フィジシャン、ヒール・ユアセルフ #5
『……トドメだ、トドメを刺せフジキド』イクサが終わり瞳から炎が失せると、微かなナラクの声が再び戻ってきた。だがその声は先程よりもずっと遠く、ノイズ混じりである。共鳴は長時間維持できるものではなく、ひとたび接続を切れば、その後の結びつきは相当に弱まるのだ。「トドメだと?」 25
2011-11-21 14:44:46フジキドは遠くのブルーブラッドを見た。脳天がスリケンでショットガン被害者めいて砕かれ、ぴくりとも動かぬ。(トドメは刺した)『バカめが……フジミ・ニンジャはなぜ磔で杭まで打たれたか……わからいでか……トドメを刺せ……白木の杭を……』(そんな物がこのスクラップ場にあるとでも?) 26
2011-11-21 14:47:51『なんたる事!フジキド!何でもいいからとにかくどうにかせよ!白木の杭だ……』(そんなものはここには!)ニンジャスレイヤーがナラクを諌めようとしたその時。彼のニンジャ聴力は遠方に悲鳴と戦闘音を捉えた。川の方角!彼はブルーブラッドの死体を再度見やり、逡巡した。「……ダメだ」 27
2011-11-21 14:55:00ナムサン!ナラクは戯れてはいない。恐らくブルーブラッドは滅びていない。だが、どうやら何かが起きている。この汚染にまつわる何らかの動きが。ここで時間を費やすわけにはいかない……「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは気休めとばかりブルーブラッドの胴体にスリケンを投げつけ、走り出す! 28
2011-11-21 14:59:06「さあて、どうなっちまったのかな、あの子はよ」メタルベインは言った。「生きてるといいよな?まだ若い」だがネザークイーンはほとんどうわの空だった。彼の背後に現れたのは、ヤモトではなく……ナムアミダブツ!悪夢から這い出たような地獄存在!「ドーモ……ナックラヴィー、デス……」 30
2011-11-21 15:55:07皮膚の無い、筋繊維剥き出しの肉体。ギリシアめいてはだけた長衣は水浸しだ。「SYHHH……」濁った視線が、衝撃に凍りついたネザークイーンを射抜く!前後に敵!「形勢逆転だ。それからよォ」メタルベインは頭上に浮かべた廃バスを見上げた。「そろそろキツいんだが、落としていいよな」 31
2011-11-21 15:55:18「ヌゥーッ!」ネザークイーンは両腕をクロスして衝突に備える!ナムアミダブツ!落下する巨大車輌!ズグラーク!「グワーッ!」「次いくぜェー!」メタルベインが叫ぶ。ナムアミダブツ!既に空中には逆さまになったスポーツカーの廃車が浮かんでいる!「イヤーッ!」ズグラーク! 32
2011-11-21 16:02:54「もう一発」メタルベインは手近のケバブ屋台トラックに手をかざしかける。だが手首のサイバネ液晶パネルの表示を見、オーバーキルめいた追撃を中止した。パネルは「磁」の漢字が三つ並んでおり、二つは消灯し、一つは点滅している。「……」折り重なった車輌の下、ネザークイーンの声は無い。 33
2011-11-21 16:21:04「コレデ死ンダカ……?」ナックラヴィーが腕組みして言った。「まあ死んでなくてもよ、出てきたらカイシャクしてやりゃいいよ」メタルベインはボキボキと指を鳴らした。「電力回復のインターバルも欲しいしな。お前も働きゃいいんだ」二者はまるで平然と、スクラップを挟んで会話する。 34
2011-11-21 16:29:47「そう言うお前はどうなんだ。ガキは殺ったか」「否……」ナックラヴィーは無感情に答えた。「ココヘノ加勢ヲ優先シタ。ダガ既ニ戦闘ハデキマイ……放置シテモ数時間デ死ヌ……」「おう」「カイシャク、シテオクカ」「……」メタルベインはスクラップの上に軽々と跳び乗り、双眼鏡を覗き込んだ。 35
2011-11-21 16:46:16遠方、スコープの視界に、うつ伏せに倒れ動かない黒髪の少女が映る。そのすぐそばの地面に墓標めいて突き立ったカタナ!「おう、おう」メタルベインは頷いた。「ゾッとしねェな。よく見えんが、感染したあのガキに近づくと俺もアレなんだろ」「恐ラク」「当たり前だがカイシャクはお前に任せるぜ」36
