山本七平botまとめ/『自己との苦しい戦いを回避して破滅した日本』

山本七平著『ある異常体験者の偏見』/マッカーサーの戦争観/198頁以降より抜粋引用。 (注)bot不調による抜けツイートがあります。次回呟いた時に修正予定。
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山本七平bot @yamamoto7hei

1】中村大尉事件は、満州事変の直前に、満州で中村震太郎大尉と井杉延太郎曹長の二人が何者かに殺された事件である。従ってはっきりと日本人に被害がある。<ある異常体験者の偏見

2012-02-27 09:26:36
山本七平bot @yamamoto7hei

2】もっとも殺人事件とか誘拐事件とかいうのはどこの国でも起ることであり、その被害者かたまたま日本人であったというなら、それはその国の刑事事件にすぎないわけだが、当時の「第六感」では、中国軍に虐殺されたらしい、ということで、それがひどく「世論」を剌激した。

2012-02-27 09:56:29
山本七平bot @yamamoto7hei

3】尤もこの問題は当時の人々には金大中事件より遙かに切実な危機感をもった事件だった事は事実らしい。一番ショックを受けたのは在満邦人で帝国の象徴である軍人が中国軍に虐殺されても政府が的確な処置をしてくれないのでは自分達やその家族の生命の安全は到底保証して貰えないと感じたのであろう。

2012-02-27 10:26:38
山本七平bot @yamamoto7hei

4】そしてそのショックは当然内地にも連鎖反応を起す。当時の人の思い出によると、満州問題についてそれまで比較的穏健な論説を張っていた朝日新聞が、これを契機に一挙に強硬論に変ったそうである。そうなると世論はますます激高し、ついに「中村大尉の歌」まで出来た。

2012-02-27 10:56:32
山本七平bot @yamamoto7hei

5】一方政府にしてみれば、何しろ犯人が明らかでないから動けない。 すると大森氏のいわゆる「内閣のヘッピリ腰」を難詰する「世論」はますますエスカレートした。こういうときは特に「世論」にあおられた「純真」な「青年将校」はもう手に負えなくなる

2012-02-27 11:26:42
山本七平bot @yamamoto7hei

6】従って彼らの目には常に「冷静」が「異端」に見え、自分同様に激高しない人間は、誰彼構わず決め付けるという事になる。しかもこういう若者が一個中隊位の兵力は動かせるのだから恐ろしい。従って冷静な人はロがきけない

2012-02-27 11:56:28
山本七平bot @yamamoto7hei

7】興奮の連鎖反応で国中が沸き返っているとき、やはり「第六感」があたっていた。もう始末におえない。そして柳条溝鉄道爆破から満州事変へと突入していく。これを後で見ると、非常に巧みな世論操作が行われていたように見える。

2012-02-27 12:26:37
山本七平bot @yamamoto7hei

8】というのは、この状態でもなお、関東軍の首謀者は「世論」の支持を四分六分で不利と見ていたそうだから、当然 #中村大尉事件 がなければ「世論」の支持は得られず、 #満州事変#張作霖事件 のような形で責任者の処罰で終っていたであろう。

2012-02-27 12:56:28
山本七平bot @yamamoto7hei

9】その為か、私が収容所にいた頃、「中村大尉事件」も軍の陰謀で日本軍の「密命」で中国軍が殺したのだろうと極論する人までいた。もちろん事実はそうでないのだが、「世論操作」という面でそう見たくなるぐらい、この事件が与えた影響は決定的であった事は否定できない。

2012-02-27 13:26:31
山本七平bot @yamamoto7hei

10】だがしかし、私はこの事件を「不幸なる偶然」というふうには見ない。というのは #中村大尉事件 であれ #金大中事件 であれ、事件そのものは一つの「突発事件」にすぎまい。そして、こういう事件は、もちろん全く予期せずに起り、予期せずに起るがゆえに「突発事件」なのである。

2012-02-27 13:56:28
山本七平bot @yamamoto7hei

11】そして、これが他国に起因する場合は、日本人自身がいかに心しても、日本人の意思で、その突発を防ぐことはできないわけである。そこで、昔も今も起ったように今後も当然起るであろう。

2012-02-27 14:26:34
山本七平bot @yamamoto7hei

12】従って問題は、そういう事件が起るということ自体にあるのでなく、むしろ、起った場合に、その「事件は事件として処理する能力」が、我々にあるか否かが、今我々に問われている問題だと私は思う。

