佐藤俊樹氏の「数値」と「エビデンス」

「これだけわかれば全部わかる、「エビデンスと数値」の話!」
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佐藤俊樹 @toshisato6010

【「数値」と「エビデンス」その1】 どうやら新著とも関連あることが巷で話題になっているようなので。宣伝がてら、簡単に解説しておきます。題して「これだけわかれば全部わかる、「エビデンスと数値」の話!」です(^^。

2023-11-03 17:15:23
佐藤俊樹 @toshisato6010

[0] 一番重要なことから述べます。それは「数値」と「エビデンス」は同じものではない、ということです。どうやらそもそもここで誤解がかなり生じているようですが、ここを誤解すると全部ふっとびますので、十分に注意してください。つまり、数値でないエビデンスはちゃんとあります。

2023-11-03 17:15:48
佐藤俊樹 @toshisato6010

また、エビデンスにならない数値もまたあります。重要なのは、数値かエビデンスかではなく、先行変数の統制(要因統制)の有無です。先行変数を統制していれば、事例でもエビデンスです。先行変数を統制していなければ、数値でもエビデンスではありません。

2023-11-03 17:16:06
佐藤俊樹 @toshisato6010

[1] 事例研究でも計量研究でも、因果の同定手続きそれ自体は同じです。事例研究の方から解説しましょう。 ある事例Sにおいて、観察者が「X1が原因になってYという結果が生じた」という因果を同定した場合、そこには「もし仮に、他の条件が同じでX1だけがなかったとすれば、Yは生じなかった」

2023-11-03 17:16:23
佐藤俊樹 @toshisato6010

という意味が必ず含まれます。 そしてそれは、「X1以外は全てSと同じで、X1だけを欠いた事例S2があれば、その事例ではYは生じない」と仮定することと同義です。つまり、「もし仮に、他の条件が同じでX1だけがなかったとすれば、Yは生じなかった」と考えることは、それ自体が、

2023-11-03 17:16:42
佐藤俊樹 @toshisato6010

「X1以外は全てSと同じで、X1だけを欠いており、Yが生じていない」事例S2を仮想的に想定することになっているのです。 仮想的にせよ現実のデータにせよ、この「X1以外は全て同じ」ものとの間で比較するという操作が、「要因統制」すなわち「先行変数の統制」にあたります。

2023-11-03 17:17:11
佐藤俊樹 @toshisato6010

ですので、事例研究でも因果を主張するかぎり、要因統制と等価な操作はしていますし、エビデンスもあげています。そして、観察者自身が自覚しているかどうかにかかわりなく、反実仮想もしています。社会学者のなかには、、当事者または観察者(である自分自身)が

2023-11-03 17:19:31
佐藤俊樹 @toshisato6010

反実仮想を意識していないから、反実仮想による因果同定はしていない、と考えている方がおられるかもしれなませんが、事例S2にあたるものを具体的なデータで示さないで、「X1によってYが生じた」という因果を主張することそれ自体が、反実仮想になっているのです。

2023-11-03 17:20:03
佐藤俊樹 @toshisato6010

また、「自分は因果をあつかっていない」と考えている方もおられるかもしれませんが、実際には、因果特定にあたる命題なしに、社会学の観察は成り立ちません。例えば、計量データ上の相関も、社会学的に具体的に解釈する際には、双方向での因果の特定をすることになります。

2023-11-03 17:21:41
佐藤俊樹 @toshisato6010

[2] 「エビデンスと数値」の話で、本当に知っておく必要があるのはこの一点だけです。これだけわかっていれば、何も誤解はおきませんし、誤解した議論は誤解だとすぐにわかります。 例えば、事例研究でも必ずエビデンスは主張されています(←「されている」です、「望ましい」ではありません)。

2023-11-03 17:22:51
佐藤俊樹 @toshisato6010

「X1以外は全てSと同じで、X1だけを欠いており、Yが生じていない」事例S2を想定しているからです。言い換えれば、Sに関する事例研究で因果を主張する場合は、つねにもう一つの事例S2を仮想しており、その仮想的なS2の調査結果にあたるものをエビデンスとしておいています。

2023-11-03 17:23:35
佐藤俊樹 @toshisato6010

そのことは、そうでない状況をそれこそ想定すれば、わかりやすいでしょう。「もし仮に、他の条件が同じでX1だけがなかったとすれば、Yは生じなかった」と考えなければ、つまり、「X1以外は全てSと同じで、X1だけを欠いており、Yが生じていない」事例S2を仮想的に想定しなければ、

