差別と闘い続けたウイルス研究者:共生ウイルス学の展開 第一回

自叙伝「差別と闘い続けたウイルス研究者―身体障害者に尊厳はあるかー」(注1)の続編(注2)を編集して、第一回と第二回に分けてツイッター/トゥギャッターに投稿します。私は3年間のアメリカ留学を終えて帰国し、1年後に東京大学医科学研究所ウイルス感染研究部の助手に採用され、研究者としての道を歩み始めました。第一回の内田清二郎教授時代では、吉池邦人先生から分子ウイルス学の手法を学び、英語論文の書き方についても多くを教えられました。しかし、研究成果に基づいた新たな研究の展開と言う意味では、大学院時代の恩師、水野傅一先生の教えが役立ちました。渋田博教授時代には、研究部内外の人々との共同研究が教授により妨害されるという悪条件の中、私は東大病院泌尿器科医の北村唯一講師(当時)とのJCウイルスに関する共同研究に活路を見出しました。 続きを読む
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ヨゴウヨシアキ @shingonkichi

㉖ 読みましたが、想像力の乏しい私には装置の組み立てのイメージが湧きません。吉池先生は身振り手ぶりで、「アメリカの連中はこんな風にやっていた」と説明をしてくれました。私は業者を呼んで必要な小道具―現像用の大型バット、大小のガラス板、厚手の角形濾紙、良質のチリ紙等―を用意させました。

2023-03-21 17:00:44
ヨゴウヨシアキ @shingonkichi

㉗ この方法は考案者の名前(Southern、発音はサザン)に因んでサザン法と呼ばれていました。原法は毛細管現象を利用したものでしたが、その後は種々の改良法が考案されました。〈論文執筆の達人〉本藤先生と古野さんと言う有能な人たちに援けられて、私は順調にデータを得ることができました。そこで

2023-03-21 17:00:44
ヨゴウヨシアキ @shingonkichi

㉘ 論文投稿を次のようにしました。⑴ 論文1は総論的に内田グループが作出したBKV誘発ハムスター腫瘍に存在するBKVゲノムを「DNA-DNA再構成反応の速度論的解析」により定量した結果を報告する。⑵ 論文2は腫瘍Os-513に存在する遊離BKV DNAの構造をサザン法で解析した結果を報告する。⑶ 癌化に関わる

2023-03-21 17:00:45
ヨゴウヨシアキ @shingonkichi

㉙ ウイルス蛋白(T抗原)が検出されない腫瘍Vn-324にウイルスゲノムが存在することは論文1で確認されたので、論文3ではVn-324におけるT抗原遺伝子の構造をサザン法で詳細に解析した結果を報告する。うかつにも、英語論文の執筆に関しては、吉池先生は日本でトップクラスだということを知らず、私は

2023-03-21 17:00:45
ヨゴウヨシアキ @shingonkichi

㉚ 先ず論文1と2を執筆しました。これらの論文で吉池先生は共著者になっているので、先生に原稿を校閲して頂いたと思いますが、私の記憶ははっきりしません。論文3に記載されたデータは吉池先生がアメリカ出張中に得たもので、吉池先生は同論文に記載された実験には直接は関わっていません。その為

2023-03-21 17:00:45
ヨゴウヨシアキ @shingonkichi

㉛ 吉池先生は論文3の執筆者として名前を連ねていません。吉池先生に「論文3の原稿を見せてください」と言われ、原稿をお渡ししたら、一晩で校閲して頂いたと記憶しています。二人は机を挟んで対面に座り、吉池先生は机の上の原稿を指さしながら、不適切な個所を次々指摘していきました。その都度、

2023-03-21 17:00:46
ヨゴウヨシアキ @shingonkichi

㉜ 何故不適切なのかを説明するので、私が反論する余地はありませんでした。最初の内こそ平静に吉池先生の説明を聞いていましたが、途中から言いようのない、落ち込んだ気持ちになったと思ったら、「いろいろ言ったけど、今まで見させてもらった論文の中で、君の論文が一番良かった」と吉池先生は仰い

