銃器小話~アメリカの対戦車ライフル~

大口径のM2重機関銃は有名な一方で「対戦車ライフル」のイメージは薄いアメリカ軍。でも実際色々試すだけ試してはいたんですね、というおはなし
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えすだぶ@C102日曜東3"ア"-33a @FHSWman

1939年からアメリカで開発された60口径(15.2mm)T1対戦車ライフルは「50口径より強力だけど37mm対戦車砲より軽くて、装甲車と軽戦車の中間程度の相手(1.25インチ≒32mm装甲)に500ヤードで対抗できるものが欲しい」という微妙な隙間要求の産物なのね。でも後に太平洋で戦う事になる相手を思うと丁度… pic.twitter.com/QlIgPubkCz

2023-10-17 17:06:40
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えすだぶ@C102日曜東3"ア"-33a @FHSWman

ちなみに60口径という微妙なサイズは、この要求を達成できる一番軽くて効率的な銃の規模を50口径から80口径まで試算して導き出された物だとか。ただそれと同時に20mmソロターンを買ってきたり、さらに23mm(90口径)試作航空機関砲の地上転用なんてのも並行して試していた様子

2023-10-17 17:10:17
えすだぶ@C102日曜東3"ア"-33a @FHSWman

なおこの手の大口径対戦車銃が試される前には50口径の強化が色々試されていたようです。いつもの50口径重機の軽い強装薬化から、互換性のない専用薬莢による1000m/s級、果ては20mm薬莢と組み合わせた1200m/s級まで。でも小口径の宿命で、近距離で貫通力は出ても距離が延びるとすぐ威力が落ちる、と

2023-10-17 20:44:33
えすだぶ@C102日曜東3"ア"-33a @FHSWman

ただし実際のところ60口径T1対戦車銃は散々でした。1940年の最初の試験では、32mm装甲を500ヤードどころか100ヤードでも貫通できない。これが厄介なことに威力不足ではなく、そも弾道が不安定すぎて横転弾になり装甲にまっすぐ当たっていない。当然精度も劣悪。弾には不均一な施条跡が見られる等々

2023-10-17 17:20:58
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そも60口径対戦車銃の15.2x114mm弾薬はかなりピーキーな代物でした。この口径で77.7gなので鉄球比5.4という超大重量弾で、それを1050m/sとかで投げる。ソ連の14.5mm対戦車銃より更に半周りほど強烈な代物です。ただの高初速ならともかく、大重量弾かつ高初速ってのはテッポウ/大砲として大変キツい pic.twitter.com/5dOHYGriIa

2023-10-17 17:26:42
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あんまりにも上手くいかないせいか、1940年9月には開発担当が変更されたり、改良型のT1E1ではライフリングをより深くしたりと、弾薬についても薬莢の首を厚く強化したりテーパーを変えたりと弄り回すも……結局1943年5月には「もう今更この程度の武器は要らんよね」ということで対戦車銃版は中止

2023-10-17 17:37:01
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ただこの60口径対戦車銃の大重量超高速弾が米陸軍航空軍の目に留まり、(あの死屍累々の)60口径航空機関銃開発に繋がる、と。大戦期米軍の航空機関銃開発はとにかく高初速と短い弾道経過時間による命中率の高さを志向している雰囲気があるので、確かに対戦車ライフル弾はピッタリではありますが……

2023-10-17 17:42:22
えすだぶ@C102日曜東3"ア"-33a @FHSWman

60口径航空機関銃は当初は20mmイスパノをベースに始まるも、やがてドイツの15mm MG151を元にしたT17に移行する。これがまた酷い事になる……んですが、コピーの失敗云々以前に、まず「大重量超高初速の対戦車ライフル弾を高発射速度で連射する機関砲」なので根っ子から難易度がアホ高いわけです pic.twitter.com/JWzLu6YM8l

