【原神】竹林月夜より【講談完結】

こちらは茶博士劉蘇の贋作による続きが聴ける講談です。
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次回お楽しみに @cha_boshi

少年は一人山道を急いでいた。 ザアザアと降っていた雨が止んで、竹の葉から落ちる雫がパタパタと音を奏でる。少年は濡れた岩を越えて、藪を越えて進んでいたが、草負けして肌が切れてしまいようやく休憩をとることにしたのだ。 pic.twitter.com/p7UJ5dvR6a

2023-06-11 22:34:37
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軽策山の山岩が割れた所で座っている時に少年は、ふと村のじいさま達の話を思い出した。 お天気雨の日は狐の嫁入り行列じゃ 森の中で鼓を鳴らしてやれ騒ぐ 行列はわらしっこにしか見えねども 絶対に行ってはなんねぇぞ 「近づけば狐にたましいを奪われちまうぞ!」話はいつもそう締めくくられた。

2023-06-11 22:35:47
次回お楽しみに @cha_boshi

「たましいを取られちゃうとどうなるの?」そう子供が聞けば、 「狐にたましいを奪われたら、二度と人間の世界には帰って来れなくなるんじゃ。……狐の太鼓にされて一生殴られて、打たれ続けるぞ!」 そう言ってじいさま連中は太鼓を叩く真似をして子供達を脅かしつけていた。

2023-06-11 22:37:03
次回お楽しみに @cha_boshi

さらさらと竹の葉が鳴り、蛙と蝉の音が混ざり合うこの場所でどうして急にそんな事を思い出したのだろうか。 大きくなった少年はそんな子供騙しの化け物語に騙されたりなんかしない。少年が仙霊に導かれて緑の迷宮を彷徨う時に耳できたのは僅かな狐の鳴き声だけであった。

2023-06-11 22:37:23
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ずる賢い生き物が簡単に人間の前に姿を現す事なんて滅多にないことなのだ。 竹林を進む少年はこの先でどの様な物語と出逢うのか。このお話は次回のお楽しみに。

2023-06-11 22:38:07
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今夜も続きをお話しよう。 少年の期待に反して狐は滅多に人に姿を見せたりしない。その事実に気が付いた時、がっかりして少年は足元の小石を蹴飛ばした。それから休憩を切り上げて、道に沿って竹林深くへ歩みを進めた。

2023-06-12 22:39:28
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黙々と歩みを進める時にこそ、様々な思い出が頭の中を巡るものである。 あの頃じいさまたちは、ああも言っていた。この竹林はかつては岩神の統べる国土だったのじゃ、と。 岩神はどんな姿をしてるのかな? 人と同じで手足があって、顔があるの? それとも川辺にある石獣みたいなのかな?

2023-06-12 22:40:31
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村の子供達は好奇心でいっぱいだった。 定期的に街へ薬を売りに行く薬草取りが村人に迎仙儀式の事を毎度伝えてくれたが、子供達は皆、自分の目で岩神の姿を仰ぎ見ることを願っていた。 何せ村にはなんの変化も無かったから。 軽策の不変も神の恩恵なのか? 何代にも渡り平穏に老いゆくのも神の先見か?

2023-06-12 22:41:02
次回お楽しみに @cha_boshi

少年の探す答えは、山奥で朽ちゆく村の外にしか有り得なかった。 悶々とした思いと少しの期待を抱えて竹林を往く。そして、少年は気がついた時には道に迷っていた。 竹林を彷徨う少年の前に現れたのは…… それはそれはまた次回のお楽しみに。

2023-06-12 22:41:36
次回お楽しみに @cha_boshi

「どうした、道に迷ったのか?」 突然後ろから声が掛かり飛び上がる少年の背に小馬鹿にした様なころころとした笑い声が聞こえた。 振り向いた少年が目にしたのは、泉に立つ白い衣を纏った女。泉の水面のきらきらした輝きは女の蓑に光を映し、夕日と混ざった金色の目が煌めいていた。

2023-06-13 21:21:20
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泉から現れた白馬が仙人になって岩神を助けたんじゃ、少年の頭の中でまた、村のじいさま達の声がする。 けれども、どこの泉で何と名乗る仙獣なのかを教えてくれた事なんて無かったから少年は信じていなかった。 目の前の女もあの見たこともない金眼以外には仙人っぽく見える所がない。

2023-06-13 21:21:41
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仙人は雨の日にあんなもっさりした蓑を着るのか?考える程に怪しい。 女を前にして少年は思考の海に呑み込まれて、返事を返すのを忘れていた。 女は、少年の様子を見て金眼を細めて意地悪そうな笑みを浮かべた。 「うつけであったか。」 正に得心がいったと言わんばかりに頷いてみせる。

