アイヒマンは凡庸な役人だった? それも誤りである

アイヒマンは平凡な存在ではない
2
正木伸城 @nobushiromasaki

衝撃。ホロコーストを推進した重要役人アイヒマンは上の指示に思考停止で従う組織の歯車的存在だった――この理解に基づいて官僚的な人物を「アイヒマン」と非難する事がある種の様式美となっているが、それを「誤りだ」指摘するのが本書。アイヒマンは凡庸な役人だった? それも誤りである。彼は実は→ pic.twitter.com/criUasbgAL

2024-01-03 06:14:06
拡大
正木伸城 @nobushiromasaki

独自の判断も行っていたし時には上司の命令にうまく抵抗する優秀な組織人だった。その事はその後の研究が示していた! だからアーレントの「悪の凡庸さ」概念も多くは誤用されている。誰もがアイヒマンになり得る、アイヒマンはあなたである――そうも言われるが、アイヒマンは平凡な存在ではない。→

2024-01-03 06:18:38
正木伸城 @nobushiromasaki

たとえばアイヒマンは以前は「自らがしている事の重大性を分かっていなかった」とされてきた。が、現在の歴史研究ではアイヒマンが自らの輸送作業(ユダヤ人を強制収容所に送る作業)がもたらす帰結を理解した上できわめて効果的な輸送業務を遂行したことが明らかになっている。アイヒマンには自主性→

2024-01-03 06:19:30
正木伸城 @nobushiromasaki

もあった(この「自主性」の意味については色々な議論がある)。彼は何も考えずに輸送業務に邁進した訳ではない。アイヒマン=凡庸な役人説はナチズム・ホロコースト研究でもとうに否定されてきた。彼は、また少なくない役人たちは、自部の意思でユダヤ人迫害に加担した。いわば「自分の頭で考えて」→

2024-01-03 06:20:16
正木伸城 @nobushiromasaki

ホロコーストを推進した。実はアーレントもその事に言及している。「私たちすべてのなかにアイヒマンがいる、などということを私が言いたかったわけでは全くないのです」。アーレントも誤読されてきたのだ。では、アーレントのいう「悪の凡庸さ」概念はこんにちでは無効になってしまったのだろうか?→

2024-01-03 06:20:41
正木伸城 @nobushiromasaki

そこに関しては基本的に本書では「否」という立場が示される。たとえアイヒマンが官僚機構の中で自律的に行動していた人物だったとしても、大胆な言い方をすれば、悪の凡庸「性」のようなものが皆無だったとはいえない。大切なのは田野大輔氏の次の指摘である。「近代や現代を考える手がかりとしては→

2024-01-03 06:49:37
正木伸城 @nobushiromasaki

(「悪の凡庸さ」という概念は)重要性を失っていないと考えているのですが、むしろそれが取りこぼしているものを考えるためにこそ(「悪の凡庸さ」について考えることが)有効ではないか、という思いもあります。その有効性というのは、必ずしもその概念が現実をうまく捉えているかとはあまり関係が→

2024-01-03 06:49:50
正木伸城 @nobushiromasaki

ない、という印象です。どういうことかと言うと、歴史研究者としてはやはりホロコーストがどうして起こったのか、ということを説明するのが一番重要なのですが、そのときにこの(「悪の凡庸さ」という)概念がその現象をどこまで説明し、どこを説明していないのかというところが、私自身は何十年も気→

2024-01-03 06:50:01
正木伸城 @nobushiromasaki

になっている」。この意味で、アーレントの「悪の凡庸さ」概念は未だ有効だと。ただ、その概念を満額そのまま現実にあてはめようとすると弊害もあると。私もこの意見に賛同する。世間に流通している「悪の凡庸さ」概念の濫用は「〈悪の凡庸さ〉の凡庸化」を招いて厳しい現状を呈しているが、誤解は解→

2024-01-03 06:50:11
正木伸城 @nobushiromasaki

かなければならない。これも田野氏の見解である。人々は官僚的な歯車人を「アイヒマン」だと揶揄して「そして誰もがアイヒマンになり得る」と言って「悪の凡庸さ」概念を適切に使った気になっているが、それが言葉自体がクリシェ化していて問題がある。しかしその問題性は世間ではほとんど認知されて→

2024-01-03 06:50:24
正木伸城 @nobushiromasaki

いないし誤用も続いている。ここを正す意味でも本書には意義がある。とはいえ本書はさまざまな論者が異なる見解を示していてこの課題に対する応答はかなり難しい道程を必要とするだろう。だからこそまずは「悪の凡庸さ」を「問い直す」という角度から始めようというのが本書の立場だ。その観点として→

2024-01-03 06:50:36
正木伸城 @nobushiromasaki

私が個人的におもしろいと思った話を最後に紹介してこの連投を終わろうと思う。それは、アイヒマンをめぐる言論においてこれまで出て来なかった「忖度」という問題である。組織人は、時に自主的にお上に「忖度」して、お上の指示からさまざまな意図を読み取り、お上に先回りしてより良い対策などを施→

2024-01-03 06:50:47
正木伸城 @nobushiromasaki

す。その際に実行者は「最終的な責任はそれを指示したお上に責任がある」と考える。一方のお上はその実行者である「下の者」にこそ責任があると考える(場合がある)。この、上下相互の依存関係がホロコースト的な暴走を生み出したという話である。これは、私が「悪の凡庸さ」概念を使って記した拙著→

2024-01-03 06:50:58
正木伸城 @nobushiromasaki

『宗教2世サバイバルガイド』においても抜け落ちていた考えだし、現状の岸田政権の運用から大阪万博推進のありようなどを理解する上でも価値的な足がかりになる理解だと思う。このような問題提起をしてくれた本書に私は感動している。願わくは拙著の原稿が脱稿する前にこの本を読みたかった…。→

2024-01-03 06:52:22
正木伸城 @nobushiromasaki

以上は、『〈悪の凡庸さ〉を問い直す』田野大輔@tanosensei・小野寺拓也編著(大月書店)についての簡単な感想である。この本の良いところは、「悪の凡庸さ」批判をしながらもそれを活かす方途を摸索してさまざまな異論を掲載しているところだ。ぜひ一読してほしい。

2024-01-03 06:54:45
正木伸城 @nobushiromasaki

@tanosensei 拙連投、誤字脱字もある中、お読み頂けて嬉しいです。こういった知見が広まるのは、嬉しいですね。

2024-01-03 12:26:12