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RAAMAM RAAGHAVAM/RAAMAM BHEEMAM: Sanskrit lyrics from RRR Songs

大ヒットインド映画RRRから、サンスクリットが使われていると言われる曲を考察してみました。何度見てもカッコいいですね!
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RAAMAM RAAGHAVAM

映画公開前から配信されていたMVです。実際には劇中に(最初と最後あたりに)分割して使用されていたように思います。最後では RAAMAM BHEEMAM となっていますね。

寸田次男 @SundarDinant

#RRR の Raamam Raaghavam song、寸田なりに調べて聞いて解釈したところ、こんな感じかなとまとまった。映画はまだ見られていない。(自由がほしい😭) rāmaṃ rāghavaṃ raṇa-dhīraṃ rājasaṃ ラグの系譜に連なるラーマに、戦場の智者に、ラジャスにあふれる者に、

2022-11-08 11:45:12
  • ラジャスにあふれる者」のラジャスというのは,ヒンドゥー哲学のサーンキヤやヨーガでいう,物質世界の全てのものに共通して備わっているトリグナ(tri-guṇa 三性質),つまりサットヴァ(sattva 純質)・ラジャス(rajas 激質)・タマス(tamas 暗質)のうちの一つで,これらのバランスの変化でいろいろなものが現れます。ざっくりいうと「激しい性質のもの」において優勢になっているものが「ラジャス」で,歌詞の rājasa はその派生語です。語義としては「ラジャスから生じた」という解釈が普通ですが,単に「ラジャス的」のようにも訳されますかね。このシーンでいうなら,ラーマは激しい戦闘に加わっているので,「戦闘モード」というような意味かなと思うのですが,正確に訳すのは難しいです。インド人にはたぶんすぐわかるんですけどね。そういえば辛いご飯はラージャサですね。
寸田次男 @SundarDinant

rudra-dhanus-sama-samāna-sva-dhanuṣ-ṭāṅkāra-bhaya-bhrānta-śātravaṃ ルドラの弓と等しく誉れ高きその弓の弦音(ターン音)を怖れて敵どもが恐慌をきたす者に… rāmaṃ rāghavaṃ raṇa-dhīraṃ rājasaṃ

2022-11-08 11:45:12

ルドラというのは簡単に言えば(怒られそう……)ここではシヴァ神のことです。

これは複合語なので,デコードしてやらないと意味がわからないのですが,平文で書くと,

rudrasya ルドラの dhanuṣā 弓と samasya 等しい samānasya 名声ある svasya 自分の dhanuṣaḥ 弓の ṭāṅkārād 弦音(「ターン」という音)を bhayena 恐れることで 〔yasya その者の〕śātravaḥ 敵が bhrāntaḥ 混乱する 〔tam そのような者に〕

という風になりましょうか。
カッコで補った部分はこの手の複合語(bahuvrīhi複合語といいます)を説明するのに必ず補ってやらないといけない関係代名詞です。
(また,日本語としてわかりやすいように語順も入れ替えています。)

samasya ~ svasya まではすべて dhanuṣaḥ に同格でかかっています。

寸田次男 @SundarDinant

gāṅḍīva-mukta-puṅkhānupuṇkha-śara-paramparā-hata-vairī-śataṃ ガーンディーヴァより放たれし矢継ぎ早の(矢羽に次ぐ矢羽の)矢にのつらなりで百の敵を討てる者に… rāmaṃ rāghavaṃ raṇa-dhīraṃ rājasaṃ

2022-11-08 11:45:13

ガーンディーヴァというのはマハーバーラタの主人公,アルジュナの弓のことですね。映画では字幕に「アルジュナ」と名前が使われていましたね。

コチラも平文にすると,

gāṇḍīvād ガーンディーヴァから muktānāṃ 放たれた puṅkhānupuṅkhānāṃ 矢継ぎ早の śarāṇāṃ 矢の paramparayā つらなりを用いて vairiṇāṃ 敵の śatam 百人が 〔yena その者によって〕hatam 殺された,〔tam そのような者を〕

