映画よもやまばなし　４回目　21世紀初頭のイーストウッドの荒みについて　＜前編＞

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25.彼の引退後は、その下にいたジャック・Ｎ・グリーン、トム・スターンと引き継いでいくが、その暗さの表現は一貫している。この鉄壁の家族的チームワークもイーストウッドを語るときによく指摘されるね。

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26.で、この家族のような撮影チームを、イーストウッドの映画の主題の一つ「よせ集め家族の家長」（『ブロンコ・ビリー』等）と照らし合わせたりすることも可能だ。

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27.と同時に、イーストウッド組の技術と美学の師匠から弟子への伝承を「ベテランが若手を鍛える」「次世代の為にベテランが頑張る」という主題（『センチメンタル・アドベンチャー』『サンダーボルト』『スペースカウボーイ』『ハートブレイク・リッジ』）に照らし合わせても面白い。

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28.ハリウッド黄金期の残照を浴び、ハリウッドからの離脱と回帰、ジャンル映画への固執、ＣＧじゃなくて肉体への執着、安定した撮影チーム、ドン・シーゲルを経てウォルター・ウェンジャーというハリウッドの伝統に連なることなどから、中条省平は『アメリカ映画史を再生する男』と呼ぶ。

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29.これは非常にまともな見方だと思う。ついでにいうと、関連書籍ではこの『アメリカ映画史を再生する男』と『 孤高の騎士クリント・イーストウッド』（マイケル・ヘンリー・ウィルソン）が定番だ。特に前者は文庫で買えるので若い人は是非読んで欲しい。

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30.余談だけど、逆に僕の周辺で評判が悪いのは『 クリント・イーストウッド―ハリウッド最後の伝説』だ。ソンドラ・ロックとの泥沼裁判の様子が克明に描かれているらしく「読むんじゃなかった！　こんなこと知りたくねーよ」とみんな叫んでいる。よって僕は近づかないことにする。

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31.ともあれ「アメリカ映画の二十世紀を締め括った男」と中条省平はイーストウッドを呼ぶのであるが、実は僕が考えているのはその先だ。21世紀に入ってから『グランドリノ』の直前までのイーストウッド映画の荒みについてだ。

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32.特に『ミスティック・リバー』以降の映画全体を支配する暗く沈殿したトーンは、イーストウッド作品を単純なジャンル映画から逸脱させ、ある種の風格を与えて、作品評価をどんどん押し上げた。

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33.しかし、イーストウッドを真っ先に絶賛した映画評論家の中には、このような荒みに関してむっつり黙り込んでしまう人が出てきた。「発見」者の一人・山田宏一もその一人だ。一言で言えば、「ああイーストウッドは変わってしまった」という嘆きである。

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34.『ミスティック・リバー』や『ミリオンダラー・ベイビー』の沈鬱な結末を、『ダーティ・ハリー』のキャラハン刑事＝死の天使（町山智浩）とする解釈と結びつけて“善悪の彼岸”という言葉で括り、イーストウッドは一貫しているとする人もあるが、これはちと無理がある。

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35.ジャンル映画に大切なものは、結末がどうあれ、ある種の爽快感があることが必要だが、21世紀イーストウッドにはそれがどうにもこうにも欠落しているのである。どこか荒んでいるのだ。

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36.21世紀に漂うイーストウッドの荒みに対して落胆する先輩諸氏の気持ちは、アーカイブでイーストウッド映画を観てる僕以降の世代には、実感としてはわかりにくい。

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37.なぜなら、21世紀に入ってイーストウッドは確かに荒みを帯びて変わった。しかし、と同時にある種の奥行きと風格も獲得した。映画としては紛れもなく一級品である。普通なら文句のつけようがないのである。

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38.けれど先輩たちの嘆きの理由も想像はできる。すっごく簡単に言っちゃえば「クリントよ、そんな鬱陶しい映画撮っていい気になるんじゃない。ドン・シーゲルが草葉の陰で泣いてるぜ」というものだ。

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39.この声が聞こえたのかどうかは知らないが、イーストウッドは『グラントリノ』で突如原点回帰し、これはもう全員が手放しで絶賛する傑作となる。山田宏一も（さっき挙げた『ハリウッド最後の伝説』を読むまでは）大喝采を送っていました。

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40.なぜイーストウッドは21世紀の幕開けにおいて娯楽映画の爽快さを欠いたのか、そして『グラントリノ』でなぜジャンル映画の型を再びしっかり踏襲することを選んだのか、ここがすごく気になっていて、つらつらと考えていたが、なんとなく考えがまとまりつつある。

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41.中条省平は映画史の文脈でイーストウッドを捉えたが、そのフレームを一度外して、世紀末から今世紀初頭にかけてのアメリカそのものの変貌とイーストウッド映画を照らし合わせる必要があるのではないかと思い始めている。

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42.イーストウッドが変わりたくて変わったのではない、アメリカの変質がイーストウッドに変化を強いたのだ、そして今イーストウッドはもういちど戻ろうとしているのではないか。どこに？　帰る場所はあるのかなあ。

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43.というようなことに、おもい廻らせつつ、考えをまとめるつもりであります。

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44.はーい、ここまでだよー。タイムライン汚してごめんねー。