2023-03-21 17:00:46
ヨゴウヨシアキ @shingonkichi

㉝ ました。この言葉で私は救われました。今思えば、吉池先生は論文3の共著者から外されてお怒りになっていたのかもしれません。若気の至りと言うことで、お許しください。〈研究交流会〉ウイルス感染の内田グループには、ハムスターを使った発癌の研究に携わっている班と腫瘍組織におけるBKV DNAの

2023-03-21 17:00:47
ヨゴウヨシアキ @shingonkichi

㉞ 存在状態を解明する班がありました。そこで、研究の成果をお互いに紹介する研究交流会を開くことになりました。研究交流会は大成功でしたが、私は「とんでもない」発言をしてしまいました。私は内田先生にこう質問しました。「科研費を申請する時、研究計画のひとつとして『なぜBKVが膵臓癌を多発

2023-03-21 17:00:47
ヨゴウヨシアキ @shingonkichi

㉟ するのかを解明する』とお書きになっていますが、それを解明するには、どういう実験をやればわかりますか」と尋ねました。内田先生は何も言いませんでした。代わりに、交流会に特別参加していた吉池先生が発言しました。「研究は論文単位で考えるべきです。論文を執筆し、投稿し、審査を経て、論文

2023-03-21 17:00:47
ヨゴウヨシアキ @shingonkichi

㊱ が受理されれば、その研究は完結したと言うことです」私は無言のままでしたが、吉池先生には、私の表情は「俺は納得していない」と写ったでしょう。事実、翌日も、麻雀を例にした、吉池先生による「論文完結主義」の説得が続きました。私はこの問題に関連して、「新しい発見をした時は、その発見の

2023-03-21 17:00:48
ヨゴウヨシアキ @shingonkichi

㊲ 意義を徹底的に考えなさい」という恩師、水野傅一先生の教えを思い出していました。吉池先生の研究スタイルは、私の身体に沁みついた恩師の教えに反するように思えました。読者へ。この先、研究のターニングポイントで、私が吉池流のスタイルを採るか、水野流のスタイルを採るかご注目下さい。

2023-03-21 17:00:48
ヨゴウヨシアキ @shingonkichi

3.渋田博教授時代 内田教授が定年退官して間もなく、渋田博助教授が教授に昇格しました。渋田教授は私の将来について、次のように言われました。「君を助教授に推薦するけど、5年間という条件つきだ」。しかし渋田教授は数日後に「トランスジェニック・マウスの実験ができる人を外部から呼ぶ

2023-03-21 21:40:11
ヨゴウヨシアキ @shingonkichi

㊴ ことになった」と私に言いました。私を5年間だけウイルス感染の助教授にすると言う案は「助教授選考委員会で認められなかった」とのことでした。渋田教授はこの頃から私に露骨な嫌がらせを仕掛けてくるようになりました。「渋田教授が私にどんなにパワハラ紛いの嫌がらせを仕掛けても、私が研究

2023-03-21 21:40:12
ヨゴウヨシアキ @shingonkichi

㊵ 成果を挙げ続ければ、私をウイルス感染から追放することはできないだろう。そのためには、私に共同研究を求めてきた人がいれば、積極的に応じよう」と私は覚悟を決めました。こうして新たに生まれた共同研究のいくつかを紹介します。〈北里大・田口文章教授との共同〉1980年代の初め、私は北里大学

2023-03-21 21:40:12
ヨゴウヨシアキ @shingonkichi

㊶ 衛生学部の田口文章教授が派遣した原和矢先生(通称、原さん)という助手の先生と共にBKVの研究を行いました。原さんとの付き合いは内田教授時代から続くものでした。ある時、原さんが私にある重要なことを言いました。「田口先生が以前、全身性エリテマトーデス(SLEと略す)患者の尿からBKVを検出