2011-11-21 16:51:48メタルベインはスクラップの上で手首インジケータを見た。「磁」の一つが明るく灯り、もう一つが点滅状態だ。「あまり川からお前を離すと正確なデータにならんのだろ。戻るか」「……」「生き返って来ようが、手の内の知れたニンジャ一匹だ。ガキのほうは片付いてる。気にするほどでも無かろうぜ」37
2011-11-21 17:11:49「イヤ、待テ」ナックラヴィーがメタルベインの言葉を遮り、耳に手を当てた。「ソノ中カラダ。離レロ」言ってか言わずか、直後、スクラップの奥からくぐもった振動がメタルベインの足元へ伝わってきた。「ザッ…」「!?イヤーッ!」咄嗟に地面に跳び降りるメタルベイン!「…ッケンナコラー!」38
2011-11-21 17:38:27直後、間欠泉めいて宙へ吹き飛ぶ二台の廃車輌!下から車輌を吹き飛ばしたのは、双眸を怒りに燃やしたネザークイーン!ゴ、ゴウランガ!なんたるニンジャ腕力かつニンジャ瞬発力か!?頭部からの出血で顔面は血みどろ、そして、その上半身は今、激しく発光している!ナムサン!これは! 39
2011-11-21 17:43:20「チィーッ」着地からバック転したメタルベインは頭上から降って来るケバブ屋台カーをキネシスで受け止める!「イヤーッ!」そして投げ返す!だがその時にはネザークイーンはメタルベインの目の前に殺到していた!ラガーマンめいた驚異的速度のタックルである!「イヤーッ!」「ウオオオッ!?」 40
2011-11-21 17:46:27一瞬!一瞬後、ネザークイーンはメタルベインの身体を掴み、抱え上げていた!「これはッ」メタルベインが呻く。実際背骨を折られるほどのグラップリングである。「テメェこれからどうなるかわかるか!?」ネザークイーンが叫ぶ。その上半身は激しく発光!これは廃車衝突のダメージの蓄積だ! 41
2011-11-21 18:00:25「ヤバイ!ナックラヴィー=サン!」メタルベインは叫んだ。言われずとも既にナックラヴィーはネザークイーンを背後から攻撃すべく駆け出している。だが間に合わぬ!「テメェの狼藉、返してやるッてンだよォー!」ネザークイーンの身体の輝きが!メタルベインに流れ込む! 42
2011-11-21 18:04:01「ヤバ、アバッ……」KRATTTOOOOOOOOOMM!! 膨れ上がる巨大な白い火球!「グワーッ!」叫んで後ろへ吹き飛ばされたのはネザークイーン自身だ!その身体は煤け、煙を吹き上げている。なんたる荒技かつ蛮勇!言わばこれはゼロ距離のエネルギースリケン射出!それも極大出力だ! 43
2011-11-21 18:34:51……爆発が晴れた場所、砕けたアスファルトに転がる不完全な人体有り。両脚、腰、肋骨の一部。それ以外の箇所は消失している。すなわちそれがメタルベインの残骸であった。ナムアミダブツ……!「ザッケンナコラー……」ネザークイーンは首を振って起き上がる。そこへ進み出るナックラヴィー! 44
2011-11-21 19:15:13「テメェに用があるんだよクソ野郎」ネザークイーンはミシミシと音を立てて己の拳を握り込んだ。そのニンジャ装束はVの字の輪郭で焼失しており、鋼めいた胸板と腹筋が露出していた。「ヤモトどうしてくれた」「……」ナックラヴィーは無言でカラテを構えた。アンデッドらしい全くの無感情である。45
2011-11-21 19:31:17ネザークイーンはゆっくりと間合いを詰める。否、ほとんど無防備に歩みを進める。一歩。二歩!「ヤモトどうしてくれた」「……」ナックラヴィーも摺り足でじりじりと近づく。「……どうしてくれたって訊いてんだよ!」ネザークイーンが弾丸めいた勢いで飛び出す!「ザッケンナコラァァー!」46
2011-11-21 19:51:28(第二部「キョート殺伐都市」より:「フィジシャン、ヒール・ユアセルフ」#5、終わり。#6へ続く) 47
2011-11-21 19:52:29