【二〇二三年の雨】福間健二 #k2fact351
秋の彗星が消えない制作途中の空。冬だからというのではなく、だれのヌードも似合うはずはない午前十時に東郵便局の屋上にあらわれるイヴェット・ギャラップの黄色は、たとえば何を思い出しているか。ぼくの好きな、同類へのやさしい乗り方。それを言うのは早いかな。(二〇二三年の雨1)#k2fact350
2023-01-18 11:30:33だとしたら、休息する畑に踊るゴーストたち、注意すべきはその髪の毛や頬に触らせないこと。二十年以上前から着ているフード付きのコート、それより前から見ている夢でぼくが会う少年には、とくに。白い箱が必要だろうか。彼はぼくではないが、彼のなかにぼくはいる。(二〇二三年の雨2)#k2fact350
2023-01-19 11:04:13この世界、別の世界、同時に踏める。苦悩のアーティストでなかろうと永遠に住む家などないのも当然だ。発見した箱のなかに懐かしいコートがあっても着ているのは生者ではない。不吉なことを言ってない。生きている少女の細い体を舞いあがらせる。天使じゃなくていい。(二〇二三年の雨3)#k2fact350
2023-01-20 11:44:48十八階、そして空。何を飲むか。何を吐くか。そんなことでは決まらない、きょうの左右。しかし、罪はゼリー状態だよ。遊んでもいられない老人たちに降りてくる映像の一貫性にとても感心して、箱の下は皮肉にもわかりやすい石が並ぶ。目がさめた。埼玉からネギが届く。(二〇二三年の雨4)#k2fact350
2023-01-21 14:58:58一年でいちばん寒い時期。黄色から赤に、だれの目にも不安な成長はここまでとしたいイヴェットの質問を思い出した。胸を撫でた左手はどんな鳥の止まり木になるのか。断念、前向きの効果を呼ぶこともあって、鳥の目で見た景色に白い湯気があがり、お腹のすいた人がいる。(二〇二三年の雨5)#k2fact350
2023-01-22 10:00:25どこへ連れだされるのか。無関係なものを結びつけようとして何度も行ったり来たりする行為の先で、ぼくはぼくとすれちがい、きみはきみとすれちがう。視線と視線。そうかもしれないが、それ以上に確信と確信だ。だからこの雲と波、質問にはいっさい答えずに流れるのだ。(二〇二三年の雨6)#k2fact350
2023-01-23 11:44:29太陽について、自分のなかの太陽が発する光と熱のなかにこの世のボタンというボタンを溶かそうとする者について、イヴェットの言いたいことはひとつ。妹になってあげるからただそこにいて照らしてほしい。鳩を、ピアノを、お風呂を、そして子どもの姿に蘇生する老人を。(二〇二三年の雨7)#k2fact350
2023-01-24 09:17:06自転車の荷台に落としていた鍵。気づかずにそれを運びながらそれを探していた。寒波に襲われる列島と身体、その具体性の内側。同時ということ、別々に風に飛ばされて宙吊りになること、同じ火をくぐることの恍惚。会えない二人だから感じるんだ。空間の余白に感謝する。(二〇二三年の雨8)#k2fact350
2023-01-25 15:37:18過去から逃れられない。でも、行くこと、戻ること、いまどっちなのかわからなくて、その曲線が揺れるイヴェットだ。兄のクリフの、ちょっと古いかもしれないギターの音が横切る空間に、甘い蜜も、泣いている子どもの声も、雨になる寸前の空のパラシュートの痛みも。(二〇二三年の雨9)#k2fact350
2023-01-26 15:34:09まだ冬。春には割れる平面をたのしんで木琴のような青い足音をたてる独身女性とその兄のことを書きたかった。関節をゆるませない古着ばかり出てくる。秋には片付いている木曜日の箱。金曜日のきょうはそのためにもっと迂回して雨のなかに。いつまで。あきらめないだけ。(二〇二三年の雨10)#k2fact350
2023-01-27 07:36:52