選択公理を仮定しない状況での強制法の理論と強制法絶対性について
- DaiskeIkegami
- 2154
- 8
- 0
- 0
論文を書きました。興味のある方、ぜひご覧ください。以下、概要をツイート。 twitter.com/mathLOb/status…
2023-01-02 14:25:59Daisuke Ikegami, Philipp Schlicht: Forcing over choiceless models and generic absoluteness arxiv.org/abs/2212.14240 arxiv.org/pdf/2212.14240
2023-01-02 11:15:12選択公理を仮定した ZFC の下では、連続体仮説など、強制法を用いてその真偽を変えることのできる命題がたくさんあります。では、選択公理を仮定しない ZF の下では、強制法によって必ず(つまり、provable に)真偽を変えることのできる命題はあるだろうか、というのが研究のきっかけでした。
2023-01-02 14:28:43まず、実験として、そのような命題が存在しない、という言明を ZF に追加したらどのような帰結が出てくるだろうか、ということを考えました。すると、可算でない基数はすべて特異基数になる、という現象が観測され、この言明が ZF と無矛盾だったらかなり面白いな、と思っていました。
2023-01-02 14:32:16その後、いろんな集合論の同僚とこのネタについて議論していくうちに、Woodin が、ZF の下でこの言明の否定が出ることを示しました。つまり、ある命題で、その真偽を強制法で常に(ZF の下で provable に)変えることのできるものが見つかりました。
2023-01-02 14:35:09ここでの命題とは、「どんなω_1の部分集合Aに対しても、L[A]上のランダム実数がある」というもので、Woodinは、ランダム実数をω_2個くっつけるとこの命題を真に、コーエン実数をω_1個くっつけるとこの命題を偽にできることをZFの下で証明しました。
2023-01-02 14:37:45上記の命題の真偽を、強制法を用いてZFCの下で変えるのはそれほど難しくありません。しかし、通常の議論を選択公理に大きくしており、特に、ランダム実数をω_2個くっつける強制法が基数を保つかどうか、というのは、ZFの下では非自明になります。
2023-01-02 14:40:26例えば、選択公理を仮定しないと、「実数全体が可算集合の可算和になる」状況もあり得るので、その場合、ランダム強制の基礎理論を展開するためのボレル集合上の測度論が破綻してしまいます。
2023-01-02 14:43:00そこで、ZF の下では、ランダム強制を、「測度が正であるボレル集合のあつまり」ではなく「測度が正であるボレル集合をコードするボレルコード全体」と捉えなおすことで、より精密な議論を展開する必要があります。
2023-01-02 14:46:37この論文では、ランダム実数を任意個くっつける強制法の基礎理論をZFの下で展開し、そのような強制法(この場合ブール代数)が完備であり、基数を保つこと(Theorem 3.21)を示し、上記の Woodin の結果(Theorem 4.5)の証明を与えています。
2023-01-02 14:51:02この話を契機に、選択公理を仮定しない ZF の下で、どのような強制法や反復強制法で基数が保たれるのか、という方向へ話は進んでいきます。
2023-01-02 14:52:38選択公理を仮定した ZFC の下では、どんな ccc(可算鎖条件)を満たす強制法も基数を保ちます。このことを用いて、コーエンは、コーエン実数をω_2個くっつけると連続体仮説の否定が成り立つことを示しました。
2023-01-02 14:55:29一方で、選択公理を仮定しない ZF の下では、ccc を満たす強制法が基数を保つとは限りません。最近の Karagila と Schweber の論文では、ZF のモデルで「ccc を満たす強制法でω_1を壊すものが存在する」という言明を満たすものが構成されています。
2023-01-02 14:57:52それでは、ccc の代わりに、どのような性質を満たす強制法が ZF の下でも常に(provable に)基数を保存するのでしょうか?
2023-01-02 14:59:27この論文では、narrowという概念を導入しました。強制法がnarrowならばcccで、選択公理を用いるとその逆も言えます。コーエン強制、ランダム強制、ヘックラー強制などの多くの強制法は、ZFの下でnarrowになります。
2023-01-02 15:06:15そして、ZFの下で、強制法がnarrowならばどんな基数も保存することを示しました(Lemma 3.2 のΘ=ωの場合)。
2023-01-02 15:06:28さらに、narrowであることのwitnessが一様に与えられる性質を「uniformly narrow」と呼び、uniformly narrow な強制法の finite support iteration が再び uniformly narrow になることを ZF の下で示しました(Theorem 3.4 のΘ=ωの場合)。
2023-01-02 15:08:46コーエン強制、ランダム強制、ヘックラー強制などの多くの強制法が uniformly narrow になるので、上記の結果により、これらの強制法の finite support iteration は ZF の下で常に基数を保存することがわかります。
2023-01-02 15:10:09論文の後半では、上記の基数保存性の成果の応用として、ZF の下での強制法絶対性について調べています。
2023-01-02 15:12:14上記の Woodin の結果では、コーエン実数をω_1個くっつける強制法とランダム実数をω_2個くっつける強制法では、真偽の異なる方へ強制できる命題が登場しました。
2023-01-02 15:14:55それでは、コーエン実数を任意個くっつける強制法たちに限定すると、そのような命題は存在するでしょうか?つまり、命題φと順序数κ, λで、コーエン実数をκ個くっつける強制法ではφを強制し、コーエン実数をλ個くっつける強制法ではφの否定を強制する、というものが、ZF の下で必ず見つかるでしょうか?
2023-01-02 15:17:50Woodin は、そのような命題が存在しない、という言明を仮定すると、ZF の下で、可算でない基数はすべて特異基数になることを証明しました。ただ、この言明が ZF と無矛盾になりうるかどうかはわかっていません。
2023-01-02 15:19:22この論文では、前述の基数保存性の成果を用いて、上記の言明内の「コーエン実数」を「ランダム実数」や「ヘックラー実数」に置き換えても、対応する言明を仮定すると、ZF の下で、可算でない基数はすべて特異基数になることを証明しています(Theorem 4.14 の (2)と Corollary 4.20)。
2023-01-02 15:22:11さらに、可算でない基数はすべて特異基数になる ZF のモデルとして有名な、いわゆる「Gitik のモデル」において、上記の3つの言明がどれも成り立たないことを証明しています(Theorem 4.32)。
2023-01-02 15:23:58論文の概要は以上です。これを機に、選択公理を仮定しない ZF の下での反復強制法の理論が発展すると良いな、と思っています。
2023-01-02 15:24:57