2012-02-27 14:56:22
山本七平bot @yamamoto7hei

14】太平洋戦争中「アメリカ何するものぞ」といった激越な議論の根拠として絶えず引合に出されたのが「 #パネー号事件 」であり「自国の軍艦を撃沈されても宣戦布告すら出来ない腰抜けのアメリカに何ができるか」と「バカの一つ覚え」のように言われ、今でも耳にタコが出来ているからである。

2012-02-27 15:56:26
山本七平bot @yamamoto7hei

15】これは南京攻略のとき、揚子江上にいたアメリカの砲艦パネー号を日本軍が撃沈し、レディバード号を砲撃した事件である。奇妙なことに最近の「 #南京事件 」の記事からは、このパネー号事件は完全に消え去っているが、当時はこれが最大事件で「スワ!日米開戦か?」といった緊張感まであった。

2012-02-27 16:26:31
山本七平bot @yamamoto7hei

16】話は横道にそれたが「主権の侵害」というのなら、交戦状態にない他国の軍艦を一方的に撃沈してしまう事は、撃沈された方には実にショッキングな「主権の侵害」であり、艦船をその国の主権内にある領土同様と見るなら一種の侵略であって、これの重大性は到底 #金大中事件 の比ではない。

2012-02-27 16:56:27
山本七平bot @yamamoto7hei

17】今もし韓国によって日本の自衛艦が砲撃され撃沈されたら、一体どういう事になるか。 #金大中事件 ですらこれだけエスカレートするのだから、恐らく「日韓断交型」の「世論」の前に他の意見はすべて沈黙を強いられるであろう。それと等しい事件の筈である。

2012-02-27 17:26:34
山本七平bot @yamamoto7hei

18】だが当時アメリカはそういう態度に出ず「事件は事件として処理した」。 これを日本の「世論」は「笑いころげずにいられないアメリカ政府のヘッピリ腰」と断定した。

2012-02-27 17:56:24
山本七平bot @yamamoto7hei

19】これは日本政府がそういう態度に出れば、これを弱腰と批判するその基準で相手を計った事を意味している。それが対米強硬論の大きな論拠となるのであり確かに日本の世論が方向を誤る一因となっている。個人であれ国家であれ問題の解決が非常に難しいのは、寧ろ「相手に非」があった場合であろう。

2012-02-27 18:26:31
山本七平bot @yamamoto7hei

20】この場合の我々の行動は常に激高して自動小銃にぶつかるか、始めから諦めるか、激高に激高を重ねて興奮に興奮した挙句、自らの興奮に疲れ果てた子供の様にケロッと忘れてしまうかの、いずれかであろう。

2012-02-27 18:56:25
山本七平bot @yamamoto7hei

21】もっとも「飛び出すか、泣き寝入りか」といっても、これは相手が「強い」か「強い」と見たときの態度である。そしてその時は自分の言葉は無視されるものと決めて、どちらの行動に出ても無言である。

2012-02-27 19:26:29
山本七平bot @yamamoto7hei

22】一方相手に「非」があり、しかも相手が弱腰とみればこの逆の態度になり、相手の言い分は全く無視して、「 #中村大尉事件 」のようになる。また相手が「アクシデントはアクシデントとして処理」すれば、これを相手の屈伏と誤解して居丈高になる。

2012-02-27 19:56:24
山本七平bot @yamamoto7hei

23】一民族の行き方は、結局は各個人の行き方の公約数のようなものだから、基本的には両者には差はないであろう。しかし我々が、過去において大きな過誤をおかしたと本当に考えているなら、 #金大中事件 の処理は、その過誤を修正する最も良い一つのテストケースであろう。

2012-02-27 20:26:41
山本七平bot @yamamoto7hei

24】この事件すら冷静に処理できないのならば、過去における日本の行き方を批判する資格は、今の日本人にもないということになるであろう。

2012-02-27 20:56:39
山本七平bot @yamamoto7hei

26】ではこの問題について、一体我々に何か明確な原則があるのであろうか。恐らくないであろう。原則がないということは「中立」という概念がないことである。いうまでもなく中立とは原則の側に立って自己と戦うことであり、この自己自身との戦いぐらい苦しい戦いはあるまい。

2012-02-27 21:26:28
山本七平bot @yamamoto7hei

27】スイスの大統領が第二次大戦直後に消耗のあまり死んだという話を聞いたが、中立というのは、元来、一人間を消耗のあまり殺してしまうほどの苦しい戦いの筈である。それと比べれば、銃をもってとび出す方が、また自動小銃に体当りをくらわせる方が、はるかに安易である。

2012-02-27 21:56:23