021-01-26 23:44:05元は金蘭で華美であったろう自身の直垂が泥に汚れるのも構わず、傷を負った男を再度抱え上げようとした男は、 瀕死の男がゆっくりと首を横に振るのを見た。
2021-01-26 23:44:05「ならぬ、ならぬぞ!」 だが分かっていた。今まさに彼の背に触れる自身の手から感じていた。 温かさが、命が、霧散しようとしているのを。 それに対して自身は否定の言葉しか掛けれぬ事を。 分かっていた。
2021-01-26 23:50:18涙で濡れた男の唇が僅かに動く。 己に残った僅かな命の灯火を、全て言の葉に載せる様に。 「どうか」
2021-01-26 23:50:19