小話集2

小話まとめ
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「当たり」

森猫アキラ @Shinbyou_A

買った林檎飴の棒に赤い印があった。当たりだ。次は橙色が出て綿菓子を貰う。黄でチョコバナナ。緑でお面。お面の青いシールで水風船。藍色の風船を引いたので金魚を渡され、金魚の目が紫だったから屋台を貰った――と、目が覚めた。 お面の子が林檎飴を買いに来ている。手元で紫の目の金魚が揺れた。

2012-03-07 21:10:44

「宇宙船」

森猫アキラ @Shinbyou_A

落ちた宇宙船を発見したのは少年だった。宇宙人に船を直す材料を頼まれ、彼は持ってきたまち針に胡椒を仕込む。哀れ宇宙人は離陸直後に悪巧みに気づかされた。地球を侵略に来た奴を倒したと母に告げる彼は、その母が既にエイリアンに乗っ取られているとは気づかない。宇宙人がそれを倒しに来たことも。

2012-03-08 19:59:31

「勇者様」

森猫アキラ @Shinbyou_A

勇者様、と騎士に跪かれてげんなりした。昔から私は人違いされやすいのだ。 「誤解です、私は会社の事務員で」 「何を仰います」騎士は私に剣を持たせた。「その剣が装備できることこそ勇者の証」 ……やれやれ。まあいい。事務員としての私だって、数年前に間違えられてなってしまっただけなのだ。

2012-03-09 20:03:35

「行き先」

森猫アキラ @Shinbyou_A

時々、変な電車がそしらぬ顔でホームに止まる。遅刻寸前だったのでうっかり飛び乗ってしまった。 「逃げられるかな」 「無理だろうね。消化が始まったし」 「僕はこのシートになるのか。リアル人間椅子だ」 「窓には私の水晶体を使って。景色を見たい」 電車がどこに行きたいのか、誰も知らない。

2012-03-10 19:53:34

「そういえば」

森猫アキラ @Shinbyou_A

決算期、会社は大混乱だ。納品書足りない! そういえば台帳どこ? 確かこの辺にしまったはず。林立するロッカーを手当たり次第に開く――と、中に部長がみっちり詰まっていた。背後で主任が、そういえば部長どこ、と騒いでいる。そういえば僕がこの辺にしまったのだ。こっちにはないよと戸を閉めた。

2012-03-12 20:23:13

「化石」

森猫アキラ @Shinbyou_A

その地層は貴重な化石の宝庫だった。三葉虫にハルキゲニア、完璧な姿のアノマロカリス。教授のチームは憑かれたように調査を進める。化石には腐食も破損もない。あまりの美しさに漸く疑問を覚えた次の瞬間、岩を割った助手が息を呑み――そのままの顔で石になった。亀裂から、古生代のメドゥサが覗く。

2012-03-12 20:23:57

---------------30話-------------------

「廃駅から」

森猫アキラ @Shinbyou_A

廃駅からもうなくなった列車に乗り、合併で消えた村に行こう。そこは皆が生産中止になった服を着て型落ち家電を置き、サポート終了のパソコンで古い情報をやりとりする場所。「最新」に追い落とされた者たちはそこで静かに崩れていく。そしてまた、新しい彼女ができたからもういらないと言われた私も。

2012-03-13 20:43:28

「琴」

森猫アキラ @Shinbyou_A

山積みの死体を前に、殺人鬼は息をついて額の汗を拭った。鉈を短刀に持ち替え、犠牲者の胸を裂く。取り出した心臓の奥を探り――あった。殺人鬼の指が慎重に摘んだのはキラキラ光る糸。それは犠牲者の心の琴線だ。何度も作業して集めた糸を張り、殺人鬼は血染めの爪の先で楽を奏でる。さくら、さくら。

2012-03-14 21:03:18

「楽譜」

森猫アキラ @Shinbyou_A

曲の世界に入れる友人がいた。荒城の月で一杯やったりさくらさくらで花見をしたりと聞けば羨ましいが、先日はやつれきってヴェクサシオンから帰ってきた。それどころか、姿が見えないので家に行くと、机にサティのタンゴの楽譜が載っていた。永遠に続くダル・セーニョ。……会うことは二度とあるまい。

2012-03-15 20:45:17

「残れない」

森猫アキラ @Shinbyou_A

その利用者は恋の書を捜している。司書は目的の本の詳細を尋ね、程なく気づいてかぶりを振った。 「それはありません」 「何故、ここなら」 「それは貴方が書く筈で、しかし書かれなかった恋文です。記されなかったものはこの図書館にも残りません」 服がパサリと床に落ちる。利用者は消えていた。

2012-03-16 21:03:09

「集会」

森猫アキラ @Shinbyou_A

月の宵、いつも猫がいる空き地で色彩の集会を見た。炎の赤・陽だまりの橙・警戒色の黄・森の緑・空と海の青・反物の藍・高貴の紫。手足を混ぜ新色を作る楽しい集会が、突如一変した。 「焦げろ!」 「消毒だ、可視光線など一部にすぎぬのにいい気になりおって」 外された赤外線と紫外線が降り注ぐ。

2012-03-17 19:25:42

「鳥の覚悟」

森猫アキラ @Shinbyou_A

鳥が自分の胸を嘴で刺して死ぬ。一斉に始まった奇行に人々は驚き怯え、空に迫るものに気づいたのは最後の一羽が己の心臓を破ったあとだった。鳥は昔の屈辱を繰り返すつもりはなかった。かつて恐竜であった頃、彼らは隕石に苦杯をなめさせられた。此度同じ目に遭うくらいなら死んだ方がましだったのだ。

2012-03-18 20:05:26
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