2023-10-17 17:48:29
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ちなみにイスパノ20mmの60口径版は銃身等の交換で20mm仕様とも互換可能にする予定だったようです。MG151/15とMG151/20みたいな事をイスパノでやろうとしてた訳ですね。銃としては20mm級サイズの15.2mm機関銃なわけなので、小型軽量化ではなく超高初速を得るのが目的の小口径化だともわかります

2023-10-17 17:52:30
えすだぶ@C102日曜東3"ア"-33a @FHSWman

単発の自動対戦車銃としてさえピーキー過ぎて難しいような強烈な弾薬を、ベルト給弾式で発射速度600発/分とか以上の航空機関銃として作ろうというのはそりゃ当然難しいし、大戦中の短期間で成功まで持っていけないのも無理もないわよね感がつよいです

2023-10-17 18:02:18
えすだぶ@C102日曜東3"ア"-33a @FHSWman

なお60口径超高速弾の高発射速度航空機関銃という方向性はかなり望まれていたようで、T17の系譜は物凄い数の派生試作があったり。他にもエリコン系なり、さらに戦後はリボルバーカノンやらガトリングでも試作され続け、最終的にはあの傑作20mm M61バルカンに血が繋がって苦労が報われる事になります

2023-10-17 18:12:18
えすだぶ@C102日曜東3"ア"-33a @FHSWman

Cal.60 T1E1対戦車銃って給弾もだいぶ妙な事になってますわね。保弾板が銃身と同じ高さでなく真上に来てる。多分ここから弾を一旦後ろに引き抜いて一段下がって装填という流れかしら。イラストとか描くとツッコミが入りそうで、でも実際それで筋が通っているという厄介そうな感じ pic.twitter.com/Aka5plp6bS

2023-10-17 19:52:01
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えすだぶ@C102日曜東3"ア"-33a @FHSWman

開発時期を思うと保弾板式なのも一見妙ですが、これは60口径弾薬が1発あたり270gだかになると思うと納得かも。写真の5発、8発保弾板でも装填状態では一塊2kg前後とかになってしまう訳で。下手に容量のある箱弾倉とかベルトなんかにしてしまうと歩兵が手早く扱える重さでなくなってしまう pic.twitter.com/FKZ1vRfdDb

2023-10-17 20:08:35
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えすだぶ@C102日曜東3"ア"-33a @FHSWman

少し話が出た90口径(23mm)対戦車銃はこんな。目標の32mm装甲は貫通出来たものの、本体のみで77kgと重い、かといって銃身をバラして運ぶと組み立てが面倒、三脚が華奢すぎる、元航空機関砲だから全自動射撃機能があるけど要らんのでもっと軽くして等々、「対戦車銃」としては難アリ過ぎで採用されず pic.twitter.com/cXCZKoRCdx

2023-10-17 18:35:40
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えすだぶ@C102日曜東3"ア"-33a @FHSWman

なお90口径(23mm)対戦車銃の元になった90口径T4航空機関砲は、元を辿ればブローニングの37mm M1高射機関砲に行き着くようです。となるとエアラコブラやらの37mm航空機関砲とも親戚関係にあることになりますわね pic.twitter.com/nkNGKIGE5I

2023-10-17 18:52:02
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えすだぶ@C102日曜東3"ア"-33a @FHSWman

ともあれ「対戦車砲と重機関銃の間」に対して大戦期米軍では様々な規模の銃で挑んでみたものの、単に威力を上げていく方向性では口径や初速のバランスをどう選んでも、結局クソデカ無理銃になるのを避けられませんでした。このニッチには投射能力だけでなく弾頭の改善も併せるのが歴史の正解でしたわね pic.twitter.com/2xugbW4MXw

2023-10-17 19:08:04
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えすだぶ@C102日曜東3"ア"-33a @FHSWman

や、弾頭の改善が正解だったというのは、対戦車銃に限らずに対装甲兵器すべてに当てはまる話ですわね。ただ対戦車銃は規模が小さい分だけ限界も早く来やすく、大砲より一足先に「次の一手」が必須になってしまったというか

2023-10-17 19:14:36