「松本城のお堀が汚いから水全部抜きたい」発言に反論した城塞考古学者の千田先生に田村淳氏から反論のレスが→千田先生がさらに「なぜ水全部抜きたい企画が現実的でないか」を丁寧に解説する流れに

なるほど、水を全部抜く前にさまざまな課題をクリアする必要が
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田村淳さんが文化放送の番組で「松本城のお堀の水が汚い」と発言したことを受けて、城塞考古学者の千田嘉博先生が反論したお話

千田嘉博_城郭考古学 @yoshi_nara

田村淳さん、誤解しています。湧水を水源にした松本城の水堀は透明度が高く、堀底の土が見えているのです。汚くありません。さらに石垣の基礎に胴木を用いた松本城の堀の水を安易に抜いてはいけません。「田村淳、松本城のお堀が汚すぎて『池の水ぜんぶ抜く』に企画を提案」 jtame.jp/jtame/119382/

2023-11-26 10:09:36

後日、田村さんから千田先生に返信が

田村淳 @atsushiTSK

はじめまして田村淳と申します。 考古学者の千田さんからSNSを通じて名指しでのご教授痛み入ります。石垣の基礎に胴木を用いてる為、お堀の水をなかなか抜くことが難しいと…大変勉強になりました。ありがとうございます。そしてお堀の水は湧水を使用してるから綺麗であると…僕も何度か松本城に足を運んでいるので、その事は知っていましたが、湧水は綺麗でもヘドロが堆積量が多く臭いがあるお堀は汚いと捉えているので、ラジオの生放送でそう発言しました。 松本城のヘドロの堆積量はかなり多く、水深が低く、お堀の上から見てもヘドロが見れる程ですので、かなりの堆積量だと思われます。ヘドロ中の酸素がなくなると無酸素で働く微生物が有機物を分解し、その時にメタンとか硫化水素が発生するようです。メタンは無臭ですが、硫化水素は卵の腐ったような臭いがするのだと専門家の方に教わりました。 実際、何度も池やお堀のヘドロの中でその臭いを嗅いでいるのでわかります。臭いです。ですから僕はお堀の上澄みだけが綺麗な状態を綺麗だとは表現至しません。いろんな事情はあるようですが、ヘドロを少なくしたいという思いから、予算を立てて松本市が浚渫という形で対策をはじめてるのだと認識しています。 池の水を抜く番組は水を抜くだけでなく、きちんと専門家を入れてヘドロを吸い上げるという作業もしてるので、その辺りも知って頂きたいなぁと思います。 今回、千田さんはラジオの切り取りニュースを引用されてますが…しっかり文化放送を聞いてからの発信なのでしょうか?切り取りのネットニュースだけで、脊髄反射的に投稿されたのだとしたら大変残念に思います。松本城は好きなお城ベスト10に入るほど僕も大好きなお城です。せっかくの機会ですので、今回の千田さんの投稿と切り取りのネットニュースだけを見て、僕に対し罵詈雑言飛ばしてるお城マニアのみなさんに向けて、松本市の返礼品無しのふるさと納税で、松本城維持に貢献しようと呼びかけてもらえると嬉しいです。僕はふるさとチョイスを使用してます。 松本城の浚渫工事が進み綺麗で凛々しい姿になることを祈っていますし、千田さんとネット上ではなく直接の対話する機会があることを願っています。長文失礼致しました。                   田村淳

2023-11-27 11:58:36

以下、田村さんの返信を受けて千田先生がさらに詳しい解説を投稿

千田嘉博_城郭考古学 @yoshi_nara

田村淳さん、メッセージありがとうございます。すでに田村さんが同じ趣旨のお話をこれまでもしておられていて、以前よりご意見を存じ上げておりましたのでコメントいたしました。 twitter.com/atsushitsk/sta…

2023-11-27 18:59:42
千田嘉博_城郭考古学 @yoshi_nara

田村さんもご承知の通り、松本城の堀の水は湧水を起源にしていて、堀の水としては汚れていません。それどころか全国的に見てもきれいな水をたたえていて、松本の人々が誇りに思う水堀になっていると存じます。

2023-11-27 19:07:49
千田嘉博_城郭考古学 @yoshi_nara

それが汚れた水のように誤解されるのは、水の透明度が高いので堀底の堆積物まで見えているからです。つまり水が問題ではありません。そして堀底の堆積物を含めて国指定史跡の範囲なので、通常一般の池とは法的な取り扱いが異なります。

2023-11-27 19:13:12
千田嘉博_城郭考古学 @yoshi_nara

水を抜いたり堆積物を浚渫するには、当該史跡の管理団体になっている自治体が組織し、文化庁も認めた専門委員会が必要な審議を行い、史跡の保護を前提に、県教委と文化庁調査官から助言を得て、適切な工法を決定するのが最初のステップです。