2023-06-13 21:22:09
次回お楽しみに @cha_boshi

どんな時でも悪口と言うのはよく聞こえるものである。我に返った少年は失礼千万とばかりに怒鳴って返した。 「だれがうつけだ!」 コイツはやっぱり仙人じゃない! 口が悪すぎる! 少年は憤懣やるかたない。

2023-06-13 21:22:43
次回お楽しみに @cha_boshi

そうだ、村を出るんだ! 少年は憤然と言い連ねた。 「僕は外へ冒険に出るんだ!船乗りになってこの目で帝君の巨岩槍を見るんだよ!」 「……で家出したばかりで迷子なったな。」そう女が少年の言葉を継いだ。 この出会いは少年の吉と出るか。このお話の続きは次回をお楽しみに。

2023-06-13 21:23:42
次回お楽しみに @cha_boshi

今日も続きをお話しよう。迷子になったと女は落ち着いた口振りで少年の言葉を継いだ。しかし、女の三日月の様になった目元が少年の自尊心を刺激した。だから苦し紛れに俯いてぽつりと言う。 「違うよ…」 「違わぬよ。強がりを申すな。ほれ、案内をしてやろう。」女はそう言って少年の手を握った。

2023-06-14 21:27:37
次回お楽しみに @cha_boshi

ちょっと強引に手を繋いできた女の手は、夕日の余光を纏い白く珠の様で、筍に落ちる細雨の様に冷たくしっとりとしていた。 でも少年は強引に連れて行ってくれて助かったのだ。だって自分の誤ちとピンチを認めて言葉にするのは勇気が必要だったから。 「……どうも。」

2023-06-14 21:28:32
次回お楽しみに @cha_boshi

夕陽がだんだん沈んで空に夜が混ざり始める頃、またまた頭の中でじいさま達は少年に忠告をする。 日が暮れると山奥に陰気が集まりお化けが出るんじゃ。それは亡者の怨念で、絡め取られた者は呪われ取り憑かれてしまう。

2023-06-14 21:29:34
次回お楽しみに @cha_boshi

通りがかりの者に無理な願い事をして危険に導いたり…… 通りがかりの者に道案内をして妖魔の巣へ連れて行ったり…… 坊主、山へ入る時は決して気を抜いたらいけないんじゃ。 ならば、この女はお化けなのか? 不安は少年の歩みを遅くした。

2023-06-14 21:30:00
次回お楽しみに @cha_boshi

「どうした?」 歩みの遅れた少年に、女は振り返って問いかけた。月光を背負った女は金眼だけがまるで狐火が燃えているようだった。 軽策の夜は他所よりも早くやって来る。少年は夜を越せるのか。このお話の続きは次回をお楽しみに。

2023-06-14 21:30:31
次回お楽しみに @cha_boshi

さて、お話を続けよう。 銀色の月が竹の葉の間から見えている。日が暮れて、竹林の中で一晩過ごす事になってしまったのだが、この野営中に女は物語をしてくれた。それはとても古いお話の様で村のじいさま達がするお話よりも古そうだった。少年は聞いた事も無い物語にすっかりと聞き入ってしまった。

2023-06-15 21:35:16
次回お楽しみに @cha_boshi

むかしむかし、夜空には三つの明るい月が天高くかかっていた。月の三姉妹は岩神よりも長命で、璃月港ができるよりずっと前に誕生した。 月の三姉妹は詩と歌の乙女。 月の三姉妹は月夜の君主。

2023-06-15 21:35:43
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月の三姉妹は銀色の輿車に順番に乗って夜空を巡る。ひと月に三度、交代する毎に次の姉妹へ王位を引き継いだ。 月の三姉妹には恋人がいた。三姉妹はお互いを愛するのと同じ位、夜明けを告げる司晨の星ただ一人を愛した。

2023-06-15 21:40:09
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月の三姉妹は一人ずつ恋人に会いに行っていた。朝と夜が交わるほんの一瞬、夜明けの光と共に司晨の星の宮殿へ降り立ち、朝日が昇ると共にそうそうに輿車に乗って帰った。 これは大災禍の前の事だ。

2023-06-15 21:40:32
次回お楽しみに @cha_boshi

大災禍は銀色の輿車も恋人の宮殿も全てを破壊し、全てが変わった。 月の三姉妹はお互いを憎み反目し合った。 月の三姉妹は死をもって分かたれた。 夜空には青白い亡骸がひとつだけ残り、冷たい光を放っている。

2023-06-15 21:41:02
次回お楽しみに @cha_boshi

話を途中で切り、女は面をあげて竹の葉の間から月を垣間見た。白く細い首が銀色に染め上げられ、金眼がきらきらして見える。 少年は聞いた事もない壮大な物語に魅入られて、女が続きを話すのを今か今かと待っていた。このお話の続きは次回のお楽しみに!

2023-06-15 21:42:13