差別と闘い続けたウイルス研究者:共生ウイルス学の展開 第一回

自叙伝「差別と闘い続けたウイルス研究者―身体障害者に尊厳はあるかー」(注1)の続編(注2)を編集して、第一回と第二回に分けてツイッター/トゥギャッターに投稿します。私は3年間のアメリカ留学を終えて帰国し、1年後に東京大学医科学研究所ウイルス感染研究部の助手に採用され、研究者としての道を歩み始めました。第一回の内田清二郎教授時代では、吉池邦人先生から分子ウイルス学の手法を学び、英語論文の書き方についても多くを教えられました。しかし、研究成果に基づいた新たな研究の展開と言う意味では、大学院時代の恩師、水野傅一先生の教えが役立ちました。渋田博教授時代には、研究部内外の人々との共同研究が教授により妨害されるという悪条件の中、私は東大病院泌尿器科医の北村唯一講師(当時)とのJCウイルスに関する共同研究に活路を見出しました。 続きを読む
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ヨゴウヨシアキ @shingonkichi

1.松本稔教授時代 私はアメリカ留学を1ヶ月延長した後、日本に帰国しました。先ずやることは職探しでした。恩師である東京大学薬学部の水野傅一教授の紹介で、東京大学医科学研究所・ウイルス感染研究部(前者を医科研、後者をウイルス感染と略します)に日本学術振興会奨励研究員として在籍し

2023-03-21 16:29:23
ヨゴウヨシアキ @shingonkichi

② 助手の席が空くのを待つことにしました。ウイルス感染に在籍して分かったのは、この研究部の人間関係は一般の研究部のそれと違うということでした。大学の研究部と言えば、普通、トップに教授が居て、その下に助教授や助手が居て、助教授や助手の下に院生が居ると言うイメージを持ちます。ウイルス

2023-03-21 16:29:23
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③ 感染はこのイメージとは異なりました。ウイルス感染の人間関係は野生の狼の群れに喩えると分かりやすいでしょう。ウイルス感染には渋田助手をボスとするグループ(渋田グループと呼びます)があり、このグループには医学部保健学科の大学院生二人、若い男性の技官一人、横浜市衛生研究所から派遣

2023-03-21 16:29:23
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④ された研究生一人が属しました。その他、ウイルス感染には一匹狼の日野助手と本藤教務職員が在籍しました。部長の松本稔教授は特定のグループや一匹狼と結びついておらず、研究部の管理・運営については渋田助手と相談していました。部長は昼休みとお茶の時間を除いて、一日中教授室に籠り、論文を

2023-03-21 16:29:24
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⑤ 書いたり、下調べをしたりして時を過ごしました。私は渋田グループに加えられましたが、勝手に一匹狼と共同研究を始めるので、渋田助手をハラハラさせました。松本教授が重病を患ったために、渋田助手が助教授に昇進し、私は助手に採用されました。

2023-03-21 16:29:24
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2.内田清二郎教授時代 松本教授が定年退職した後、1977年に国立予防衛生研究所(予研と略す。現国立感染症研究所)の腸内ウイルス部の室長だった内田清二郎先生がウイルス感染の教授に選ばれました。以下述べるように、内田先生等が行った「BKウイルス(BKVと略します)を用いた発癌実験」が評価

2023-03-21 16:29:25
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⑦ されてのことでした。〈BKVによる発癌実験〉先ずBKVはどんなウイルスかを簡単に説明します。BKVは1971年に、尿管狭窄を起こした腎移植患者の尿から初めて分離されました。このウイルスはアカゲザルから分離され、動物実験で発癌性が認められたSV40というウイルスと同じ仲間です。大部分のヒトは幼少

2023-03-21 16:29:25
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⑧ の頃BKVに感染しますが、目立った症状は現れません。内田先生たちはBKVを外国から入手し、生まれたばかりのハムスターに接種することより発癌性を示すかどうか調べました。その結果、BKVはいろいろなタイプの腫瘍を誘発し、BKVのある株は膵臓癌を高率に誘発することを発見しました。この業績により

2023-03-21 16:29:25
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⑨ 医科研の教授会は内田先生をウイルス感染の教授に選出しました。〈内田人事、その一〉内田先生はBKVでハムスターに誘発した腫瘍にBKVゲノム(注:ゲノムとは遺伝情報の総体)が存在するかどうか、存在するならどのような形で存在するのかを調べたいと思っていました。そのためには、それなりの訓練

2023-03-21 16:29:26
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⑩ を受けた専門家(分子生物学者)が彼らのプロジェクトに参加する必要がありました。内田先生は、私がそのような専門家だということを予研腸内ウイルス部の仲間(吉池邦人先生)から聞いて、私に電話をしてきました。「出来るだけ早くあなたに会いたいので、予研の私の部屋に来てくれませんか」と

2023-03-21 16:29:26
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⑪ 言われたので、私は「それでは今日の午後4時にお伺いします」と言って電話を切りました。以下、面談でのやり取りを紹介します。冒頭、内田先生は私に彼らのグループに参加して、BKVによってハムスターに誘発された腫瘍に存在するBKVゲノムの存在状態を解析してもらいたいと熱く訴えました。私は次の

2023-03-21 16:29:27
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⑫ ように答えました。「私は将来、ヒトに感染するDNA型ウイルス(注:ゲノムがデオキシリボ核酸、即ちDNAであるウイルス)を用いる研究を行いたいと思っていました。その理由は、ヒトのゲノムもDNAで出来ていますから、DNA型ウイルスを調べればヒトのことも分かってくると思います。先生のお仕事を