2023-11-27 19:20:10
千田嘉博_城郭考古学 @yoshi_nara

適切な工法を決定するために、事前に堀底の形状や堆積物の歴史的価値を明らかにする発掘調査を行うこともあります。史跡松本城跡として本質的価値をもつ堀底の堆積物と判断した場合は、ただの堆積物としての掘削や土砂の廃棄はできません。適切な工法の決定には、こうした検討を含みます。

2023-11-27 19:25:23
千田嘉博_城郭考古学 @yoshi_nara

そして国史跡松本城跡として、こうした工法に関して法的に有効な検討と判断を行うことができるのは、史跡の管理団体である自治体が設置した専門委員会だけです。残念ですが番組の専門家の判断は、文化庁の現状変更許可を得るための根拠にはなりません。

2023-11-27 19:31:01
千田嘉博_城郭考古学 @yoshi_nara

つまり番組の専門家が検討するから松本城の堀の水を抜いて大丈夫と考えるのは、国史跡の保存管理の手続きとしては成立しません。それで工事が許可されることもありません。

2023-11-27 19:33:33
千田嘉博_城郭考古学 @yoshi_nara

このようにさまざまなな観点から、国史跡松本城跡の保存を前提に専門委員会が審議した結論を、県教委を通じて文化庁に進達し、文化庁が組織した専門部会と文化審議会での議を経て、ようやく水を抜くにせよ堀底を浚渫するにせよ、具体的な工事ができるのです。

2023-11-27 19:37:17
千田嘉博_城郭考古学 @yoshi_nara

国史跡松本城跡は、国民共有の貴重な文化財です。史跡内で何か(現状変更)をするには、述べてきたような厳格な手順を踏みます。例外はありません。結論として、管理団体が許可できる、草刈りなどの「軽微な現状変更」を除いて、テレビ番組が史跡内で工事相当の行為をするのは難しいといえます。

2023-11-27 19:46:47
千田嘉博_城郭考古学 @yoshi_nara

さらに松本城では、石垣の基礎に胴木を用い、国宝天守の基礎構造材が天守台石垣内にあると判明しています。単純に堀の水を抜くと、史跡の保存に強い懸念があります。この点も、史跡の管理団体が組織した専門委員会からはじめて、文化庁の許可まで、すべての手順を踏んで、判断しないといけません。

2023-11-27 19:55:21
千田嘉博_城郭考古学 @yoshi_nara

城を発掘すると、堀の埋土から多数の遺物を発見できます。そして堀の埋土から見つけた土器や陶磁器、木簡や鉄砲玉などは、城の機能と年代を確定する手がかりです。さらに水堀底の水性堆積物は花粉情報を含んでいて気候や植生を分析する重要資料になります。水堀の堆積物は歴史そのものなのです。

2023-11-27 22:24:56
千田嘉博_城郭考古学 @yoshi_nara

どこの城であれ、堀底の堆積物を適切な学術的手続きと調査なしに、水を抜いて取り除いてよいと考えてはいけません。それでは私たちが守り伝えたいと願う、城の歴史を失ってしまうからです。

2023-11-27 22:30:39
千田嘉博_城郭考古学 @yoshi_nara

もちろん城の植生や水堀の環境を適切な手順と調査にもとづいてしっかりと整備し、城跡の本質的価値を守って顕在化することはとても大切です。その点に異議ありません。だからこそ、これからも田村淳さんが城跡整備の問題提議を積極的にしてくださるのを期待しております。よろしくお願いいたします。

2023-11-27 22:39:52

生態学研究社の村山茂樹先生による「ヘドロ」の解説も

村山茂樹 @Clunio

この問題の背景として、日本語(共通語)の「ヘドロ」という語彙の非科学的な曖昧さを指摘しておきたいと思います。一般に「ヘドロ」とは有機物を多く含んだ軟泥を意味しています。 しかし、 twitter.com/yoshi_nara/sta…

2023-11-27 19:45:44
村山茂樹 @Clunio

承前 「有機物を多く含む軟泥」といっても内実は実は千差万別です。 例えば、富栄養化した水域でのプランクトンの死骸が沈殿したような、分解しやすい有機物を多く含む軟泥は、水塊の貧酸素化による水生動物の死滅、硫化水素ガスの発生による悪臭の発生など環境の悪化を引き起こします。

2023-11-27 19:51:55
村山茂樹 @Clunio

承前 しかし、植物遺骸に由来する難分解有機物の堆積による泥炭質の軟泥は、水質汚濁の原因にはなりません。軟泥質ではありませんが、例えば尾瀬ヶ原の湿原には大量の有機物が泥炭として堆積していますが、あれを汚染と呼ぶ人はいないでしょう。

2023-11-27 20:01:26
村山茂樹 @Clunio

承前 問題は、「有機物に富んだ軟泥」なら、今の標準日本語では、環境汚染的なものもそうでないものも、一律「ヘドロ」扱いされてしまうという事なのです。それに「市民教養」が引っ張られて、環境汚染的なものでなくても、「汚いヘドロ」という認識バイアスを生じがちなのです。

2023-11-27 20:06:44