という感じですか。またしても上と同じタイプの複合語です。

寸田次男 @SundarDinant

hasthināpura-samasta-dig-ghasti-kumbha-sthala-vicalan-natarājaṃ ハスティナープラのあまねき方位象の額のコブ(クンバ)という場を震わすナタラージャに… rāmaṃ rāghavaṃ raṇa-dhīraṃ rājasaṃ

2022-11-08 11:45:13

ナタラージャというのは踊りの神,端的に言うとシヴァ神のことです。

これもデコードにお付き合いください。

hastināpurasya ハスティナープラの samastānāṃ すべての digghastināṃ 方位象たちの(方位を守る八体の象のこと?) kumbhasthale クンバ(額のコブ)という場所を vicalantam 震わせる naṭarājam ナタラージャを

今回は素直に全部最後の「ナタラージャ」にかかっていくので関係代名詞はいりません。

この最後のライン,このMVを聞くだけではラーマのことを言っているように解釈しないといけないように思ってしまうのですが(ラーマはヴィシュヌの化身ですから,ヴィシュヌ=シヴァ?という話になってしまう),じつはビーマのことを言っているようです。

次に見る,RAAMAM BHEEMAM という,ビームのことも歌っている劇中歌に取り込まれてこの歌詞は初めて完全になります!

なんで -am なのか?(私見)

寸田次男 @SundarDinant

吾人思ふに……これではおさまりが悪いので、多分「敬礼します(vande/namāmi)」を心のなかで補うのだと。格があるのだと考えたら(tatsama ではなく、sanskrit なのだと仮定するなら)そう補いたくなるはず。 (”vande” “namāmi” iti śeṣaḥ suspaṣṭatayā na gīyate… iti manye)

2022-11-08 11:45:14

補足

  • サンスクリット(今回はすべて a 語幹男性名詞)をテルグ語化する場合,-am/-amu という形が主格として振る舞うので,そのように解釈するとすべて主格の文章と理解できる。
  • 広義に「サンスクリット」というときにはそのような俗語形に変化したものもそう呼ばれることがあるので,その限りでは極めてサンスクリット的なテルグ語の主格と解釈できる。
  • しかし,狭義の(厳密な)サンスクリットというのであれば,男性名詞に第2格接尾辞 -am が付された形と判断するのが妥当。
  • その場合,対格となるだろうから、これを目的語とする何らかの動詞を補ってあげると自然。
  • なんらかの動詞: vande, namāmi (私は)敬礼する/ naumi, staumi (私は)讃える/ bhaje (私は)崇拝する etc.
  • 2格がひたすら連続し、これらの動詞が置かれる形というのは讃歌(stotra)では非常によくある形。
  • もちろんテルグ語の極めてサンスクリット的な表現であってもなんの問題もない。

RAAMAM BHEEMAM

ほんとに最後の最後のバトルシーンで,使われるメチャクチャかっこいいBGMです。歌詞としては RAAMAM RAAGHAVAM にビーマを歌った2行分が追加されており,弓を使って戦うラーマと,槍とXXXをぶん回して(!)破壊のダンスを踊るビームに対応して歌われています。

寸田次男 @SundarDinant

#RRR #RRRSong RAAMAM BHEEMAM の歌詞についてちょっと触れたい。 bhīmaṃ bhārgavaṃ komuraṃ kaṇṭhīravaṃ apratihatadordaṇḍadhātasaṃbhrāṃtadigbhrāṃtadhvāṃtadigaṃtaṃ というラインが RAAMAM RAAGHAVAM に挿入されているそうな。 参考:reddit.com/r/Ni_Bondha/co… twitter.com/SundarDinant/s…

