Lebesgue可測な集合の階層を巡る探求

Lebesgue 可測性を巡って展開されたロジック談義のバトンリレーの記録です。誰でも編集可なので抜けや更なる走者の追加は大歓迎です!
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発端

スマートコン @mr_konn

たとえば測度論まわりなんかはあっという間に集合論の話になる。「任意の実数の集合が可測になるには?」という問題を巡って本当に色々な方向に話広げられるし

2015-04-03 23:50:36

測度論と巨大可算順序数(tri_iro さん)

Takayuki Kihara @tri_iro

空港で飛行機を待ってる時間が暇なので、測度論と巨大可算順序数の話でもする #唐突

2015-04-04 20:46:46
Takayuki Kihara @tri_iro

実数のボレル集合はルベーグ可測というのは当然ですが、黎明期の測度論では、ボレルより広い可測なクラスを探るのが主要な問題だったと思われます。たとえば、1920年代にニコディムがススリンのA-演算で閉じたσ-加法族に属する集合(C-集合)がルベーグ可測であることを証明している

2015-04-04 20:50:00
Takayuki Kihara @tri_iro

1920年代末になると、コルモゴロフが可測性を保つR-変換という操作を考案したのですが、これは与えられた集合演算から新たな集合演算を作り出す操作で、たとえば可算和演算をR-変換すると、ススリンのA-演算になる。R-変換が可測性を保つという性質から、さっきのニコディムの定理は従う。

2015-04-04 20:53:13
Takayuki Kihara @tri_iro

論理学的には、コルモゴロフのR-変換とは、自然数上の量化記号から新たな量化記号を作る演算。たとえば、存在記号をR-変換した量化子は、∃とその双対∀の入れ子∃∀∃∀……を無限に続ける量化子であり、その真偽はゲーム理論的に言えば、∃-プレイヤーが必勝戦略を持つかどうかで与えられる

2015-04-04 21:01:34
Takayuki Kihara @tri_iro

ちょっと訂正。自然数上の量化記号Qが与えられたら、QのR-変換とは、一般にQとその双対Q'の無限入れ子の開ゲームです。このようにR-変換を繰り返して次々に量化記号を作れますが、実数の部分集合で、これらの量化記号を使って定義可能であるようなやつは、絶対可測になります。

2015-04-04 21:08:14
Takayuki Kihara @tri_iro

開集合を起点とすると、ボレル集合は「論理記号¬と∃の累積」で定義されるもので、これはR-変換の階層の1段目、C-集合は「¬と∃と、∃をR-変換して得られた量化子」の累積で定義されるもので、これはR-変換の階層の2段目。第3階層は「¬と∃と、∃のR-変換と、∃のR-変換のR-変換」

2015-04-04 21:14:07
Takayuki Kihara @tri_iro

このようにして、実数の部分集合の階層が作られるけど、R-階層のどこかで作れるようなやつは全部ルベーグ可測。さて、では、これと巨大可算順序数が何の関係があるのかという話です。

2015-04-04 21:25:14
Takayuki Kihara @tri_iro

んで、ある集合が、ボレル集合にススリンのA-演算を1回適用して作れることと、それがゲーデルの構成可能宇宙のω_1^CKランク(最小の許容順序数ランク)でΠ_1-定義可能であることが同値でして、一般に、A-演算の入れ子の回数と、構成可能階層の何個目の認容順序数ランクかが対応します

2015-04-04 21:27:46
Takayuki Kihara @tri_iro

ところで、チューリングの弟子のGandyが1950年代にクリーネの型2計算理論におけるプログラムの停止問題を表すスーパージャンプという操作を考案するのですが、1970年代頃になって、これ実はコルモゴロフのR-変換と同質なものなんじゃね?と指摘されることとなります

2015-04-04 21:31:51
Takayuki Kihara @tri_iro

一方で、Gandyのスーパージャンプは、一回適用するごとに次のレベルの再帰的到達不可能順序数を生み出すやばい操作であることが知られていました。

2015-04-04 21:38:29
Takayuki Kihara @tri_iro

で、色々あって、実はススリンのA-演算をR-変換した次の演算というR-階層の第3レベルですら、再帰的到達不可能順序数や、再帰的超超超...超到達不可能順序数、再帰的マーロ順序数を越えた、再帰的Π^1_1-反映順序数ランクまでゲーデルの構成可能宇宙を駆け上がることが分かったのでした

2015-04-04 21:44:21
Takayuki Kihara @tri_iro

まあこんなやばそうなR-階層ですが、この程度は余裕でZFでルベーグ可測性を示せる簡単な集合の話です。70年代頃にR-階層やそれを越える具体的な可測集合の構成法の研究が測度論でなく計算論側からも行われていたのですが、既にこの手の研究は現状死滅し、今やほぼ完全に忘れ去られているという

2015-04-04 21:54:04
Takayuki Kihara @tri_iro

その一方で、1970年にソロべえが任意の実数の部分集合がルベーグ可測であるようなZFのモデルを構成したことにより、射影集合の可測性(一般に、強制法正則性)の研究はその後、集合論において加速的に発展するわけですが、この先の話は別の方がしてくれそうなので、次の方どうぞ。 #丸投げ

2015-04-04 22:00:53

Absolutely Delta^1_2 集合の出現(殿下)

ゼルプスト殿下 @tenapyon

トリイロ @tri_iro が昨晩してた話は、今は亡き我が恩師、篠田寿一先生の学位論文のテーマでもあった。それはまた、そのまた恩師であり俺の修士課程の指導教官であった故・柘植敏之先生から引き継いだテーマであり、日本における研究は近藤基吉にまで遡る。

2015-04-05 07:16:20
ゼルプスト殿下 @tenapyon

続き)篠田の論文ではスーパージャンプの繰り返しで得られる途中の量化 J^S_a に相対的に再帰的な集合を考える。その最初の段階 J^S_1 は∃ であり、次の段階 J^S_2 は再帰理論で「柘植のオブジェクト」と呼ばれたもの。記述集合論的にはA-演算だ。

2015-04-05 07:22:03
ゼルプスト殿下 @tenapyon

@tenapyon このようにして得られる実数の集合はすべてルベーグ可測。その証明を古典論的に与えるのは骨が折れる(というよりそもそもスーパージャンプを古典論的に書けないだろ)が、ソロヴェイの論文の方法を使えば見通しよくできる。

2015-04-05 07:32:05
ゼルプスト殿下 @tenapyon

@tenapyon さらにそのキモを問えば、射影階層の Delta^1_2 というレベルが、下からみる限りもうとんでもなく広く見える、ということがある。本物の Delta^1_2 は連続体のグローバルな実情を参照して初めて定まり、かつ「全世界」を模倣するに十分なほど広い。

2015-04-05 07:38:04
ゼルプスト殿下 @tenapyon

@tenapyon いっぽう、スーパージャンプ階層といえども、下から積み上げて飽和したら対角線をとってジャンプ、という構成的な階層だ。そんなものと Delta^1_2 では、まさに孫悟空とお釈迦さま。

2015-04-05 07:40:54
ゼルプスト殿下 @tenapyon

@tenapyon それで、孫悟空が必死でジャンプして作った実数の集合の「来歴」をそっくりそのまま反映する可算モデルを、お釈迦さまは作れる。その可算モデルにソロヴェイの方法を適用することで、ルベーグ可測性が保証される。そういうアイデア。

2015-04-05 07:44:25
ゼルプスト殿下 @tenapyon

@tenapyon この論法から抽出されるのが「Provably Delta^1_2」である実数の集合はルベーグ可測である、という結果。

2015-04-05 07:50:19
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