稲川淳二の『つぶやき怪談』(2023.10.23)

稲川淳二 @Junji_Inagawa

（・・・・そうか、この人物か・・・・・。 という事は、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

毎晩タミさんのところへやって来るその奥さんというのは、 既に死んでる人なんだ。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

話し相手もなく、 寂しくて訪ねて来るという事は、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

このままにしておいたら、いずれはタミさんも、 あっちの世界へ連れていかれてしまうかも知れない。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

これは本当にまずい事になったぞ、どうにかしなくっちゃ）

稲川淳二 @Junji_Inagawa

まさかとは思ったが、さすがにゾーッとした。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

で、その足で、氏神様へ行って、 魔除けのお札を、何枚も買って帰ると、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

タミさんには内緒で、 家の戸口やら台所、便所に、座敷に、天井に、 と至るところに貼り付けた。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

（さあ。これでもう、大丈夫だろう） と思ったものの、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

どうにも不安で、その日、蒲団に入ってからも、 なかなか寝つけないでいた。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

（・・・・あれだけお札を貼ったんだから、 怨霊は家に入って来れないだろうし・・・・、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

いや、どこかに隙でもあって、 そこから入って来たらどうしよう・・・・。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

それとも、お札を貼られて、中に入れずに怒り狂った怨霊が、 とんでもない事をしなけりゃいいが・・・・）

稲川淳二 @Junji_Inagawa

と、思い巡らしていたんですが、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

夜の１１時を回った頃に、 とうとう我慢出来ずに起き出して着替えると、 こっそり様子を見に行った。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

やって来ると、タミさんの家は、明かりもなく、 シーンと静まり返っている。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

（怨霊は、あきらめて帰ったろうか？ それとも、まだこの辺りの闇に潜んで、 機会を窺っているのかも知れない）

稲川淳二 @Junji_Inagawa

と思うと、背筋の辺りがゾクゾクしてきた。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

足音を忍ばせて、庭に回ると、縁側に身体を伏せるように、 腹這いになって、腕を伸ばすと、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

障子を少し開けて、そっと覗いてみた。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

かすかな月明りが、障子をとおして射し込む、 薄暗い座敷が見える。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

と、壁の鏡台に向かって、 髪を梳かしている老婆の後ろ姿が、目に入った・・・・。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

（ああよかった、別に変った様子もないし）

稲川淳二 @Junji_Inagawa

と、安心して帰ろうとしたんですが、 （それにしてもタミさんが、 鏡台に向かって髪を梳かしてるなんて珍しいなァ・・・・）

稲川淳二 @Junji_Inagawa

と思って見直すと、（？！）