2023-02-19 16:41:15
寸田次男 @SundarDinant

#RRR の RAAMAM RAAGHAVAM と RAAMAM BHEEMAM 用にいまさらこっそり作ってみた歌詞カード。サンスクリットは多分これであってるはず。カタカナは目安。下線は帯気音。末尾のムはンでもよいです。Telugu とラテン翻字は正確には一致しません。ご参考に!(誰の……?) pic.twitter.com/oKrI8eOwMa

2023-02-17 17:51:20
寸田次男 @SundarDinant

bhīmaṃ bhārgavaṃ komuraṃ kaṇṭhīravaṃ コムラン・ビームに,バールガヴァに,獅子に〔敬礼します?〕 komuram は短母音のo(なので,あとのoをōにした)。Komura ってkaumāraだって言うのをみたけどほんまかいな。そのへんの話は置いておいて,聞いたままに。

2023-02-19 16:41:15
寸田次男 @SundarDinant

「バールガヴァ」っていうのは文字通りにはブリグ(bhr̥gu)の末裔ってことなんだけど,多義語で困っちゃうやつです。シヴァから死者蘇生の秘法を授かったアスラの師・シュクラ,ジャマダグニの子・パラシュ・ラーマ,そしてシヴァ自身,etc. 兄貴を蘇生したエピからシュクラもいいと思うけど……。

2023-02-19 16:41:16
寸田次男 @SundarDinant

でもやっぱり「シヴァ」がマッチするんでしょうね。なぜって「ビーマ」はシヴァの主要な異名の一つであり,もうひとつの異名「ナタラージャ」が歌われるシーンはドカンとビームが抜かれているから(記憶違いだったらゴメソ)。あの「舞い」がターンダヴァなんですかね?

2023-02-19 16:41:16
寸田次男 @SundarDinant

まぁ,x2, x3 ミーニングは当たり前のインドよ。ここはやっぱり穏当にバールガヴァとしましょ(逃げ)。 さて,獅子(kaṇṭhīrava)というのは喉(kaṇṭhī)に咆哮(rava)があるのでこう呼ばれる。咆哮。”roar” !

2023-02-19 16:41:16
寸田次男 @SundarDinant

長い複合語のライン,参考サイトの表記がちょっとおかしいと思いBGMにしながら何度も聴いた。多分, apratihata-dordaṇḍa-ghāṭa-saṃbhrānta-digbhrānta-dhvānta-digantam と言っているんじゃないかな……コレ。

2023-02-19 16:41:17

訂正:ghāṭa > ghāta です

寸田次男 @SundarDinant

無双の剛腕打ち付けて,この世の果ての迷妄(方位喪失)の闇をひっくり返す(?)者に。 この訳は実はちょっとしたアクロバットをしておりあまり自信がないのだけど,今日はもう時間がないのでおしまいです。 では飯の準備でござる。 は〜おにまいおにまい。

2023-02-19 16:41:17

この複合語はかなり難儀です。
私も正しい解釈ができているかというと自信がないですが,おそらくこういうことじゃないかなと,そこそこ満足した解釈が次のようなものです。

〔yasya その者の〕 apratihatasya 対抗するもののない dordanḍasya 剛腕の(棒のような腕)ghātena ひと打ちで digantasya 世の果て(インド中の人々?)の digbhrānta- 方位喪失(行き先がわからなくなること)という dhvāntam 闇が sambhrāntam ひっくり返る,〔tam そのような者に〕

あー,難しい。
sambhrāntadigbhrāntadhvāntaというところが,それ自体上述の bahuvrīhi 複合語になっており,それがまた bahuvrīhi 複合語に入れ子になっているという構造で考えました。
意味としては,腕力で乱世の迷妄の闇を啓く(夜明けをもたらす)という感じかな〜〜,と思うのですが,どうでしょう。

みなさまのアイデア募集中です。

歌詞カード

一応の納得が行く形に仕上げたものです。

  • カタカナは目安であり,そり舌音などは表現していません。
  • 下線が引いてある語は帯気音です。強めの呼気を伴って発音します。
  • 語末の「ム」は「ン」と発音してもよいです。