モータル・ニンジャ・レジスター #6

翻訳チームによるサイバーパンク・ニンジャ活劇小説「ニンジャスレイヤー」リアルタイム翻訳 (原作:Bradley Bond-san & Philip Ninj@ Morzez-san) ニンジャスレイヤー公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 続きを読む
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

桟敷席には銀色のビヨンボで四方を覆われた恐るべきロード・オブ・ザイバツその人が座り、膝の上でバイオ三毛猫を撫でている。バイオ三毛猫は異常高温の中で緊張し、しきりに毛づくろいを繰り返していた。 46

2011-10-23 12:32:13
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

やんごとなきロードの席の下には装飾されたタタミ席。そこには珍しくグランドマスターニンジャのほとんどがおり(彼らにとって、またとない見世物だからだ)、重箱のスシをつまんだり、隣席の者と語らったり、大釜を指差したりしながら、くつろいで座っていた。 47

2011-10-23 12:36:25
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ヤメロー!ヤメロー!」むなしい叫びだ!「ムーフォーフォーフォー……なんと言うたか。あそこの……その、あれは。あのニンジャは」「シーホースにございます、マイロード」何時の間にか傍にいた小柄で陰気なニンジャ、大参謀パラゴンがうっそりと答えた。「……ムフゥーン……愚かな奴……」48

2011-10-23 12:44:16
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「愚かにございます。実に愚かな」パラゴンはしめやかに頷いた。そして、しつらえられた石段を降りてゆき、宣告台に立つと、その外見に似つかわしくない、腹の据わった大音声で告げた。「この者、シーホースは、大敵ニンジャスレイヤーのテロ行為を知りながら、保身のために報告を怠った!」 49

2011-10-23 12:50:34
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ヤメロー!ヤメロー!」……パラゴンは続ける。「この者が独断先行し、内々で解決しようなどと……基本的な報告を渋っておったせいで、ギルドとしての対応は遅きに失した。そして多くの英雄的ニンジャが凶刃に倒れた……まさに万死に値する。セプクでも生ぬるい!」 50

2011-10-23 13:37:45
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「そんな事は!そんな事は断じて!断じて無い!断じて無いんだ!ヤメロー!ヤメロー!」宙吊りのシーホースが激しく暴れた。パラゴンはそれを睨む!「ザッケンナコラー!」悪鬼のごとく双眸を見開き叫ぶ!「テメッコラー!証拠固まってんオラー!IRCログがあるぞコラー!チェラッコラー!?」 51

2011-10-23 13:40:33
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アイエエエ!?ログ?ログナンデ?」シーホースは驚愕して叫んだ。「で、でっちあげだ!」「しらばっくれんコラー!」「なんと見苦しい」グランドマスター席のスローハンドが眉を潜めた。パラゴンはそれを一瞥した。そして大釜の側でスモトリを鞭打つ病的なニンジャに親指を逆向けた。「やれ」 52

2011-10-23 13:45:06
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ウーッフフフフ!ウフッ!ウフッ!イヤーッ!」痩せたニンジャはスモトリを激しく鞭打ち、追い立てる!「アイエエエ!」スモトリはヨダレを垂らしながら大釜の脇の回転レバーに取り付き、力を込めた。ギギッ……ギギギギ……レバーが軋み、シーホースを吊るす鎖が無慈悲に降りてゆく! 53

2011-10-23 13:50:52
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ヤメロー!ヤメアバッ!アバーッ!アババババゴボッ、ゴボアバッ、ゴボボボボッ……。……。……」煮えた油はシーホースを呑み込み、激しく泡立ったのち、再び不気味に沈黙した。ナムアミダブツ……ナムアミダブツ!なんたる暗黒の処刑儀式!そして平然とスシを口に運ぶグランドマスター達! 54

2011-10-23 13:57:54
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「これでミソギは完了」パラゴンは地獄めいて告げた。彼の視線はオチョコを持つパーガトリーの左手小指に注がれていた。正確には、小指のあった場所に。そこにはバイオ包帯が巻かれている。ケジメだ。シーホースはパーガトリーの部下に当たる。彼は自らケジメを申し出、責任を取ってみせた。 55

