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admiral_rinrin
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そういえばですね、落語の演目で『はてなの茶碗」というのがあるんです。これがね、「物の価値とは以下にして生まれるか」というのが大変わかりやすく描かれている。その上で、それが理解できない者の滑稽さもある傑作なんですが、まぁ簡単に話しますとね?
2023-09-25 12:49:49
作家のはしくれでございます。「戦うパン屋と機械じかけの看板娘」(HJ文庫)全10巻。「剣と魔法の税金対策」(ガガガ文庫)全6巻「機動戦士ガンダムSEED ECLIPSE(ストーリー担当)」ガンダムエースにて連載中です!
『はてなの茶碗のあらすじ』

ああ、わかりやすく、数字と構成はちょっと変えます。 正確に知りたい方は原典を当たってください。 寄席に見に行ってもいでしょう。 ええっとですね、舞台は京の都の茶屋から始まります。
2023-09-25 12:50:40
あるところに、天下一と言われる茶器の目利きがおりました。この男が「ふむ」と一声言っただけで、どんな茶器でも10両の値がつくと言われています。 そんな目利きが、ある日街の小さな茶屋で、お茶をすすっていたところ、その茶器を手に取り「はてな?」と首をかしげました。
2023-09-25 12:52:12
それを見ていた行商人の男、「あの目利きがあんな顔をするなんて、さてはあの茶器は隠れた逸品で、とんでもない掘り出し物であるに違いない」と、目利きが帰った後、その茶器を買い取ります。
2023-09-25 12:53:09
渋る茶店の店主に、なけなしの一両を押し付け、半ば無理やり買い上げる。 一両は高額ですが、売れば10両で大儲けと思ったわけです。さっそくあちこちの茶器の店に持ち込みますが・・・・売れません。
2023-09-25 12:54:14
「とんだ大損だ、どうしてくれる!」と、この行商人、何を思ったか、当の目利きの男の店に怒鳴り込みました。目利き、「はい?」とまったくわけがわからないという顔でしたが、人のいい男だったので、話を丁寧に聞き、「ああなるほど」と得心すると、答えます。
2023-09-25 12:55:21
「その茶碗はですね。どこにも穴も空いてない、ヒビも入ってないのに、なぜか中身のお茶が染み出すんですよ。なので『なんでかなぁ』と首を捻ってたんです」と。要は、ただの不良品の茶碗だったわけです。 10両どころか、10銭でも売れません。
2023-09-25 12:56:30
がっくり落ち込む行商人、「俺はなけなしの一両をはたいたんだ。これじゃもう仕入れも出来ない」それを見た目利きの男、人が良かったので、 「いいでしょう、ならばこの茶器、私が2両で買いましょう」と。
2023-09-25 12:57:37
「そもそも、私の目利きの腕を見込んでくださったようなもの。ほってはおけませんよ」と、元手の一両に加え、手間賃の一両で、合わせて二両。 不良品の茶碗の代金で考えれば破格どころの騒ぎではありません。行商人は何度もお礼を言って帰っていきました。だが、
2023-09-25 12:59:25
これで話は終わりません。 目利きの男は天下一と呼ばれる男です。 付き合いのある人達も相当な上流階級。 大店の主に、大名のお殿様。 そしてお公家の方々、そんな一人に五摂家の一つ鷹司家の方がおられました。
2023-09-25 13:02:25
ある日、鷹司の家に茶器を納めに参った目利き。 当主様と世間話もいたします。 「なにか最近おもしろいことはなかったか?」と問われ、「ええ、それが」と先の茶碗の話をいたしました。
2023-09-25 13:03:53
それを聞いて大笑いする鷹司様。 「せっかくだ、それを見せてたもれ」とおっしゃる。 こんなこともあろうかと持ち込んでいた目利き、それを渡す。 「おうおう、ホントにヒビもないのに漏れておるのう」と笑う鷹司様。 で、「ふむ、一つ思いついた――」
2023-09-25 13:05:12
この鷹司様、大貴族でありますが、別の名声もありました。それは「天下一の歌人」です。 茶碗の話を聞き、インスピレーションが湧いたのか、それをテーマとした歌を一首読み上げます。 さてそうなると話は変わります。
2023-09-25 13:06:34
「あの鷹司様の最新ソングのテーマとなった茶碗!」ということで、皆が「見たい見たい!」と目利きの店に訪れるようになりました。 そのムーブメントは凄まじく、町人どころか武家お公家、そしてついに・・・・宮中にまで届きます。
2023-09-25 13:07:45
「朕もそれを見てみたいものだ」そう、天子様のお耳にまで届いてしまった。 そしてついに、その手に届く。 やはり漏れ出る茶に、「これはおもしろい」とお笑いになった天子様。 天子様にご高覧あそばすわけですから、当然裸では持ち込めません。
2023-09-25 13:12:03
桐の箱に入れ、赤毛氈を敷いて持ち込まれました。 その箱に、天子様は興が乗ったのか、一筆書かれます。 「はてな」と。 この箱書きがなされたことで、不良品の茶器は、天下の名物「はてなの茶碗」になってしまった。
2023-09-25 13:13:19
そうなるともう騒ぎは全国規模です。 もはや売り物になりません。文化財ですから。 なので代わって「管理権」すなわち、「その名物を自分のところで管理保全する権利」が高額で取引されるようになります。
2023-09-25 13:14:14
百両千両と値が上がり、ついには天下一の大商人、鴻池屋が、「一万両でウチで預かる」と現れました。 かくして、10銭にもならない茶碗は、一万両の大名物になったわけです。 現在の価値で言うならいくらですかね? まぁ億は下りません。
2023-09-25 13:16:00
一万両を手にれた目利き、だが彼は底からお人好しでした。ことの発端の行商人を探し出すと、「元はと言えばあなたのおかげなんですから」と、一万両の半分、五千両を分けると言い出す。 一生かかっても拝めない大金に、泡吹いて倒れそうになる行商人。
2023-09-25 13:19:01
金を受け取り、大喜びで帰る行商人を見送ると、目利きは「さてと」と、濡れ手に粟で手に入れた大金なのだから、パーッと使ってしまいましょうと、店の使用人たちに臨時ボーナスを配り、取引先やご近所さんを招いて大宴会をもよおし、大盤振る舞いします。
2023-09-25 13:21:34
一通り終わった後、五千の金は、わずか二両だけ残っていました。 あの日、行商人から買い取った金額と同じです。 「ああ、なるほど、ちょうどもとに戻った」と笑う目利きでしたが、そこに再び行商人が現れる。
2023-09-25 13:22:35
「旦那、儲け話を持ってきました!」と。 なにを言っているのかと首をひねる目利きに、行商人は両手で抱えても余るほどの大ガメを見せます。 「これなら百万両の値が付きましょう」 おあとがよろしいようで。
2023-09-25 13:27:01