2023-11-03 17:24:03
佐藤俊樹 @toshisato6010

「X1がYの原因である」と主張しても、すぐに「なぜX1以外の、X1と同じくYに対して時間的に先行しているX2やX3が原因だとはいえないのか?」という疑問が出てきます。それに応えようとすれば、「X1以外は全てSと同じで、X1だけを欠いており、Yが生じていない」事例S2にあたる何かを、

2023-11-03 17:24:51
佐藤俊樹 @toshisato6010

主張せざるをえないのです。 なお、ここで因果の内容について言及しても同じことになります。「因果の内容上X2やX3が原因だとはいえない」としても、それは「因果の内容上X1と重なる他の変数Xiは存在しない」ことにはならないからです。したがって、

2023-11-03 17:25:50
佐藤俊樹 @toshisato6010

Yに時間的に先行する、膨大な事象X1、X2、X3、……のなかからX1を原因だと特定するためには、「X1以外は全てSと同じで、X1だけを欠いており、Yが生じていない」事例S2を仮想するしかないのです。(この仮想自体は因果の内容とは無関連であることも付け加えておきます。)

2023-11-03 17:26:02
佐藤俊樹 @toshisato6010

[3] こうした応答は他人に対して開かれているコミュニケーションの場では必ず生じます。この点も日本語圏ではよく誤解されているらしく、文科系の学術の因果同定手続きの独自性を主張される方は、ほとんどが「他人」や「コミュニケーション」をよく持ち出されますが、

2023-11-03 17:26:34
佐藤俊樹 @toshisato6010

他人に対して開かれているコミュニケーションの場だからこそ(←「こそ」です)、「なぜX1以外の、同じくYに時間的に先行するX2やX3が原因だとはいえないのか?」という疑問に答えなければならず、それゆえS2という仮想事例を仮定せざるをえないのです。

2023-11-03 17:27:09
佐藤俊樹 @toshisato6010

ちなみに、文科系の学術の因果同定手続きの独自性を主張される方が、論文審査をする場合でも、全く同じことが起きています。具体的にいえば、「(哲学者あるいは当事者の)AさんがBだと考えたのはCによる」という形の命題なしに、哲学史も社会学の事例研究もできませんが、そうした主張を審査者・

2023-11-03 17:31:43
佐藤俊樹 @toshisato6010

被審査者どちらかがすれば、全く同じことになります。 つまり、事例S2の仮想のような先行変数の統制をしなければ、他人に対して因果の主張を論証できないのです。裏返せば、他人に開かれていない、独我論的な状況では、どんな因果関係も同定できます。誰からも疑問や反論が来ないか、

2023-11-03 17:33:35
佐藤俊樹 @toshisato6010

来ても無視できるからです。 『社会学の新地平』序章では、この他人への開かれのことを、「私たちは世界を因果という形で観察している。それにもとづいて自分がどうするかを決め、他人にこうしてほしいと求めている。だからこそ、個々の出来事や事象に関わる因果をどのように特定できるのか、

2023-11-03 17:34:11
佐藤俊樹 @toshisato6010

それにどの程度信頼性があるのかがとても重要になる。これは科学的厳密さ以前に、他人に対する誠実さの問題なのだ」と述べています。これとほぼ同じ内容のことを、ウェーバーも文化科学論文の第二節で述べています。それらに関しては、[7]で述べます。

2023-11-03 17:34:28
佐藤俊樹 @toshisato6010

【「数値」と「エビデンス」その2】 [4] では事例研究と計量分析はどこがちがうのか。これも簡単です。 計量研究では「X1がある事例群SG1」と「X1はないが、それ以外は同じである事例群SG2」との間で、Yが生じた比率のちがいを測ります。二つの事例群の間で比率の差があれば

2023-11-03 20:17:40
佐藤俊樹 @toshisato6010

(統計学的にいえば「有意ではないとはいえない」差があれば)、X1とYの間に因果関係があると判定します。二つの事例群のうち、少なくとも一方には複数個の事例があるので(そうでないと「計量」とはみなされません)、比率の差という数値がエビデンスになります。

2023-11-03 20:17:57
佐藤俊樹 @toshisato6010

なお厳密にいえば、事例研究でも事例SでのYの出現比率は1、仮想事例S2でのYの出現比率は0だとみなせます。ですから、出現比率の差を本当は測っているともいえます。ただ、日常的な言い方では、こうしたものは「数値」と呼ばないので、「数値でないエビデンスはちゃんとあります」

2023-11-03 20:18:15
佐藤俊樹 @toshisato6010

ということができ、それゆえ、事例研究で因果が主張される場合には、そのような「数値ではないエビデンス」があげられている、ともいえるわけです。 他方、計量分析であっても、「X1がある事例群SG1」と「X1はないが、それ以外は同じである事例群SG2」との間のものでなければ、どんなYの出現比率を

2023-11-03 20:20:34