osake_kushamiさんによる「Andre Green」

2012年1月22日に没したフランスの精神分析家アンドレ・グリーンについて。日本語でこのようにまとまった情報はたぶん今までなかったのではないかと思います。
心理
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Ikeda Akifumi @osake_kushami
【AGその1】2012年1月22日にこの世を去ったアンドレ・グリーンを偲びいろいろと見返していたら、2004年来日時の講演を聞きに行った際の簡単なメモが出てきた。そのメモの紹介を中心に、これから何日間か時間のあるときグリーンについて呟いていきたい。
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【AGその2】その過程で、ある方から頂いた質問にも答える予定。途中で脱線することもあると思うので結構長いツイートになるかもしれない。便宜のため【AGそのX】と見出しをつけて置くつもりだが、他ならぬ私自身が書き忘れてしまうかもしれない。
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【AGその3】A・グリーン (享年84) は、先年亡くなったジョイス・マクドゥーガルと並びフランスのIPA (International psycho-analytical association) 系を代表する精神分析家。そしてフランスを超え、現代IPAを代表する知性であった。
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【AGその4】ちなみにマクドゥーガルには『身体という劇場』(創元社) という心身症 (←ここ重要!) の精神分析的理解について描いた名著があるが、現在は品切れの模様。http://t.co/cbSkOiAG
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【AGその5】A・グリーンは1924年エジプトのカイロ生まれ。父方はポルトガル系、母方はスペイン系に起源をもつユダヤ人で両親ともにセファルディ。当時のカイロは、英国とフランスとを中心に複数の国家の利権が複雑に絡み合う国際都市であり、彼はそこでフランス語を母語として育った。
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【AGその6】ちなみにセファルディとは、中世にポルトガルとスペインとに居住したユダヤ系の人々。キリスト教徒からの迫害により、1492年にスペインから、1497年にポルトガルから追い出されたという歴史をもつ。
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【AGその7】1945年、18歳となりバカロレア (大学入学資格) をパスした彼は、第二次大戦の終結とともにパリへ渡る。しかし大学は彼の知的好奇心を満足させる場ではなかった。そのときに出会ったのが精神分析であった。程無く彼は「精神分析こそアートだ」と、今後の人生を決めた。
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【AGその8】1955年にジャック・ラカンと出会った彼は、その後ラカンのセミネールに出席し、彼と行動を共にするようになる。パリ精神分析協会の分裂騒動に際しても、彼自身ははパリ精神分析協会に留まりつつ、なおラカンを支持し続けた。
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【AGその9】しかし1967年には意見の食い違いが表面化し、1970年までに2人の関係は完全に決裂した。主な論点は、A・グリーンにとって生涯のテーマの1つであった情動 (affect) の問題を巡ってのものであった。
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【AGその10】同様にかつてはラカンと行動を共にしたものの、後にIPAに移った著名な分析家として、ディディエ・アンジューがいる。彼はラカンに将来を嘱望され、ラカン自らの訓練分析を受けていた。ところがあるとき、衝撃の事実が発覚する。
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【AGその11】アンジューの母親がラカンの学位論文『人格との関係からみたパラノイア精神病』(朝日出版社) http://t.co/7e8HAVSg に登場する症例エメその人だったのだ。ラカンがこの事実を知っていたかを巡って2人の意見は対立し、彼はラカンの下を去る。
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【AGその12】ディディエ・アンジュー (1923-1999) の著作は少なくとも3冊が邦訳されている。『皮膚‐自我』 http://t.co/chV2oAbI 『集団と無意識』http://t.co/eN9IoNQJ (以上、言叢社)。『分析的心理劇』(牧書店・絶版)。
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【AGその13】比較的日本にも紹介されているマクドゥーガルやアンジューに較べて、A・グリーンの邦訳は『母子臨床の精神力動』(岩崎学術出版社) http://t.co/KYD3UUu5 に「死せる母」論文の抄訳がある程度。正直これだけ読んでもほとんど理解不能だろう。
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【AGその14】一方でグリーンは1957年、パリで開かれた国際大会でウィニコット及びビオンにも出会っている。グリーンの精神分析的思考には、ラカンも含めたこの3人、取り分けウィニコットの影響が強い。そして勿論フロイトである。
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【AGその15】これはグリーンだけでなくフランスのIPA系の人達に比較的共通して認められる特徴なのだが、彼らはフロイトの経済論、即ちリビドー論を重視している。これは所謂アングロサクソン系の精神分析との大きな違いである。
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【AGその16】対象関係論は「欲動から関係へ」と舵を切り、ハルトマン以降の自我心理学はエスの影響を受けない自律自我を採用し、共にリビドーの備給/脱備給というフロイトの精神分析の特徴である曰わく云い難い混沌とした概念を脱中心化した。これが英米の精神分析にある種の明解さをもたらした。
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【AGその17】しかしフランスの分析家たちは経済論を放棄することを拒否した。ここに精神分析の本質があると見做したのである。ラカンの「フロイトに還れ」という自我心理学批判は有名だが、IPA系の分析家たちもフロイトまで直に遡って考えることを当然のこととしていたのである。
Ikeda Akifumi @osake_kushami
【AGその18】従って前述の「死せる母」論文にも備給/脱備給が頻出しており、これがこの論文を多くの人にとってかなり取っ付き難いものにしている。
Ikeda Akifumi @osake_kushami
【AGその19】そしてこの論文が難しいのには翻訳の問題もある。私は日本の精神分析の翻訳事情は全般的に哀しい程お粗末であると思っており、この翻訳が殊更酷い、と個別攻撃する気はないのだが、話の流れもあるので1箇所だけ具体的にみてみよう。
Ikeda Akifumi @osake_kushami
【AGその20】前述の『母子臨床の精神力動』(岩崎学術出版社)第13章「デッドマザー・コンプレックス」の読者が最初に躓くと思われるのが、子どもの死に起因する母親の抑うつが残された他の子どもに及ぼす深刻な影響について説明する以下のくだりである。
Ikeda Akifumi @osake_kushami
【AGその21】「具体的に言うと、そこでの原因は完全に隠蔽されたままであり、子どもがその原因を認識し、それについて遡及的な知識を得ることができたという痕跡は、秘密裏にされているという理由から明解にできないためである」(p.195)
Ikeda Akifumi @osake_kushami
【AGその22】一読して分かる通り、この文章が何を云わんとしているのかを理解することはなかなかに困難である。この部分を英語版(On Private Madness, Karnac)でみてみよう。
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【AGその23】"In particular there is a cause which remains totally hidden, because the manifest sings by which the child could recognize it,
Ikeda Akifumi @osake_kushami
【AGその24】and thus gain retrospective knowledge of it, is never possible because it rest on a secret"(p.149)
Ikeda Akifumi @osake_kushami
【AGその25】なんだか込み入った英文だが訳してみよう。「とりわけ、それによって子供がその原因を認識し、したがってその原因を回顧的に知ることができたかもしれない明らかな徴が、秘密にされているため存在し得ず、それゆえに、完全に隠蔽されたままの原因がある。」
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コメント

あくびこきぞう @akubi_kokizo 2012年2月22日
osake_kushamiさんのアンドレ・グリーン(フランスの精神分析家)についての一連のツイート、時間順にまとめなおしました(逆さまは読みづらかったですねえ。ごめんなさい)
あくびこきぞう @akubi_kokizo 2012年3月1日
osake_kushamiさんによる「Andre Green」のまとめ、完了しました。日本語でのまとめて読める解説は私は知らなかったので興味深く拝読しました。ありがとうございました。
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