アトロシティ・イン・ネオサイタマシティ #2
マズダ兄弟はタロの言葉通り、ドンブリ・ポンから大人しく逃げ出した。凶悪なニンジャに変わりこそしたが、まだ素直さを保っている弟2人に、タロは少し安堵を覚えた。そう、少なくともこの日はまだ、マズダ三兄弟はタロとジロとサブロのままであったのだ……。 42
2012-01-13 00:37:12サスマタ・ストリートを滑るように走る、一台の黒塗り武装リムジン。車体の四方に太いアンテナが立ち、快適なIRC体験を約束する。車内後部では最新映画が3Dボンボリモニタで上映され、ウーファーの効いた刺激的な重低音が車外へと漏れ出している。床にはヤクザの死体と何十本ものバリキ瓶。 44
2012-01-13 00:51:23歯噛みしながら運転手を務めるのは、タロ。彼の偽ニンジャ装束は以前のままだ。後部座席には、正しいニンジャ装束に身を包んだグリーンエレファントとガスバーナ。2人はジロとサブロという凡庸な名前を棄て、自ら考案したニンジャネームを名乗っていたのだ。彼らは兄を完全に見下していた。 45
2012-01-13 00:52:19グリーンエレファントとガスバーナは各々、高級リアルオイランを膝の上に侍らせて抱きつかせながらスシを食い、3Dボンボリモニタの映画チャンネルを変えていた。手を動かす必要は無い。ジロは違法バイオLAN端子をインプラントし、車内エンタテイメントシステムとLAN直結しているからだ。 46
2012-01-13 00:57:20「もっとカネ欲しいな」とジロ。「いよいよ銀行、襲っちゃう?」サブロが楽しげに言う。「ワーオ!お前はイディオットか?山ほどの万札をどうやって抱えて帰るんだ?」とジロ。「ダンブで」「ダンプはどこに置く?」「家……アッ、入らねえや!兄ちゃん賢いね。じゃあ……そうだ!これ見てよ!」 47
2012-01-13 01:01:063Dボンボリモニタにはちょうど、サブロが大好きなアクション映画「ハッカー吸血鬼シドヤマ」が映し出されていた。「ハッカーだよ、兄ちゃん!ハッカーを脅して、カネを銀行口座に振り込ませよう!」「ワーオ!すげえアイディアだ!たしかこのストリートに、ハッカー・ドージョーがあったぜ!」 48
2012-01-13 01:05:00「確か、反対車線だっけな……運転手サァン!Uターン重点ね!」ジロが笑う。オイランが嬌声を上げた。「……ハイヨロコンデー」タロは屈辱と無力感と、何かよく分からない言葉にできない気持ちが入り混じった声で、Uターンを切った。「ケンリュウ・ハッカードージョー」が、すぐ前にあった。 49
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