2023-03-21 16:29:27
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⑬ 喜んでお手伝いします」積極的な私の回答を聞いて、内田先生の緊張が一気に緩み、時計を見て、「時間は少し早いが、これから居酒屋へ行き、飲みながら話をしましょう」と仰いました。私は、初対面の内田先生と酒を飲んで、自分をさらけ出すのは控えた方がいいと思いました。私は「ウイルス感染の

2023-03-21 16:29:27
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⑭ 仲間がこの会談の報告を待っているから」と言って、医科研に帰りました(今思えば、内田先生の方で酒を飲まなければ言いにくい相談があったかもしれません)。〈内田人事、その二〉ウイルス感染には二人の一匹狼(医師の日野先生と獣医師の本藤先生)がいました。日野先生は東大医学部卒、本藤先生

2023-03-21 16:29:28
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⑮ は日本獣医生命科学大学卒でした。内田先生は、アメリカ留学の経験があり、レトロウイルスの研究者である日野先生を自身の研究グループに組み入れずに、業者と協力して病原性ウイルスの研究に必要な安全キャビネットの設計に関わってもらいました。一方本藤先生には私が使うBKVで癌化したハムスター

2023-03-21 16:29:28
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⑯ 細胞を培養する仕事を担当させました。その仕事を本藤先生に承諾してもらうために、私と一緒に仕事をすることによって、私から分子ウイルス学について学んで欲しいと付け加えました。本藤先生は私の人となりをよく知っていたので、「喜んで手伝わせてもらいます」と私と共に研究を進めることを承諾

2023-03-21 16:29:28
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⑰ しました。余郷-本藤組の研究は順調に進み、データをまとめて論文を書く仕事も忙しくなって、嬉しい悲鳴を上げる状態でした。それを嫉妬した訳ではないでしょうが、日野先生から内田先生へ以下の申し入れがありました。「安全キャビネットの設計に時間が取られ、ウイルスの研究に遅れが出ています。

2023-03-21 16:29:29
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⑱ そこでお願いですが、本藤先生にレトロウイルスの培養を手伝ってもらえませんか。期間は一か月です」内田先生は直ぐ私に相談に来られ、次のように仰いました。「日野先生の申し入れは受けない訳にはいきません。本藤先生にレトロウイルスを学ぶ良い機会だから、ぜひ引け受けてくださいと言います。

2023-03-21 16:29:29
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⑲ それでいいですね」私は即座に言いました。「今回は良い子ぶらない方がいいと思います」しかし内田先生に私の言葉が通じませんでした。そこで言い換えました。「君のためになるからやれと言うのでなく、教授が頭を下げお願いすることが大事です」その後で内田教授と面談した本藤先生が教授室から

2023-03-21 16:29:29
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⑳ 出てきましたが、顔が上気していました。教授に頭を下げられて、ビックリしたのでしょう。「日野先生の仕事を一か月間手伝うから、承知してくれ」と彼は私に言いました。〈DNA解析の指南役〉私が内田先生と初めて面談したとき、内田先生はDNAの解析法については吉池君に教わってくださいと言われ

2023-03-21 16:29:30
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㉑ ました。アポをとって数日後私は吉池先生にお会いしました。先生は、私がアメリカで行った研究の論文を読んでおられ、ポリオウイルスに関する私の研究をよくご存じでした。面談は終始和やかに進み、彼の下で働いている古野さんも紹介されました(数年後に吉池先生がアメリカに出張した一年間、私は

2023-03-21 16:29:30
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㉒ 彼女と組んで実験を行いました)。吉池先生は、私が行ったRNAの解析と比べれば、「これから行うDNAの解析は遥かに簡単だから、心配は要りません」と強調しました(注:私がアメリカで扱ったポリオウイルスのゲノムはリボ核酸⦅英語名の略記がRNA⦆であり、これから解析するBKVのゲノムはデオキシ

2023-03-21 16:29:31
ヨゴウヨシアキ @shingonkichi

㉓ リボ核酸⦅英語名の略記がDNA⦆です)。私が解析する対象は内田先生らがBKVをハムスターに接種して作成した様々な腫瘍組織です。これらの腫瘍はBKVによって作られたと言う証拠として、BKVゲノムが腫瘍に存在することを証明することが必要であり、特に癌関連のウイルス蛋白(T抗原)が検出されない

2023-03-21 16:29:31
ヨゴウヨシアキ @shingonkichi

㉔ 腫瘍では、BKVゲノムの検出と構造解析が不可欠です。以上が私に課せられたテーマでした(ここで記した研究の具体化は吉池先生が計画しました)。定量的な解析には「DNA・DNA再構成反応の速度論的解析」を用いました。この解析は吉池先生に教えられた文献を頼りに実施することができました。しかし、

2023-03-21 16:29:31
ヨゴウヨシアキ @shingonkichi

㉕ ウイルスゲノムの存在状態の解明や、ウイルスゲノムのどの領域が腫瘍細胞に存在するかと言った高度な解析には、当時の最先端の方法を用いることが必要でした。幸い、吉池先生がアメリカの研究室でこの手法のプロトコール(手順書)を既に入手していました。そのコピーを吉池先生から頂いて何度も

2023-03-21 17:00:44
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