実はかつて、イギリスでベイリーが巨匠扱いされていたのは、その当時のイギリスの読者の多くがこの「ベイリー回路」を備えていたってことなんじゃないかと思います。そう考える上で、キーになるのが、あれですよ。ベイリーの代表作としてつとに有名な(いや日本ではそうでもないか)あれ……
2012-01-26 14:21:13あれ、すなわちあの有名作品「知られざる殺人者(The Unknown Murderer)」です。これ第二短編集「Mr. Fortune's Practice」に収録ですから、かなり初期の作品なんです。これがね、問題なんだ、実は……
2012-01-26 14:24:57「知られざる殺人者(The Unknown Murderer)」は「フォーチュン氏の事件簿」に入ってるんで、読んでおられる方も多いと思うんですけど、いかがです? 代表作って言われて納得しますか?
2012-01-26 14:26:58実は「ベイリー回路」が出来る前の僕は、「知られざる殺人者」が代表作ってのには納得がいかなかったんです。ところが「回路」のある今読むと、この作品の良さがよくわかる。ディテールがキラキラ輝いているように見える。
2012-01-26 14:29:29ネタバレにならないように書くのは難しいんですが「知られざる殺人者」って要するに××××者ものなんです。で、この作品が発表されたころのイギリスの読者にとっては、相当なインパクトがあったんではないかな、と思うのです。それこそ多くの読者に「ベイリー回路」を刻み込んでsまうくらいに
2012-01-26 14:31:15「ベイリー回路」を備えている僕には「知られざる殺人者(The Unknown Murderer)」はすごい作品に感じられる。代表作? もちろんですよ。ベイリーの代表作ってだけじゃない。ミステリの歴史全体の中でも重要作品の一つじゃないですか、これは
2012-01-26 14:33:22たとえば、あのとっても面白い霜月さんの「アガサ・クリスティー攻略作戦」の「カーテン」の回(http://t.co/ru0K8lNc)で「知られざる殺人者」への言及がないことに僕はひどくもどかしい思いを感じてしまう。これはそういう作品なんですよ
2012-01-26 14:38:04でも、今のように××××キラーものなんt珍しくも何ともない時代の読者が「知られざる殺人者」を読んでも、昔のぼくみたいに「ふーーん、それで?」って感じるだけだと思います。もったいないぞーーー
2012-01-26 14:40:16そこで、もっとみなさんに「ベイリー回路」を身につけてもらいたい。そのきっかけになりうる作品はいろいろあるんですよ。ベイリーって、実は結構様々なパターンの作品を書いているので、誰でも、きっと一つくらい大ヒットがあるんじゃなかろうか
2012-01-26 14:41:53「翻訳道楽」のベイリー5篇も、そういう観点でセレクトした、バラエティに富んだ傑作選(のつもり)です。>>「翻訳道楽」セット(http://t.co/5uQDDHgz)
2012-01-26 14:46:01さて、ベイリーの魅力はどんなところにあるのか、僕はベイリーのどんなところを喜んで読んでいるのか、って話もしておきます
2012-01-26 14:56:06前に「翻訳ミステリ大賞シンジケート」で書かせていただいたとき(http://t.co/7ovpkUIQ)にも言ってるんですけれど、ベイリーってのは「人間はどれだけ酷い事ができるのか」ってことをずうっと書き続けた人なんですよね。
2012-01-26 15:02:51また「アガサ・クリスティー攻略作戦」なんですが、クリスティの重要テーマ「Evil」は、ベイリーの影響抜きでは語れないと思う。っていうか、ベイリーはイギリスミステリにおける「Evl」というテーマに形をあたえていった最重要人物の一人だ
2012-01-26 15:06:59「Evil」には様々な現れ方がある。たとえば「知られざる殺人者」はまさに「Evil」の権化のような人物だ。「ゾディアックス」では、金銭的利益のために誰かを犠牲にできる、というよりも犠牲になる人間が存在することをいとも簡単に無視してしまうことができる、という「Evil」が語られる
2012-01-26 15:13:42「黄色いナメクジ」もすごい。これは家庭の中の問題を扱っていて、狂信的な信念に凝り固まった親は、子どもにどれほどのことを押しつけることができてしまうのか、っていう話。
2012-01-26 15:16:10「小さな家」もすごいぞ。過去の恨みの憂さ晴らしのために××を×××××にしてしまうって話。これ、はっきりいって心臓がばくばくいっちゃうくらいむごい話です
2012-01-26 15:18:25「聖なる泉」は「××××っ子」の話なんだけれど、これ、親の愛のはずだったのに、どこで捻れてしまったのか……ってな話で、どこかで間違ってしまった愛は「Evil」にもなり得るって話なんですよね
2012-01-26 15:22:49『家具付きコテージ』(翻訳道楽002)は、フォーチュン氏が、過去に解決した事件の関係者につけねらわれるという話で、先の読めない展開をするんですが、最後の最後に、過去に封印されていた手紙の込められたむきつけの悪意には慄然とさせられます
2012-01-26 15:28:58『隠者蟹』(翻訳道楽003)も、展開が読めない話で、いやなおばさんをやっつけろ!ってな感じの、殺人も起きない明るく楽しい話なんですが、このおばさんがね、実に卑しい。やられ役が見事に卑しいんで、実に気持ちよく読めるという……ベイリーらしーーい傑作ですねぇ(汗
2012-01-26 15:32:59『ライオン・パーティ』(翻訳道楽004)も殺人抜き、宝石泥棒を扱った息抜き篇なのですが、パーティに呼ばれた人物たちがどいつもこいつも一癖ある俗物だらけ。まさに俗物図鑑。で、ここにも実に卑しい人物が出てきます。いやらし~~~い奴なんだけど、フォーチュン氏のおかげで報いを受けます
2012-01-26 15:37:06『おとなしい女』(翻訳道楽005)では、巻頭「人はなぜ犯罪を犯すのだろう?」と問われたフォーチュン氏が「うぬぼれですね…虚しい虚栄心…人の命を左右できる力を証明したい。そのためにはどんなことでもする…」てなことを答える。これが見事に事件の真相に呼応してくるのです。うまい!
2012-01-26 15:43:52これが『壊れたヒキガエル』(翻訳道楽006)では、フォーチュン氏の「献身……自己犠牲……人を惑わせる危険な美徳だよ。そのせいで最悪の恐怖が引き起こされる……」てな発言があり、この高踏的な(けっこうイヤミな)発言が滑らない結末を迎えるわけだ
2012-01-26 15:48:42今の読者は第一短編集「フォーチュン氏を呼べ」が日本語で読めるから、すごく恵まれていると思います。でも実は「フォーチュン氏を呼べ」を最初に読んで欲しくはないかな(汗。
2012-01-26 15:51:42第一短編集「フォーチュン氏を呼べ」は、「ベイリー回路」が出来てからなら、どれもとっても面白くよめるんだけれど、まだ「回路」の無い人に「回路」を刻みつけるような傑作は無いような気がする……
2012-01-26 15:52:00