2011-10-23 14:08:01
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

これは実際パラゴンに対し先手を打った形である。パラゴンは今回の被害拡大について、スローハンドとパーガトリーの何らかの隠蔽工作を疑っている。だがグランドマスター位階のパーガトリーが自らケジメし、体裁の整ったシーホースの証拠を揃えたとなれば、これ以上の追求は難しい。 56

2011-10-23 14:13:58
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

相手は二人のグランドマスター。パラゴンと言えど専横は許されない。相互に牽制し、鞘を収める……これがキョート的なタテマエ社会にのっとった現実的な落としどころであった。何より、今は身内で争う場合ではない。今回の敵はニンジャスレイヤーなのだから。パラゴンは出席者に向き直る。 57

2011-10-23 14:18:33
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「汚点は晴れやかに雪がれた!」パラゴンは叫んだ。「一丸となって、偉大なるロードに楯突く邪悪存在に鉄槌をくだすべし!ガンバルゾー!」両手を高々と上げる!グランドマスター達もそれに和する!「ガンバルゾー!」「ガンバルゾー!」「ガンバルゾー!」 58

2011-10-23 13:52:38
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ガンバルゾー!」「ガンバルゾー!」「ガンバルゾー!」「ガンバルゾー!」「ガンバルゾー!」「ガンバルゾー!」 聴くがいい!地下空間に響き渡る禍々しきチャントを!おお……ナムアミダブツ……ナムアミダブツ! 「ガンバルゾー!」「ガンバルゾー!」「ガンバルゾー!」59

2011-10-23 14:36:24
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「潮時だなァー」ガンドーがUNIXデッキを離れた。隅でアグラ・メディテーションをしていたニンジャスレイヤーが目を開き、ガンドーを見る。廃ビルの一角だ。ガンドーはゴキゴキと首を鳴らした。「やり方を変えたほうがいいぜ。真新しい情報が乏しい」「……そうか」「印刷所も焼けたしな」 61

2011-10-23 15:06:31
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……」「印刷所のオッサンには、怖い思いさせちまったよな」「……」ニンジャスレイヤーは無言で目を閉じる。ガンドーは言った。「あの14人にこだわるわけじゃ無いんだろ?」「そうだ。どのみち全て殺す」ニンジャスレイヤーは即答した。ガンドーは無言で肩を竦めた。 62

2011-10-23 15:09:34
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ニンジャスレイヤーはメディテーションを解き、立ち上がる。「来週また情報を買いに来る。なんでもいい、集めておいてほしい。次の手は考えて来る」「あンた、本当に全員やるのか?ザイバツを全員?」「……何が?」ニンジャスレイヤーは虚無的な目でガンドーを見た。ガンドーは目を逸らした。 63

2011-10-23 15:15:10
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

……アンダーガイオンの封じられた空の下、トレンチコートとハンチング帽で素性を隠したニンジャスレイヤー=フジキド・ケンジは、俯き加減でひとり、ボンボリ街灯の下を歩いていた。道の角にあるコインランドリーのノレンをくぐり、父母、子、三人の親子連れが路上に出てくる。彼は目で追う。 64

2011-10-23 15:25:30
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「モチヤッコの弟だって!」四歳ぐらいの男児が両親の腕を揺さぶった。「おかしいねェ!」父親が笑い、「おかしいね」と答える。母親は無言で微笑んでいた。男児は笑い、「だってモチヤッコってお餅でしょ!」「お餅じゃないかもよ」「なんでェ?」「お餅かも知れない」「なんでェ?」 65

2011-10-23 15:35:45
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

他愛の無い会話だ。だが決して裕福で無いであろうこの三人は、満ち足りたアトモスフィアを漂わせて、ゆっくりと遠ざかる。「モチヤッコすごいねェー!」「すごいね」……フジキドは足を止め、しばしその後ろ姿を見送る。それから歩き出す。踵を返し。反対側の方向へ。今来た道へ。 66

2011-10-23 15:44:52
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

第二部「キョート殺伐都市」より:「モータル・ニンジャ・レジスター」終わり

2011-10-23 15:46:42