2023-03-21 21:40:12
ヨゴウヨシアキ @shingonkichi

㊷ しました。その検体の残りは冷凍庫に眠っています。これって使い物になりませんか」(注:SLEは自己免疫疾患であり、治療のため免疫抑制剤が投与されるため、患者に潜伏していたウイルスが活性化されることがある)私は即座に答えました。「それは貴重な材料だ。検体から全長BKV DNAをクローニング

2023-03-21 21:40:13
ヨゴウヨシアキ @shingonkichi

㊸ しよう」(注:分子クローニングまたはクローニングとはウイルス DNAを複製可能なプラスミドに組み込み、得られた組み換えプラスミドを大腸菌の中で複製させて、ウイルスDNAを分離する手法。クローニングの結果得られた組み換えプラスミドをクローンと呼びます。当時、クローニングはウイルスゲノム

2023-03-21 21:40:14
ヨゴウヨシアキ @shingonkichi

㊹ の解析には必須な技術でした)北里大衛生学部の田口研究室で、原さんはSLE患者由来の粗ウイルス液からDNAを抽出。これを材料としてBKV DNAの分子クローニングに実施し、多くのクローンを得ました。最初の頃は専ら原さんが実験を行い、卒業実習中の学部4年生は実験をやらせてもらえませんでした。

2023-03-21 21:40:14
ヨゴウヨシアキ @shingonkichi

㊺ 実習生たちは「私たちにも実験をやらせてください」と原さんに申し入れました。彼らの申し入れは受け入れられて、マンパワーが増強された結果、合計184個も全長クローンが得られました。これらのクローンの解析結果はBKVに関する原型仮説を支持するものでした(原型仮説については下記を参照)。

2023-03-21 21:40:15
ヨゴウヨシアキ @shingonkichi

㊻ この時率先して実験に参加した杉本智恵(敬称略)はその後北里大の修士課程あるいは東大の博士課程の大学院生としてJCウイルス(JCVと略します)の研究に携わりました。〈BKVに関する原型仮説〉1980年代にBKVに関する「原型仮説」と呼ばれる仮説が提唱されました。この説の概略は以下の通りです。

2023-03-21 21:40:15
ヨゴウヨシアキ @shingonkichi

㊼「天然のBKVのゲノムは原型調節領域と呼ばれる、基本構造が同じ調節領域を有する。このBKVを培養細胞で増殖させると、調節領域で塩基配列の再編成が起き、培養細胞で良く増えるBKVが出現する」この説を提唱したのが私の元師匠の吉池先生です。この説を裏付けるデータをオランダと南アフリカ、そして

2023-03-21 21:40:15
ヨゴウヨシアキ @shingonkichi

㊽ 田口先生のグループが報告しました。〈膀胱癌からのHPVの検出〉1980年代中頃、私は渋田教授から「東大分院の北村君が膀胱癌からヒトパピローマウイルス(HPVと略す)を検出したいと言っている。面倒をみてやってくれないか。君が断ればウイルス研究部の人に頼むしかない」と高飛車に頼まれました。

2023-03-21 22:15:34
ヨゴウヨシアキ @shingonkichi

㊾ 私は喜んで引き受けました。こうして、外陰部のボーエン病の罹患歴のある患者の膀胱癌からHPV16型が検出されました。世界で初めての本症例は1988年にCancer Research誌に発表されました。ところで、ウイルス感染から私を放出するために渋田教授が心がけていたことは、私が外部の人との協力を得て

2023-03-21 22:15:34
ヨゴウヨシアキ @shingonkichi

㊿ 活発に研究を行うことを妨害することでした。それなのに何故、この話が私に回ってきたのでしょうか?その訳は、それを仕組んだ人がいたからです。当時、東大病院分院の講師だった北村先生は以前フリークオーターで世話になったウイルス感染の渋田教授に電話して、患者組織からHPVの検出を指導して

2023-03-21 22:15:34